六十一話 お墓を発見しました!
「よし、今日は誰が一番掘れるか、勝負だな」
洞窟の最奥まで下りて、俺はタランとフーレを前に言った。
「うん。負けないよ!」
フーレがそう答えると、タランもピッケルを力強く握って応じた。
アースドラゴンの商人ロイドンが来た翌日、俺たちは洞窟にいた。
ロイドンが通ってきた道と洞窟の境目は、分かりやすいように石材で装飾してある。
いわば外界との門のような場所なので、バリスが言うには一応見張りを置いてくれるらしい。
そして昨日、ロイドンから購入したドラゴンの卵は、世界樹の下にもうけた石造りの家に置いてある。
中にはキラーバードの羽毛布団を敷いており、暖炉のようなものがあってとても暖かくしてある。
これは、ドラゴンを孵化させるための施設だ。
ファイアードラゴンのものが一個、ワイバーンのが三十個。
それだけのドラゴンが島の仲間になってくれれば心強い。だから、なんとしても孵化させたいのだ。
誕生しそうになったら、俺が対応できれば俺が、もし駄目ならリエナが親として立ち会ってもらうことになってる。
まあ、ロイドンの話だと、この島の誰が親でも問題はないと思うが。
そして俺は……今日も採掘というわけだ。
あの時掘っていなければ、ロイドンとは会えなかった。この島では、掘れば掘るほど、何かが起きる……はず。
まさか地下で、ドラゴンの商人と会うことになるとは思わなかったが。
だが今日は、ただ採掘するわけじゃない。
フーレとタランとちょっとした競争をするのだ。
横並びになり、そこから同じ方向に掘っていく。
そして昼まで掘り続け、誰が一番深く掘れるかを競うのだ。
今日、リルとメルは世界樹の上に遊びに行ってる。
だから、俺も今日は本気が出せそうだ。
フーレは、俺とタラン、そして回収係のスライムが位置に着いたことを確認すると、元気よく叫ぶ。
「よおし、それじゃあ……スタート!」
瞬時に俺はピッケルを振り下ろす。
と同時に、両隣からも岩が砕かれる音と、ピッケルが打ち付けられる音が。
少しでも油断すれば負けてしまう……俺は一心不乱にピッケルを振った。
しかし、俺もだいぶ掘れるようになったな……
もちろん、最初掘った時も結構掘れると思った。
素人の俺の一振りで、岩がまるでガラスのように簡単に割れたのだから。
しかし、今は自分の体の何倍もの容量が掘れるのだ。
そういえば、俺の【洞窟王】のランクは3だったな……そろそろ4になるか? それとも採掘だけじゃ上がらないのかな?
そんなことを思いながら、五分は掘っただろうか。
突如、ピッケルが堅い壁に弾かれた。
「なんだ? まさか、またどこか部屋みたいな場所か?」
以前掘り当てた祭壇のあった部屋や、ワインが保管されていた場所。
それらと同じく、明らかに何者かによってつくられたような壁があったのだ。
俺がピッケルを振るのをやめて少しすると、両隣からも音が響かなくなった。
そして左右の岩壁ががしゃんと崩れた。
そこからフーレとタランが現れ、俺の前にある壁を見た。
「やっぱ、ヒール様のところも。とすると、タランのも?」
フーレの問いにタランは、こくっと胴体を縦に振った。
「とすると、それだけ幅があるってことか……シエル。スライムに、バリスへ報せてきてくれるよう頼めるか?」
シエルは回収係のスライムにぴょんぴょんと跳ねる。
スライムはそれに応じるように、地上へ向かった。
フーレが言う。
「また、前のゴーレムみたいなのが中にいるのかな?」
「どうだろう……魔力の反応はないみたいだけど」
俺は目を閉じ、壁の向こうに意識を集中させた。
しかし、そこに魔力の反応はない。
「いきなり入って、何かされるってことはないみたいだな」
「じゃあ、入ってみる?」
「ああ。だけど慎重にいこう。俺がシールドを張るから、フーレがぶち抜いてくれるか?」
「わかった!」
フーレは頷くと、思いっきりピッケルを壁に振り下ろした。
だが一度では壊せないので、続けて、二度三度と壁を叩く。
「これでどうだ!」
フーレの力強い声が響くと同時に、壁ががしゃんと崩れた。
がしゃんといっても、本当にガラスが割れたような……
抜いた穴の向こうから漏れ出た光に、俺は思わず目を閉じた。
恐る恐るゆっくり目を開くと……
「え……なに、ここ?」
俺達の前に青々とした草原が広がっていた。
この洞窟の地下で、色とりどりの花と、長方形の水晶が至る所から立っている。
外? いや、そんなわけない……繰り返すが、ここは洞窟の地下。今俺達がいるのは、海の下のはずだ。
だがそこまで遠くない場所で、ガラスのような壁が見えた。よく見ると、天井もガラスのようなものが張られている。
ガラスの向こうからは太陽のような光が漏れており、まるで地上に設けられた温室のようにも思えた。
「きれい……」
フーレは顔を上げながら、そう呟いた。
「ああ……まるで、外にいるような」
しかし、ここはどこだと言うのだろうか?
意外だったのは、シエルはともかくタランが何も驚いた様子でなかったことだ。
「タラン。お前はここを知ってるのか?」
タランは静かに首を縦に振る。
いつも動きが激しく、感情表現豊かなタランだが、ここでは非常に静かであった。
そしてまるで、ここは特別な場所だと言わんばかりに、その場で静かに立っていた。
しかし、フーレの方は元気よく訊ねた。
「ヒール様。あの透明なのって、水晶かな?」
「かもな……だけど、自然のものにしては、随分と整い過ぎてる」
大きさに多少の差異はあれど、形も均一、間隔も一定。
明らかに誰かによって造成されたような場所であった。
そして水晶の前には、もれなく摘まれたばかりのような綺麗な花が供えられている。
フーレは俺に言う。
「掘ってみる?」
「いや……多分、あれは」
この厳かな雰囲気……様式は違えど、あれは墓の一種だろう。
「ここは墓地か。タラン、そうだな?」
タランはコクリと頷く。
「そうか」
これで確定した。
この地下には、仲間の死を悼むような生き物が住んでいたのだ。
これは推測でしかないが、あのワイナリーや祭壇も、ここに眠る彼らの種族が作った可能性は高い。
とてもじゃないが、お墓は荒らせないな……ちょっと見て回らせてもらうぐらいにするか。うん?
突如、壁の一部が引き戸のように開閉した。
そしてそこには……
「ゴーレム?!」
以前も見た、巨大な鎧に身を包む者達がいるのであった。