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七十話 巨大なゴーレムつくりました!


「うお! こりゃまたすごい量だ!」


 大きなゴブリンであるエレヴァンは、世界樹の麓に積まれた岩の山を見て、声を上げた。


 先程倒した浮遊する丸いゴーレムから得た、五種の石の集まりだ。


「それぞれの特性はおおむね把握しました。いやはや、しかしそんなものがあろうとは」

「こんな石でつくったゴーレムがいるって知れれば、誰も襲ってこなくなりそうっすね」


 アシュトンとハイネスも驚いたような顔をして、石の山を眺めていた。


 俺は今、この武闘派の三名、それにバリスとリエナを加えて、世界樹の麓の円卓を囲んでいる。

 この石をどう使うか、皆で議論するためだ。


 早速皆に、魔防石を砕いたものを食べるよう勧めてみた。魔法への耐性がつくこの石は、食べることができるのだ。


 が、なかなか誰も口をつけない。マッパ以外は……

 

 なので、俺が先陣を切って口にしたが……


「うげえ……」


 一齧りしただけで、口中に苦みが広がった。

 これはリエナが、あとで上手い調理法を考えてくれることになった。


 そんな後、バリスが俺に言う。


「これだけあれば、結構な数のゴーレムがつくれそうですのう」

「ああ。防衛以外の用途のためにもつくっていいと思う。まあ、まずは防衛のためのゴーレムだな」


 ゴーレム作成の際、もっとも大事なのはやはりどんな魔法を覚えさせるか。

 魔導石に、どんな魔法を刻むかだ。


 今までつくったゴーレムには、シールドという身を守る魔法を覚えさせている。

 今回も、同じようにするのがベストだと思うが……


 そういえば、あの浮遊していたゴーレムたちはどんな魔法を覚えていたのかな?

 光線みたいな魔法を使っていたが……


 というか、どうして彼らは浮遊していたのだろう?


 石に浮遊する特性を持つものはなかった……そういえば、魔導石が偽心石の倍、200個ぐらいだった。


 つまり一体のゴーレムに複数の魔導石を埋め込んでいたのだろう。


 一つは光線、もう一つは浮遊……というわけか。


 飛ぶ魔法……俺もこれを覚えていれば、更に色々作れたんだがな。


 とはいえ、まずは無難にいこう。

 すべては安全第一を優先でいくべきだ。


「俺としては、シールドを使えるゴーレムをもう少し作成しようと思う。魔吸晶と魔防石で、魔力の耐性も付けてな。小さめに作って、他の採掘するやつのための護衛にするつもりだ」


 俺が言うと皆頷く。


 その後、コボルトのアシュトンがこう呟いた。


「いい案かと。開拓地の外側にも、いくらかつくってくだされば嬉しいのですが」

「もちろんそのつもりだ。それも考えて、この護衛のゴーレムにはもう一工夫加えようと思う」

「もう一工夫ですか?」

「ああ。もう一つ魔導石を使って、威嚇用の魔法でも積ませようと思ってな」


 もちろん文字通りの威嚇だけには、魔導石はもったいない。

 有事には当然、防衛戦力となるような魔法を覚えさせる。


 今までのゴーレムは皆、シールドの魔法と、盾だけを扱わせていた。

 一応、剣ももてるようにはなっていたが。


「なるほど。キラーバードやサタン貝などの退治もできますな」

「そういうことだ」


 俺が言い終わると、アシュトンの弟、ハイネスが口を開く。


「ヒール殿、それについて俺からも一つ提案があるんですが」

「なんだ、ハイネス?」

「水中にもゴーレムを配置できないかなって思って。ほら、サタン貝とかシザークラブとか海中からやってくるのも多いでしょう? 最近奴らが怖くて、あまり潜らせる漁はさせてないんっすよ」

「なるほど……海中は盲点だったな。とりあえず一体つくって、海中でも動かせるか見てみよう。動くようだったら、シールドと彼ら自身も漁ができるように攻撃魔法も覚えさせるか」

「ありがとうございます! これで、また牡蠣が食えます! せっかく見つかると思ったら、あのカニや貝がやってきちまって……ああ、よかった!」


 ハイネスは牡蠣が好きなのか。俺も好きだが、ここでも獲れるとは。


 はっはっと息を荒くするハイネスに、兄であるアシュトンは呆れたよう顔をした。


「あれだけ腹を壊しておいて、まだ牡蠣が好きだというのか……そもそも私的な欲のために提案するとは」

「ま、まあ俺も牡蠣食べたいしな。サタン貝も美味いが、他の貝も食べたい」


 俺がフォローするようなことをいうと、ハイネスは「ですよね!」と声を上げた。


 俺はうんと頷く。


「食材が増えれば、その分暮らしも豊かになる。それに海中の安全を確保するのは、うっかり忘れていた。いい案だよ。他に、何か提案はあるか?」

「大将! 俺にもいい案がありやす!」

「エレヴァンか。どんな案だ?」

「超巨大なゴーレムを一体つくりやせんか? 世界樹よりも高いやつを!」


 このエレヴァンの提案には、リエナが口を挟んだ。


「将軍が大きいもの好きなのは分かりますが……そんなものつくってどうするのです?」

「え、えっと、そりゃ……」

「第一、太陽を遮ってしまうでしょうし、せっかくつくった埋立地が沈む可能性だって……」


 バリスがリエナの声にうんと首を縦に振った。


「重ければ重いほど、埋立地の石も傷つくでしょう。現実的ではありませんな」

「そ、そうすっよね……はははっ」


 恥ずかしそうに笑うエレヴァン。

 だが、全く意味のない提案ではないと思う。


「いや、エレヴァン……それは俺も思っていたことだ」

「ええっ!?」


 皆は俺の発言が意外だったようで、目を丸くしている。

 提案者のエレヴァンですら、驚いていた。


「た、大将……あんたやっぱ優しすぎやすって……いくら、俺の顔を立てようとしてくれるにしたって」

「いや、そうじゃないんだ。ちゃんと、意味があるように思えたんだ」

「意味?」


 俺は首を傾げる皆に向かって説明する。


「公国船の件、皆覚えているよな?」


 サンファレス王国の実質的な属国、バーレオン公国。

 その船が、このシェオールの沖合に現れた。


 リエナはうんと頷く。


「はい……そのために、防備が必要ということも」

「ああ。だからこそ、シールドだけでなく攻撃魔法も使えるゴーレムをつくる……強力な戦力を揃えるんだ。だがもう一つ、防衛の手段がある」


 皆うーんと難しい顔をする中、バリスがぼそりと言った。


「敵に、攻撃をためらわせること……ですかな?」

「そうだ。王国人はどこかに侵攻する時、必ず敵の防壁や塔を調べる。それがあまりに立派だったら、戦いをやめることもあるんだ」


 俺が言っても、エレヴァンは首を傾げていた。


「それはわかりやすが……それと巨大なゴーレムをつくるのに何の関係が?」

「別にゴーレムでなくても良かったんだが、どうせつくるならと思ってな。もし、この世界樹と同じ高さの人工物を見たら、エレヴァンはどう思う?」

「……すごいなって思いますね。あ、そうか!」

「ああ。こんなのをつくるやつは、きっととんでもないやつら……そう思うだろう」

「なるほど! でかければでかいほうがいいってことだ!」

「そういうことだ。まあ、バリスたちが言うように、地上に配置するには色々不便だし、怖い。そこで、海に置いてみようと思ってな。皆、どう思う?」


 俺の声に、皆うんと賛成してくれた。


「それじゃあ、まずは海中のゴーレムをつくってから、早速巨大なのをつくってみるか!」


 この後、水魔法を覚えさせた消防ゴーレムや、火魔法を使い、熱に強い鍛冶屋ゴーレムなど実用的な案もでた。


 それらと護衛ゴーレムをつくることを決めたが、今後のためにも30個程の偽心石、60個程の魔導石を中心に、石は残すことにした。


 その後、俺は沿岸から海中にゴーレムを作成し、海を進ませてみる。


 マッパに助言を求めた所、魚のような絵を描いてくれたので、その図面通りつくった。


 魚のような形だけあって、海中の動きは早い。

 人間のような大きさなので、結構な威圧感もあった。

 また、ヒレが大き目で、陸に上がれるようになっているようだ。


 名前は十六号。形式名は、潜水ゴーレムとでもしとくかな。


 海中でもゴーレムは動けるのが判明したので、次は巨大なゴーレムをつくろう。


 まあ海中といっても、浸かるのは足だけ。

 人間でいえば、くるぶしの上から露出させるかたちにするつもりだ。


 俺は主だった者たちと、小舟で少し埋立地から離れた場所に向かう。


 すると、同じ舟に乗ってたエレヴァンが言った。


「大将。どんな形にするかは決まってんですか?」

「ああ。こっちはまあ、いかにも強そうな男の像にしようと思ってな」

「それなら……俺の像なんて、どうです!?」


 このエレヴァンの提案に、フーレが声を荒げる。


「ちょっと、勘弁してよ! 恥ずかしいし、第一こういう像って一族で一番偉い人がモデルにされるもんだよ!」

「そ、そうか……じゃあ、俺の体に、大将の頭を……」

「気持ち悪いから、ダメ!」


 親子で争う二人。


 だけどそれを言っちゃ、俺も像になるのは恥ずかしい……

 しかも、なかなか自分の顔やら体を外から思い浮かべられないよな……


 絶対ダメというフーレに、エレヴァンも渋々、分かったというのであった。


 とはいえ、エレヴァンの案だけにちょっと可哀そうにも思う。あの筋肉は、エレヴァンの自慢のものなのだから。


「じゃあ……体だけ、エレヴァンにしてみるか? 顔は適当に、神殿の像みたいなのにするよ。それなら、フーレもいいだろう?」

「まあ。それなら……」


 フーレがなんとか承知すると、エレヴァンは泣いて喜ぶ。


「た、大将……この御恩は一生忘れやせん! 今、とびっきり格好いいポーズを取りますんで!」

「ああ、頼む」


 エレヴァンは嬉しそうに、俺の前で斧を手に、筋肉を強調するような格好になった。


 それを写すように、海の中にエレヴァンを模した巨大ゴーレムをつくろう。まあ、ゴーレムなので、動かせばポーズは変わっちゃうだろうけど……


 と、素材はどうするかな……こいつはあくまで威嚇用だから、岩をベースにするか。世界樹ほどの高さともなれば、岩がいいだろう。

 見た目的には世界樹が一番高い方が良いから……それよりちょっと低いぐらいでいいかな。高さは、60mと……


 で、筋肉の盛り上がっている場所には金でも使ってあげよう。

 せっかくだから魔導石も使って、火魔法と一応シールドも持たせるか。


 斧は鉄とかにして、目の部分に輝石を集めて……一応の灯台になるようにしようか。


 欲張り過ぎかな……そもそも、こんなに大きいの作れるだろうか?

 まあ動かすことは想定してないので、足を太くして安定感を高めておこう。


 最悪、改造というかたちで小さくすることもできるし。


 とはいえ、失敗して崩れたら危ない。

 崩れた衝撃で波が来たら、魔法で返さないと。

 付近の船は退避、島の皆には沿岸から離れさせているので、まずは大丈夫だと思うが。


 俺はシールドを展開しつつ、ゴーレム作成に備えた。


「よし、あとは形だけだな……」


 ゴーレムに使う材料を決めた俺は、最後に目を開き、エレヴァンの体で作成を念じようとした。


 が、そこには……


「こら、マッパ! 邪魔するんじゃねえ! モデルは俺だ!」


 エレヴァンの声が響いた時、俺はすでにゴーレム作成を念じていた。


「あっ……」


 だが、俺の目に映ったのは、エレヴァンではない。

 たった今割り込んできたであろう、白目を剥き、両手でピースをつくるマッパだった。


 海上に巨大な光が現れ収まると、そこには巨大なマッパの像ができあがっていた。

 白目を剥き、両手でピースをつくる……


 エレヴァンの天をも割く様な悲鳴が響き渡ったこの日、世界樹に続く、シェオールの第二の象徴が誕生するのであった。

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