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五十話 いっぱい食べました!

「待ってろ……今、ごはんあげるからな」


 今、俺は焚火の前に座り、皿の上で焼き魚をほぐしている。


 俺の膝に乗り出し興味深そうに覗くのは、コボルトの赤ちゃんリルと、昼に卵から孵った白い鳩メルだ。

 

 まだ夕方前ではあるが、メルが腹を空かせていると思い、今日のところは採掘を早めに切り上げてきた。

 

「……よし、できたぞ! ほら、メル。いっぱい食べてくれ」


 手のひらの上に魚のほぐし身を乗せ、それをメルの前に差し出す。


 メルはくちばしでちょんちょんと俺の手のひらをつつく。

 だが、中々魚を口に含もうとはしない。


「あれ、魚はまだ早かったかな?」


 そう呟くと、リエナがスープの入った皿を持ってやってきた。


「もしかしたら、魚は食べないのかもしれませんね」

「言われてみれば、鳩が魚を食べてるのは見たことがないな……」

「私も目にしたことがないです。だいたい豆や穀物を食べてましたから。なので、とりあえずスープをあげてみましょう」


 俺の隣で腰を下ろすと、リエナは持ってきたスープに息をふうふうと吹きかけた。

 

 メルはその様子を不思議そうに見ている。

 

「メルちゃん。今、ふうふうしてるからちょっと待ってね」

 

 リエナは何度かスープを口に含み、温度を確認しながら冷ましているようだ。

 

「……うん、これなら大丈夫そう。メルちゃん、こっちにおいで」


 リエナはメルを自分の膝の上に乗せ、スープの前へと連れてきた。


 メルは恐る恐るくちばしをスープにつける。

 だが、危ないものではないと安心したのか、ごくごくとスープを飲んでいった。


「おお、飲んだ。スープは飲めるのか」

「ふふっ。そんなに急いで飲まなくても、おかわりはいっぱいありますからね」


 リエナはメルの頭をよしよしと撫でた。


 やっぱ、リエナは頼りになるな……

 リルの時もそうだったが、赤ちゃんとの接し方に慣れている。

 

 一方のリルは、俺の手のひらにある魚をもぐもぐと食べていた。

 ほぐしてなくても食べられるが、無駄にしまいと食べてくれるのだろう。


 そんな中、向こうから黒い翼を生やした灰色の肌の男がやってくる。

 悪魔のような見た目の彼は、元ゴブリンのバリスだ。


「おやおや、その子がアシュトン殿たちが言っていた鳩の赤ちゃんですか」

「おお、バリス。そうなんだ、名前はメル。仲良くしてやってくれ」

「ほうほう、メルですな。しかし、ここまで真っ白い鳩は珍しい」

「ハイネスもそんなこと言ってたなあ。そういや、バリス。鳩って魚は食べないのか?」

「魚ですか? 食べるとは聞いたこともないですなあ……それに近くに魚が干してあっても食べないのを見てますからのう……いや」


 バリスは俺の膝のあたりに目を止める。


「どうした? え?」


 俺が視線を下すと、そこには焼き魚をパクパクと食べるメルが。

 リルと一緒にもうほとんど食べつくしている。

 

「……ふむ、魚を食べる鳩もいるとは知らなんだ。ヒール殿、ワシの間違いだったようです」

「俺も初めて知ったよ……」


 しかしそれにしても、メルの食べっぷりは赤ちゃんとは思えないな……


 俺の手のひらの焼き魚が無くなると、やはりリルは物足りないようで焚火の隣の焼き魚を串ごと手にする。

 

それを見たメルも俺の膝から飛び降りる。


「こらこら、あまり火に近寄ると危ないぞ……うん?」


 メルは焚火ではなく、リルの目の前で止った。

 そしてその視線は、リルの持つ焼き魚に向けられている。


 リルは一度首を傾げると、その焼き魚をメルに差し出した。


 どうやら、食べるかと訊ねているようだ。


「いや、リル。さすがにそれは……ええっ?!」


 俺だけではなく、バリスとリエナも思わず「え?」と声を漏らした。


 というのは、メルがリルの差し出した焼き魚にかぶりついたからだ。


「め、メル! 骨有るから危ないって!」


 だが、メルの口からは小骨が折れるようなゴリゴリという音が響く。


「ええ……」


 俺は唖然とするもメルは焼き魚を気に入ったのか、もぐもぐと食べていった。


 鳩がこんな食べ方をするだろうか?

 いや、それよりもメルはさっき生まれたばかりなんだぞ……


 不思議に思ったのは、バリスもそうだったようだ。

 俺の疑問を代弁するように口を開く。


「ふむ……もしやこのメル。鳩ではないのかもしれませんな」

「でも、ハイネスも鳩だって言ってたし」

「ええ。確かに形は鳩ですが、見た目が近い鳥なのかもしれませぬぞ。このメルが生まれた卵は、地中に埋まっていたのでしょう?」

「そう言われればそうだ……普通の卵なわけないもんな」


 卵がどれぐらいの時間あそこにあったのかは分からない。

 だが、もし数年以上もあそこで放置されていた場合……卵が何年もあんな場所で無事でいられるものだろうか?

普通に考えて、俺のよく知る鳥の卵では恐らくないことは確かだ。


 メルはお腹をまるまるとさせると、満足そうにその場で寝始めてしまった。

 

 そんなメルをリエナは抱きかかえてやる。


「どんな種族でもいいじゃないですか。赤ちゃんは赤ちゃんなのですから」

「……ああ、そうだな。メルはこの島の大事な仲間だ」


 そうだ、メルが何者だろうと今更だ。

 この島はかつて敵同士だった魔物たちが共存してるし、俺みたいな人間やよく分からないおっさんもいる……そんな島なのだから。


 リエナと俺の言葉に、バリスもその強面に似合わない優しい笑みを浮かべる。

 

 俺たちはメルの将来を話しながら、夕食を取るのであった。


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