六十四話 採掘計画を立てました!
「では、シエル殿の仰ることには、その装置をどうにかしない限り、これからもゴーレムが襲ってくると……」
悪魔のような見た目のバリスは、世界樹の枝でつくられた椅子の上で腕を組んだ。
地下墓地を掘り当てた俺たちは、世界樹の麓に設けられた大理石の円卓を囲み、会議を開いていた。
バリスの隣に座る、ゴブリンにしては逞しい体のエレヴァンが口を開く。
「俺は戦ったことねえから分かんねえけど、そのゴーレムってのはそんなに強いのか?」
「強いなんてもんじゃないよ。ヒール様だから今まで倒せたんであって、お父さんが五人いたって勝てるかどうか……」
人間の短い黒髪の少女……のように見える元ゴブリン、フーレは、父エレヴァンにそう答えた。
「馬鹿野郎! 俺なら絶対に勝てる!」
「はあ……戦ったこともないってさっき言ってたのに、どうしてそんな自信湧いてくるのか」
呆れるフーレの隣で、コボルトのアシュトンが言った。
「ふむ……エレヴァン殿はおいとくとして、具体的にヒール殿以外でそのゴーレムに勝つには、どれほどの戦力が必要になりそうなのです?」
アシュトンの問いに、俺はこう返した。
「いや、勝てるかどうかというよりは、皆の安全が一番大事だ……」
そうだ。前からの心配は変わらない。
突然掘った先にゴーレムがいたら……それが怖いのだ。
だからこそ、俺もゴーレムをつくってとっさの事態に対応できるようにしたのだが。
だが、こっちのゴーレムの数も限られている。
逆に言えば、倒していけばこっちのゴーレムの数も増やせるわけだが……
皆で一斉に制御装置を目指すのは、あまりに危険だな。
……うん?
皆が、俺にぽかんとした顔を向けていた。
ハイネスがぼそっと漏らした。
「ヒール殿はやっぱ俺たちとは違いやすね……」
「うむ、我等はどうやって敵を倒すかしか、眼中になかったようだ」
「そっか。よく考えたら、絶対に倒す必要もねえんだよな……」
アシュトンとエレヴァンが言うと、フーレが小さく笑う。
「仕方ないよ。私たち、ずっと戦いばかりだったからね。いっつも戦いのことばっか考えてたもん」
「フーレの言う通りです。私たちは戦いばかりで、安全をないがしろにしてました。どうすれば、安全に掘れるかを考えましょう」
リエナの声に、俺は頷いた。
「ああ。シエルに少し見せてもらった地図で、地上に近い部分では施設も少ないことは分かった。だから、深くを掘りに行かなきゃ大丈夫なはずだ」
それにドラゴンの商人ロイドンがやってきた道……その深さと方角なら、もともとあった山の外側のはずだ。
「詳しい地図が分かれば、もっと計画も立てやすいんだけどな……って」
シエルが円卓の中央にのって、頭上に光を浮かべた。
山のようなかたちの中に、いくつもの四角と線……
それは先ほど墓地で、人間のシエルが俺に見せた図と同じであった。
「シエル、ありがとう……俺たちがいつも使っている洞窟の入り口が、ちょうどこの山の頂上だったわけだが」
俺はシエルが出した山の立体図に指を差す。
「見てもらうと分かると思うが、俺達が以前掘ったワイナリーがある高度には、ほとんど空洞がない。だから、今掘っている高さで掘り続けるなら、そこまで危険はないはずなんだ」
山自体はなだらかで、下の方に行くにしたがって四角形や線が増えている。
これは施設や通路が、山の下側に集中していることを意味しているのだ。
「もちろん、これは昔の地図だから、今では多少異なってるかもしれない。でも、制御装置があるのは、ちょうど洞窟の入り口のある場所の真下……つまり、山の真ん中だ。あまり変わってないだろう。だから、らせん状に掘っていくのがいいかな」
俺は椅子の上でも、なにやら道具をがちゃがちゃ弄るマッパに顔を向ける。
「それに合わせて、マッパは引き続き鉄の馬車道を延伸してもらいたい。それと、このらせん状に掘る役だがもちろん、俺がやる」
誰もそれには異論はないようであった。
皆、頷く。
しかし、その中でリエナがこう訊ねてきた。
「ですが、さすがにお一人というわけにはいきません。護衛も兼ねて……私が同行いたしましょう」
リエナが言うと、フーレがすかさず言った。
「いやいや、姫は地上を取り仕切っているんだから、私でいいですよ。私も魔法は使えますし!」
「ですが……分かりました。ですが、潜りっぱなしはなしです。昼には一度、夕方には必ず戻ってきて下さい」
リエナの心配するような顔に、俺は頷いた。
「大丈夫だよ。別に今までと何か変わるわけじゃない」
「分かりました……それでしたら、私も心配はありません」
それでもまだ不安そうなリエナに、こう続けた。
「まあ、たまには誰と限らず、一緒に来てもらってもいい」
「ヒール様……はい! 私もバリスと相談して、視察に行かせてくださいね」
「ああ。他の皆もいつでも来てくれ。まあ……突然現れるのはちょっと勘弁してもらいたいけど……」
俺が言うと、皆「はい」と応じてくれた。
マッパは道具を弄り続け、耳に入っているのか分からない。
「よし、それじゃとりあえずは……うん?」
突然立体図を消したシエルの様子がおかしい。
元気がなくなったのか、その場にばたんと伸びてしまったのだ。
「シエル!」
すぐさま、俺はシエルを抱きかかえるのであった。