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六十二話 なぜか崇められました!

「ヒール様。また、あいつら」

「ああ……だけど、妙だな」


 ゴーレムたちは壁沿いに整列し俺たちを見張るだけで、なにもしない。


「俺たちが何もしない限りは、何もしてこない? うん?」


 シエルが一人、墓地に向かっていた。


 そして少し小高い場所になる、ひときわ大きな墓石の前で、ただぷるぷると震える。


 その様子を見ても、ゴーレムたちが何か手を出してくることはない。


「どういうことだ? あの墓石になにかあるのか」


 俺はゴーレムを警戒しながら、タランとフーレと共にシエルのもとに行く。


「シエル、ここを知ってるのか?」


 シエルは俺に何も答えず、そのまま墓石に触れた。


 すると、墓石から眩い光が放たれる。


 とっさのことに俺は目を閉じた。


 だが、ゆっくり目を開くと……


 女神と見まがうほどの美女がいた。

 

 金縷が霞むほどの、明るく艶のあるブロンドの長い髪。

 そしてサファイアのような……いや、サファイアはもう見飽きている。太陽に晒された海を思わせるような、青い目をしていた。

 年はそう、俺と変わらない。十代後半のはずだ。だけど、俺にはない大人の品格が漂っている。


 着ている青いドレスは、王国の様式とそこまで変わらない。

 しかし、服飾は王国のそれとはとても比べ物にならないほどの、豪華絢爛さであった。

  

 俺がこの洞窟で掘ったのと同じ、ありとあらゆる宝石が各所にちりばめられている。


 そのドレスの裾を両手で持ち上げ、突如現れた美女は俺に頭を下げた。


「こんにちは、ヒール様」

「こ、こんに、ちは」


 その美しさに見とれていた俺は、思わず挨拶を噛んでしまった。


「わかりやす……」


 後ろからフーレは小声を漏らすが、美女の「フーレ様、タラン様」という声に、同じくこんにちはと返した。


「この姿では、初めてですね……私は、皆様に日頃からシエルと呼んでいただいてる者です」

「え? シエルなのか?」


 どういうこと? 美女の隣には、ちゃんとぷるぷる震えるシエルがいる。


「ええ。シエルであり、シエルでないといいますか……どちらにせよ、ここにいるスライムと私は、すでに一心同体です。ただ、いつもの私の思考力と判断力はスライムなので……いつも、皆様にご迷惑をおかけしております」


 俺は首を横に振った。


「まさか! いつもとても助けになって……ます」


 思わず敬語になる俺に、自分をシエルだという美女はふふっと笑った。


「……なんだか、変な感じですよね。いつも一緒に寝て、お風呂に入ってるのに……」

「あ……ご、ごめんなさい!」


 俺はすぐに深く頭を下げた。


 いつも体の隅々まで洗わせたり、枕の代わりになってもらっていた……こんな子に。

 

 裸を見られていたのはもちろん、よだれやらなにやら、全部シエルは綺麗にしてくれていたのだ。


 俺はその場で頭が沸騰しそうになるが、シエルは続けた。


「謝る必要など何もありません! ……いつも愛して下さって、とても感謝しております……それにヒール様の匂い……あっ!」


 ふらりと倒れそうになる俺だが、タランとフーレが背中を支えてくれた。


 人とスライムのシエルのほうも、俺に近寄ろうとしてくれていた。


 俺は姿勢を戻して、シエルに言う。


「ご、ごめん……それでその……どうして、シエルはその姿に? というか、ここは?」

「そうでしたね。まずは……簡単な自己紹介をさせていただきます」


 シエルは少し寂しげな顔で続けた。


「私の本来の名は、シエラ。ヒール様から頂いたシエルと似ており内心驚いておりましたが、シエラ・ヴェルーアと申します。ただ、私のことは今まで通り、シエルで構いません」

「それでいいなら……そのまま呼ばせてもらうよ」

「ありがとうございます。 ……そして私はかつてのこの地にあったヴェルーア帝国……その皇帝であったものです」

「こ、皇帝?!」


 いや、今のシエルの見た目からして、そういった身分であっても何もおかしくはない。


「はい……とはいえ、帝国とは名ばかりの皇帝……ヴェルーアは死に体の帝国でした」

「それは、別の国に攻められてとかか?」

「いいえ。ヴェルーアはその最盛期、この世界の全ての地域を支配下にしていました。ヴェルーアの他に国はなく、敵国はなかったのです」

「じゃあ、どうして?」

「かつてこの世界には、終わらない冬の時代がありました。今はそれが終わったようですが、ヴェルーアはその時代に急激に衰弱し、晩年はここにあった帝都ヴェルアのみしか文明は残りませんでした」


 なるほど。

 このシェオールは、俺たちの知らない時代の超大国の一部だったということか。

 遺構は、その時代のものだったわけだ。


「外では寒すぎて生きられなくなった我等は、こうして今は海の底となった帝都中央の山の中へと住処を移しました。太陽が無くても、食糧の生産をする技術はありましたが……」


 そうか、太陽石はそのための石だったか。

 あれは植物を成長させる力がある。


「ですが、大量には生産できない……そのため我等は、今までの体を冷凍保存し、生命維持に水しか要らないこのスライムに自らの魂を共存させることにしたのです」


 魂は体に宿るもので、生き物は死ぬと、体からその魂が抜けると神官は説く。


「なるほど……つまり、スライムのシエルには君と、もともとのスライムの魂が共存してると?」

「はい。そして体の主導権は、もともとのスライムにあります。なので、私はシエルであって、シエルでないのです」

「そういうことだったか。でも、どうして地面の中に」

「それは……ある日、この地に隕石……巨大な岩が落ちたのです。そのせいで、山中の施設は壊され、通路は遮断され……我等はただ、地中を水のように彷徨う事しかできなかったのです」


 踏んだり蹴ったりだな……


 つまりは寒さで凶作が続き、さらに外では住めなくもなり、体も失ったが、最後の砦であった山も隕石で潰されたと。


「そして待ち続けることおよそ一万年程……そこに光が現れた。それがヒール様。あなただったのです」


 光なんて大げさな……だけど、一万年か。


 その間、ずっと暗闇の中……俺なら確実に頭がおかしくなりそうだ。


 シエルは目を輝かせ、俺の手を取る。


 だが、その手はすり抜けてしまう。もちろん、暖かくもない。実体がないのだ。


「おかげで、多くのスライムと魂を共にしている同胞も救われました。ですが、いまだ眠っている同胞も多い……」


 シエルは声を震わせた。


「ヒール様、お願いがあります。従僕の身で畏れ多いですが、我々の同胞を永遠の闇から解放してはいただけませんか?」


 その頼みに、俺はただうんと頷くのであった。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

戦闘……にはならず、地中探索の手がかりが。

次回は、今後のヒールの採掘方針が固まる?

2月4日、次話更新です。

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