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五十一話 探検に出発しました!

「わんっ!」


 俺の隣では、先程からコボルトの赤ちゃん……リルの元気な鳴き声が響いている。


 いつも俺と一緒にピッケルを振っていたリルだが、ここ数日はもっぱら生まれたばかりのメルと遊んでばっかりだ。


 遊んで、というのは少し語弊があるか。リルが遊んであげている、と言ったほうがいいかもしれない。

 ともかく、メルはこのリルにすっかり懐いている。


 そんなメルだが、ただの白い鳩ではないと更に確信を深めることになった。

 表情が、鳥のそれではないのだ……いや、鳥にも表情があるのかもしれないが、少なくとも鳩はこんなににっこり笑わないはず。


 もともとメルが鳩にしては丸っぽかったのも気になっていたが、成長するにつれて更に丸みを増している気がする。

 太った鳩……というよりはまるで球のような体だ。


 そんなメルはリルがピッケルを握ろうとすると、すぐに構ってと言わんばかりに抱き着く。

 リルはまるで兄や姉のように、仕方ないと結局こうして遊んであげているようだ。


 白くて丸っぽい小さな生き物が、のしかかったりお互いの体を舐めたりする……見ているこちらも思わずほっこりしてしまう。


 子犬と小鳥という体の特徴の違いはあるが、やはり兄弟みたいだな……

 

 そんなリルとメルの様子に、ちょっとした変化が訪れた。

 

「きゃんっ!」


 いつもと違うリルの声。

 どこか否定するような強い調子であった。


 ケンカでもしてるのかと、俺はピッケルを振るう手を止め二人のほうへ振り向く。

 

 そこにはくちばしでリルの腕を引っ張るメルが。

 食べようとしているようではなく、人間でいえばどこかへと連れていこうとしているような感じだ。


 一方のリルは、そんなメルに首を横に振って応える。


「どうしたんだ、二人とも?」 

「わん! わん!」


 リルはそれがと答えるように、ちっちゃな手を洞窟の入り口に向ける。


「外か? あ、なるほど……メルが外で遊びたがってるんだな?」

「わん!」


 リルはこくっと頷くと、小さな鳴き声でメルに話しかける。

 我慢しろと諭しているようだ。

 

「なるほど……確かに、メルはピッケル握れないしな」


 加えて暗視機能があるとはいえ、暗い洞窟。

 赤ちゃんであるメルにとっては退屈なのかもしれない。


「分かった……リル、メルと外で遊んでおいで」

「わ……わん?」


 リルはいいのと訊ねるように、俺の目を見つめる。

 

「ああ、行ってこい。いや……やっぱ俺もついていくか」


 リエナに赤ちゃんを放っておくなと念を押されている。 

 

 正直リルはもう心配することもないと思うが、確かにメルから目を離すわけにはいかないな。


 まあ、リルに任せても大丈夫だとは思うんだが……

 だが、久々に日中の皆の様子を見てみるのも面白そうだ。

 

「……案内がてらにまわってみるか。二人とも、行くぞ!」


「わん!」

「くー!」


 リルとメルは俺の肩にぴょんぴょんと飛び乗った。


「それじゃあ、シェオール探検に出発だ!」


 俺の声に、リルとメルはおうと手や翼を挙げる。


 こうして俺たちはシェオールの探検……視察に向かうことにするのであった。


 まず、俺たちが出発した地点。

 ここは掘り進めてきた洞窟の最奥にあたり、地上まで歩いて二十分というところ。


 いや、正しくは最奥の一つと言ったほうが正しいか。


 このシェオールの地下は、アリの巣のようにいくつもの通路に枝分かれしているのだ。

 俺以外に採掘をする者が増えたので、いつの間に知らない通路ができていたりするぐらいだ。今俺が歩く道よりも、もっと長い道もあるかもしれない。


 そしてこの洞窟には、何者かが暮らしていた痕跡があった。


 ゴーレムがいた大小の神殿のような場所、そしてワインの保管庫のような場所。

 いずれも王国の様式とは違うもので、保管庫については今の大陸よりも高度な技術を感じさせるものだった。

 

 中には、無人ではなく、ケイブスパイダーが暮らしていた大きな空洞もあったり。

 そこには植物の成長を速める太陽石もあったり、土のような何かもあって、魚とキラーバードの肉ばかりのこの島の食糧事情に革命をもたらしてくれた。

 

 それら元からあった場所に加え、俺たちの造った巨大な冷凍庫もある。

 キラーバードの肉や魚を腐らせないよう、冷凍させるために造ったものだ。

 王国で例えれば兵隊の練兵場ほどの広さもあり、寒くなければ競争できるぐらいの広さはあるだろうか。


 そして今まで紹介した場所と地上を迅速に行き来できるように造られたのが、中央通路だ。


 ここには、鉄の馬車の走る軌道が通っている。

 また、地下から湧き出た温泉を地上に運ぶ金属製の管も通っている。

 その床や壁は他の通路と比べ重点的に石材で綺麗に整えられており、さながら堅牢な城の中にいるような感覚だ。

 

 最後に通路だが、基本俺もテイムされた魔物たちも洞窟内では暗視が使えるので、歩くのに苦労はしない。

 だが、より明るいに越したことはないので、輝きを失わないとされる輝石を使った照明を壁や天井にかけたりしている。

 個人的には宮廷のどんな広間よりも煌びやかだと思う。


「よし、地上まではこの鉄の馬車に乗っていこうか」


 俺はゴブリンの操る煙の出る鉄の馬車に乗り込んだ。


 鉄の馬車に乗っていると、途中魔物の多い場所に出る。

 地上に近い通路には魔物たちの暮らす部屋があるのだ。


 そこを越えると、ようやく地上……

 全体として、一つの町が地下に埋まっている……そんな感じだ。


 掘り進めればもっと広くなっていくだろうし、更なる発見もあるだろう。

 一年後には、それこそ目も届かないような国のような広さになってるかもしれないな。


 その頃には、リルもメルも大きくなってるだろうな……

  

 俺は胸元でじゃれ合うリルとメルの頭を撫でながら、地上に着くのを待つのであった。


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