六十八話 強敵でした!!
「なんだ、あれは……」
俺たちが今しがた倒した黒い岩。
その十倍はあろう大きさの巨大な岩が現れたのだ。
「お、おっきい……こいつらの親玉かな?」
フーレが目を丸くしている内に、すぐにタランがその岩に飛び掛かる。
そして目にもとまらぬ速さで、四本のピッケルを叩きつけた。
が、全く岩には歯が立たない。
岩はそれに対し、中央の目の光を大きくする。
膨大な魔力が膨らむのが俺には分かった。
「タラン、離れろ!!」
俺が叫ぶのと同時に、タランはすぐに岩から身を離した。
と同時に、岩は全身に白い光に包まれ……
どんっという轟音と共に、爆風が周囲に広がった。
「フーレ、タラン、こっちだ!」
「う、うん!」
マッパとフーレはすぐに俺の近くへとやってくる。
タランのシールドを少しでも厚くするため、俺たちはまとまった。
それもあってか、俺のシールドは爆風を見事防いだ。
しかし、シールドごと体が押し出されそうな風圧に、俺はなんとか魔力を送り耐えようとする。
タランのほうは耐え切れなかったのか、シールドに包まれながら、球のようにこちらまで転がってきた。
「タラン、大丈夫か!?」
俺の呼びかけに、タランはすぐに姿勢を整え、体を縦に振った。
良かった……けがはないらしい。入り口の皆は……
後ろを見るが、十五号のほうも問題なさそうだ。
「しかし、とんでもない威力だな……」
少し前の俺と同じぐらいの魔力か。
爆発といっても火がついたわけではない。聖属性の魔法か?
フーレが頷いた。
「しかも、今のは周囲に放ってたからね……集中的に狙われたら……」
先程倒した岩が出した光線のような攻撃なら、確かに危ないな……
加えて、タランの攻撃が全く通用しなかった。
「タラン、あれは堅いか?」
俺の声に、タランは悔しそうに渋々頷いた。
「そうか……」
タランのピッケルは俺と同様、ミスリルが使われている。
腕力も攻撃の速度も俺より上のタランの攻撃が効かなかった。
確かに俺のほうが、ピッケルを振るのは上手いのかもしれないが……あの岩を砕くのは難しいと考えていいだろう。
「攻撃が通用するとすれば、あの中央の光る部分……いや、近づけないか」
先程のような攻撃が来れば、シールドで防げても吹っ飛ばされるのが目に見えている。
「だけど、あいつなかなか攻撃してこないよ。あ、また光った」
今度はきっと光線を放ってくるだろう。
「フーレ、マッパ、十五号の後ろに! シールドはかけておくが、フーレも一緒にかけておいてくれ!」
「了解!」
すぐにフーレとマッパは十五号のもとに走っていった。
一方の俺とタランは目を合わせ、互いに頷く。
タランはピッケルを全て地面に置くと、俺の近くへとやってくる。
俺がその背に乗ると、すぐに岩めがけ馬よりも速く駆け始めた。
速い……ピッケルを持ってない分、脚が多く使える。つまり速く動けるってことか。
同時に、岩も光線を繰り出してきた。
俺たちに後方から迫る極大の光線……奴の狙いを定める方が早いようだ。
しかし、もう少しで俺たちにあたるというところで、タランは大きく飛び跳ねた。
光線から大きく離れたところで着地するタラン。
が、すぐにまた光線が目の前に迫る。
そこからのタランの動きはすさまじかった。
右に左に、壁に天井……ぴょんぴょんと飛び跳ねるのだ。
さすが蜘蛛。岩はタランの動きに翻弄されている。
一方の、タランの背を必死に掴む俺は、吐き気を抑えるのに必死だったが……
そうして逃げ回っている内に、やがて岩は光線を放つのを止めた。
「よし、今だ! タラン、行くぞ!」
俺が言うと、タランは一目散に岩へ向かう。
そしてもう少しで光る眼、というところで高く飛び跳ねた。
「うおおおおおっ!!」
俺はピッケルを大きく振りかぶり、その光る眼に向け打ち付けた。
がしゃんとガラスが粉々に割れると、巨大な岩が一気に崩れ落ちていく。
まるで石造りの建物が壊れるかのような、そんな轟音だった。
ごとごとと岩が落ちる中、タランは俺を乗せたまま地上に着地した。
「やったぞ! タラン、さすがだ!」
俺はタランから降りると、タランと手を合わせた。
「強敵だったな……タランの速さがなかったら、近づけなかったよ」
タランの健闘を称える俺に、タランも前脚で拍手のような仕草を見せてくれる。
と同時に、俺の頭に声が響いた。
≪各熟練度が一定値を超えたため、紋章【洞窟王】をランク4にアップします≫
久々のランクアップであった。