五十八話 綺麗な花が咲きました!
カミュが大陸のオークの港に向かった翌朝。
俺はリルとメルを連れて、今日も洞窟の一番深い場所に来ていた。
トロッコに揺られ、最下層で降り、そしてピッケルを振る。
半ば日課のようになったこの行動だが、俺は楽しんで掘っている。
コボルトのリルが掘って、白い鳩のメルがその掘った物を興味深そうにしているのも、見ていて飽きない。
今は、リルが掘った青い宝石をメルに自慢しているようだ。サファイアかな?
だが、掘れる物はいまいちだ。
俺としては、何か新しい発見が欲しい。
いや、金や銀、宝石は未だにザクザク掘れるあたり、いまいちなわけないのだが。
それにカミュたちが、不安に思いながら今も海の上にいることを思えば、不満は言えない。
掘れば掘るだけ、地上の皆の生活も栄える。
掘ることは、この島の領主としての俺の責務でもあるのだ。
「よぉし、今日も頑張るぞ!」
俺は声に力を入れると同時に、勢いよくピッケルを振り下ろした。
「うん?」
崩れ落ちる岩……だが、その落ちた岩が小刻みに震えているように見えるのだ。
それだけじゃない。かすかにだが、足元が揺れるのを感じた。
だが気のせいかもしれない。
そう思ったが、俺より体の小さいリルとメルが、きょろきょろと周囲を見ている。
どうやら、揺れているのは確からしい。
……これは地震か?
地震とは地面が揺れることで、王国の一部でも起きていた自然現象だ。
酷い揺れの時は、家が倒壊するほどと聞く。
……参ったな。
この洞窟の道は柱で補強されてきているとはいえ、もし天井が割れたりでもしたら……
いまだに揺れは続いているようだ。
ここは、安全第一で一旦採掘を中止すべきか。
「皆に報せよう……シエル、いるか?」
俺の声に、リルとメルを見守るように待機していたシエルが、体を伸ばす。
「スライム達に……うん?」
ついに、地面にある岩ががたがたと音を鳴らすほど、揺れ始めた。
それは次第に、俺を体を大きく揺らすほどになっていく。
どどどという轟音が、近寄ってくるのも耳から感じた。
「な、なんだ?! 皆、俺の周りに来い!」
俺はとっさに周囲にシールドを張る。
だが、揺れまでは軽減できない。
もう立っているのがやっと……そんな時、突如揺れが引いた。
先程までの轟音が嘘のように、あたりが静まり返る。
「大きな地震だったな……」
今までこの洞窟で、地震に遭うことはなかった。
地上のほうは大丈夫だろうか?
俺が地上の方に振り返ると、ズボンの裾がくいくいっと引っ張られるのを感じた。
視線を下に降ろすと、リルが洞窟の壁に向かって指を指している。
「どうした、リル? え?」
壁に、花びらのような赤い何かが突き出ている。
花の形をしてはいるが、柔らかそうな……いうなれば肉のような質感だ。
中央にはくぼみのようなものがあり、なんというか、少し生々しいというか……
「花……じゃないよな。うわ?!」
花はピクリと動いたと思うと、急に荒ぶり始める。
くぼみをひくひくと動かしており……見ていて、何というか変な気持ちになる。
これは掘ってはいけない……気がする。
「な、なんだこれ……あ、リル! やめろ!」
リルはピッケルを持って、その花びらが突き出ている壁の下に向かっていた。
そしてそこにピッケルを振り下ろす。
崩れる岩、それと同時に花びらが大きく開いた。
「ぐおおおおおおおおおっ!!!!」
大きく開いた穴からは、巨大な鳴き声と共に、勢いよく水しぶきが放たれるのであった。