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六十六話 出発しました!

「よし、じゃあこの位置からいくぞ」


 俺が振り返ると、フーレとタランが頷いた。


 今日から俺たちは、ある場所を目指して採掘することになる。


 その場所とは、この洞窟の下に眠る古代都市。

 都市を守るゴーレムを操る制御装置がある場所だ。


 今後も安全に採掘を進めるのであれば、敵対的なゴーレムを制御する必要がある。


 また、制御装置は、シエルや古代都市の人たちの冷凍された肉体を解凍することもできるのだ。


 そしてこの制御装置を目指し掘り進めるのは……採掘の熟練度が高い俺とタラン、フーレ。


「頼むぞ、タラン、フーレ。掘った道は行き来も考えて、床も壁も綺麗に整えてくれ」

 

 三人横並びで、らせん状になるよう下まで掘っていく。

 

 その際、綺麗な坂と階段のある道に整えていくつもりだ。


 フーレは自信満々な顔で俺に答える。


「任せといて、ヒール様! シエルさんや、マッパも準備万端みたいだし」


 フーレの後ろで、シエルとスライムたちが体を伸ばし返事をした。

 そしてその隣で、マッパや鍛冶の達者な魔物たちが手を振る。


 道を整えると同時に、シエルとマッパたちには鉄の馬車道を後ろから敷設してもらうことになってる。

 

 俺たちはこの鉄の馬車道を鉄の道……鉄道と呼ぶことにした。

 この鉄道によって、地上との行き来を迅速にするのだ。


 また、マッパは換気用の管や、飲料水のための水道管も伸ばしてくれるらしい。

 

「マッパ、頼むぞ。皆も」


 任せとけと、マッパは腕で胸を叩き、魔物たちは「おう」と返事をしてくれた。


 あとは、ミスリルゴーレムの十五号が人の背丈ほどの高さもある盾を持って、俺たちの後方にいてくれている。


 もしもの時、皆も守ってもらうためだ。


「よし……それじゃあ掘りますか!」

「おう!」


 俺が言うと、皆威勢のいい返事を聞かせてくれた。


 真ん中を俺、そしてその左右をフーレとタランがピッケルを振り下ろす。


 今回は競争ではなく、共同作業。

 足並みをそろえ、綺麗な道をつくっていく。


 俺はピッケルを振る。

 シエルたち古代都市の人々のため、安全な採掘のため……


 だが、俺の目的はもう一つある。

 

 目的というか、楽しみの一つだが……

 それは古代都市の遺構や品々だ。

 自分のものにするため、というわけではなく、発見が楽しみなのだ。


 もちろん、シエルも掘ったものは好きにしても良いといった感じだが……まあ、判断に困るものはシエルに聞けばいいか。


 俺たちは息ぴったりに採掘を進めていく。

 

 後方でも、金槌の打ち付けられる音がやかましく響いている。


 俺も彼らに負けないよう一心不乱に……とはなれない。


 隣のフーレが俺に言う。


「地上の事が心配なの?」

「ああ……俺の父親の耳に入ったら……」


 やはり、地上の事は心配だ。

 

 王国の実質的な属国である公国、その船にこの島の存在がばれたのだ。


 まわりまわって、王国の絶対君主……俺の父であるサンファレス国王の耳に入った時、彼はどういった対応を取るだろうか?


 フーレは俺に続ける。


「ヒールのお父さんって、確か【覇王】の紋章を持ってるんだったよね?」

「そういえば、前そんな話をしたっけ」


 確か、フーレと初めて一緒に掘った時、父エレヴァンについて話した時だったか。


「紋章からしてすごそうだけど、どんな人なの?」

「うーん……ものすごく厳しい人だよ」


 フーレには言えないが、魔物を許すような男ではないと思う。

 また、俺がしぶとくも生き残っていることを知れば、不快に思うのは想像に難くない。


 いや、本当にそうだろうか……?


 俺は王国で父と話したことを思い出す。


 言うほど、俺は父について何かを知ってるわけじゃない。 

 そもそも話す機会が少なかったというか、話をしてくれなかった。

  

 そして領地授与式の日……皆が俺の領地を笑う中、少しも顔を崩さなかった男が一人いた。

 その男こそ、我が父だ。


 魔物が嫌い、というのも王国人の大半がそうであるというだけで、父から魔物に関してなにかを耳にしたわけでもない。


「厳しい人かあ、私のお父さんとどっちが厳しい?」

「エレヴァンは……良く笑うからなあ。それに優しいだろ?」


 俺が知る父は、内外の誰に対しても厳格で非情な男。エレヴァンの厳しさとはだいぶ違う。


「へえ……じゃあ、怒ってばかり?」

「いや、そうでもない……な」


 そう。よくよく考えれば、あの男は感情を露わにしないし、感情で動いたりはしない。


 あくまで、王国の利益で動く狡猾な男だろう。


 そもそも、俺は名目的には王国の一領主だし、王子の位を喪失したわけでもない。

 しかも、この土地は俺が神託によって任された土地だ。


 とすれば、彼がいきなり軍事力で攻めてくる可能性は……相当に低い。

 

 まずは何らかの形で情報を集めようとし、そこからこの島への対策を練る。あるいは、軍事力で脅そうとする可能性もあるが。


 いずれにせよ……この島を攻めるのが難しいと思わせれば、交渉の余地はあるんじゃないだろうか?


 見た目だけでも、皆を強そうにしておけば、攻撃を思いとどまらせることもできるかもしれない。


 それに、この島にはありあまる石がある。

 塔やら城壁やらを築いて、鉄壁の要塞のように見せるのもできるだろう。


 案外、巨大なゴーレムはそういう時役に立つのかもしれない。

 偽心石があれば、一体もっと巨大なのをつくってもいいかも……


 フーレが呟く。


「ふーん。なんか、意外だなあー」

「え? どうして?」

「だって、ヒール様は笑うことが多いからさ。 ……まあちょっと採掘してる時の笑顔は、目が笑ってないというか、別の意味で怖いけど」

「そ、そんな怖い顔してる?」

「うん?」


 フーレは即答した。


 最初、リエナたちと会った時の顔に戻っているのだろうか……これは気をつけないと。


 ……うん?


 ピッケルの打ち付ける音が、壁の向こうから響いた気がした。


 フーレもそれに気が付いたようで、タランと頷きあう。


「ヒール様、多分空洞が近い……」

「ああ……準備はできてる」


 俺は周囲に、シールドを発動させる。


 後ろのマッパやシエルにも、気を付けるように指示をした。

 とっさにミスリルゴーレムの十五号が守りに入る。


 俺はそれを確認して、ピッケルを振り下ろした。


 すると、そこは……


 真暗な闇だった。


 しかし、すぐに赤い光が無数に浮かぶのであった。

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