六十九話 いっぱい採れました!
≪各熟練度が一定値を超えたため、紋章【洞窟王】をランク4にアップします≫
ランクアップか。
こいつを倒したことで、なにかしらの条件を満たしたのだろう。
≪採掘物自動回収の範囲を拡張、洞窟外でも採掘物に限り自動回収機能が使用できるようになります≫
とすると……
俺は試しに周囲の崩れ落ちた岩を回収してみた。
今まではせいぜい周囲に二、三歩ほどぐらいの範囲しか鉱石を回収できなかった。
しかし、今は、その倍の範囲の鉱石を回収できている。
これは嬉しい強化だな。
しかも、洞窟の外でも回収できるとは。
≪また、工房ランクを2にアップします≫
工房機能か……確か今は、石材、大理石材、砂しかつくれなかったな。
とはいえ、石材をつくれるだけでもこの島にはありがたかった。
島の周囲に広がる埋立地は、この工房機能のおかげでできあがったのだ。
……それで、何がつくれるようになったんだ?
≪追加された工房品目は、インゴット、ガラスです≫
インゴット……鉱石を製錬したものだ。
インベントリの鉱石類は、このインゴットを単位にカウントされている。
こちらはよく見る四角いインゴットだけでなく、様々な形に加工できるらしい。
つまり細い針のようにしたり、巨大な鉄塊にしたりとか……攻撃手段にもなるだろう。
ガラスも同様にただ何かをつくるだけでなく、色々と使えそうではある。
マッパでも難しいであろう、巨大なものをつくるのもいいかもしれない。
……鉄の塔とか。いや、夏とか大変か。
だが、どちらの強化も目新しさはないかもしれない。
マッパがいる今、インゴットは用意できるし。
それでも自分でいつでも作れるというのは、素直に喜ぶべきか。
俺の後ろから声が響いた。
「ヒール様、タラン! 二人ともやるぅ!」
声の主はフーレだった。フーレは俺に手を合わせるような感じで、肩を合わせる。
すぐ隣で香るフーレのいい匂いに、俺は恥ずかしさから少し身を引いた。
フーレはそんな俺には気が付かず、タランに親指を立てその働きを讃えているようだ。
「ふ、フーレ。怪我は……なさそうだな」
「私は大丈夫。後ろの皆も無事だよ!」
入り口の方からは十五号と魔物たちが手を振っていた。
拍手なんかも聞こえるので、俺やタランの勝利を祝ってくれているのだろう。
あれ……マッパは? あっ、あそこか。
マッパはさっそく岩の黒い欠片を集めているらしい。
あれでなにかつくるのだろうか。
「しかし、すっごくおっきかったね。残骸で小さな山ができちゃったし」
「ああ……誰がつくったんだろうな」
そもそも誰かがつくったという保証はどこにもないが。
俺はこいつが出てきた天井を見る。
しかし、暗視機能でよく目を凝らしても、ただの空間でしかなかった。
ここにずっと眠っていたってことだよな……
最初に倒した小さいほうでは敵わなかった。
だから、この大きなのがでてきたのだろう。
最初からでてこられたら危なかったかもな……うん?
俺の足元でスライムのシエルが、申し訳なさそうに体をぺこぺこと揺らしていた。
どうやら俺に謝ってるらしい。
「いや、シエル。魔法が効かない事を教えてくれて助かったよ。ありがとう」
俺が言うと、シエルは深く体を縦に振った。
「さて、それじゃあこの石や水晶を確認してみるか」
すでに周囲のものは回収してある。インベントリを見てみよう。
偽心石、魔導石……この二つは見たことがあるな。
偽心石はゴーレムの核となる青い石だ。
つまりは、この黒い岩たちもゴーレムの一種だったのだろう。
魔導石のほうは魔法を宿すことのできる石。
あの光線はこれによって放たれた魔法なのかもしれない。
そして見慣れない名が三つ。
俺はインベントリから、先程回収した黒い欠片を取り出す。
「魔防石……か」
≪魔防石……魔法への耐性がある石。可食性で生体に魔法への耐性をつけられる≫
魔法が効かないから、そんな石だとは思ったが……というか、可食って?
≪食べられる、という意味です≫
「た、食べられる!? 石を?」
「え? どういうこと?」
俺の声にフーレが首を傾げた。
「いや、この黒い欠片……魔法に耐性があるみたいなんだが……食べられるんだって」
「……まじ?」
フーレも黒い欠片を手に取り、感触や匂いを確かめる。
だが、水晶みたいな手触りと重さ。
とても、食べられそうには思えない……
しかし、遠くを見ると黒い岩にかぶりつくマッパが。
がりがりと食べているようだが……よくかみ砕けるな。
案外、簡単に砕けるのかも?
「これを食べる……」
フーレも挑戦しようと、黒い岩を口に近づけた。
しかし、すぐに首を横に振り、岩を下すのであった。
「フーレ……俺たちはあとでちゃんと水で洗って食べるとしよう。砕いてから食べる手もあるしな」
「そうだね……溶かしたりすれば、石だって分からないだろうし」
でもまあ、体が魔法に耐えられるようになるなんてな……
できれば、クリスタルのように使用を命じるだけにしてほしかったが。
ともかく、ゴーレムづくりに、皆に魔法耐性をつけるために、とても役立ちそうだ。
「あれ? でも、今倒した大きい奴、ちょっとだけ色違わない?」
俺はフーレの声に頷く。
もう一つの黒い物体。
これは最後に倒した大きなやつだけが持っていたのだが、
≪黒鉄……鉄よりも堅く、熱耐性がある≫
タランがピッケルで叩いても壊れなかったのは、黒鉄のようだ。
面白みはないが、堅いというだけで色々使えそうではある。
俺はフーレに答える。
「黒鉄っていう、まあただ堅いだけの金属みたいだな」
「黒鉄ね……それで、あの丸い水晶は?」
≪魔吸晶……魔力を一定量吸収、保管する石≫
「魔吸晶っていう魔力を吸収する石みたいだな」
「へえ、そりゃまたすごい石……だから、魔法が効かなかったんだね」
こちらも予想通りといえば、予想通りか。
魔防石は全ての魔法を防ぐとは言ってない。おそらくは、この魔吸晶の吸収する力もあって、俺の魔法を防げたのだろう。
とはいえ、相当な量を吸収していたな……
大きな奴の水晶だけ一際大きかったみたいだが、小さいのと同様に魔吸晶のようだ。今は粉々で見る影もないが。
大きさによって吸収できる魔力の量が違うのだろうか。だとしたらまた固めたりできればいいのだが。
そこらへんはマッパ次第かな。
「それにしても……すごい量だね」
「ああ。更に下を掘る前に、まずこれを回収するか」
これがあれば更に多くの、しかも強力なゴーレムを作成できる。
採掘はもちろん、地上でもより安全な防備を整えられるだろう。
この後、俺はスライムたちの力も借りて、周囲の岩を回収するのであった。