六十三話 地下の秘密を聞きました!
「……もちろん。俺は掘るよ」
俺が答えると、シエルはふふっと笑った。
「……お聞きするまでもなかったですね」
「まあ、ヒール様の生き甲斐みたいなもんだからね」
フーレもにやにやとそう言った。
「お前ら、人を採掘バカみたいに言いやがって! まあ、言われても仕方ないけど……」
採掘が生き甲斐なのは本当の事だ。
そしてシエルに頼まれなくても、俺は掘り続けていただろう。
しかし、こうやって掘ることで、むしろ俺には別の心配があった。
それは今までこの地下に住んでいた者たちの許しもなく、遺構を掘り、そこを漁ることについてだ。
俺はシエルに訊ねた。
「……だけど、本当にこのまま掘って良いのか?」
「ええ。それが私たちの願いでもあります」
シエルはそう言って、俺の前に光の球を浮かべた。
光はやがて、木の枝のような形へと変わっていく。
「……これは?」
「隕石が落ちる前の、私たちの都市の地図です。今ではだいぶ変わってしまってると思いますし、そもそも、最初から通路がなく移動に転移石が必要な場所もありました」
「転移石……あ、この前のワイナリーで手に入れた石のことか」
確か、転移石同士の間で移動できる石だ。
「はい。そうすることで、私たちはこの狭い山の中を移動していたのです。そして一番下の部分をご覧いただけますか?」
シエルの声に、俺は立体図の下の部分を見る。
そこには、たくさんの通路と巨大な空間が。
「ここに、私たちの人口の大半が存在していました。そこに、都市の制御装置もあります」
「制御装置?」
「ええ。都市の全てのゴーレムを操り、私たちの冷凍保存した体を解凍する装置もそこに」
「じゃあ、シエルの体も……」
「はい。体自体はこの墓石の中ですが、そこで装置を押せれば……でも、別に私たちはこのままで構いません。申し上げたいのは、そこにある装置を何とかしない限り、地下にいるゴーレムたちはヒール様を襲い続けるということです」
「なるほど……でも、ここのゴーレムはどうして」
俺は壁沿いに待機するゴーレムを見て、そう訊ねた。
「この場所では、一切の戦闘行為が禁止されているのです。とにかく、掘り続けるのであれば、まずはその制御装置に向かうのが安全だと思います」
「分かった。場所としては……このまま更に下のほうだな」
「はい。本来は階段が無事であれば簡単にいけたのですが……私も地中を探しましたが、崩れてしまっているようで」
「分かった……それと聞きたかったんだけど、タランは知り合いなのか?」
「ええ。私がお会いした時は、もっと小さかったと思いますが……ここでは様々な種の最後の砦として、人間以外の住処もありました」
「なるほど。じゃあ、タランもその時代の生き残りだったわけだな」
俺が言うと、タランは体をこくりと縦に振った。
「そうだ……それについてですが、私が知る限り皆様平和的な方でした。でも、長い年月でどうなってるか……」
タランたちケイブスパイダーは俺と会った時、襲ってこなかった。
だが、皆そうであるとは限らない訳か。
「会ったら襲われることもあるってことか……分かった」
「申し訳ございません。現在では何も把握できておらず……また、何も役に立つようなものも……」
「大丈夫だ。それに掘るのが俺の楽しみでもあるし……」
掘っていたら未知の発見がある。それが俺の楽しみだ。
まあ戦闘は嫌だけど……
「ふふっ。ヒール様ならそう仰ってくださると思いました。あっ……そろそろお話しするための魔力がなくなってしまいそうです……」
次第に光に包まれるシエルは、透明な両手を俺の右手に近づける。
「ヒール様……これからもご一緒にいさせてくださいね」
シエルは完全に光になると、やがていつものスライムの体に戻っていった。
「シエル……ああ、これからもよろしくな」
俺の声に、シエルはぴょんと飛び跳ねるのであった。