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四十八話 鍛冶を手伝いました!

 昼食を食べる俺の前に、リルが小さい手拭いを頭に乗せてやってくる。

 

「お、リル。温泉どうだった?」

「ワンっ!」


 リルは手を上げて、元気に吠えた。

 嬉しそうな顔を見るに、どうやら温泉を気に入ってくれたようだ。


 そんなリルの片手には、しっかりと洞窟で見かけた卵の化石が握られていた。


 リルは体を拭き終えると卵を地面に置いて、俺の隣に腰かける。

 そして焚火に沿うように立てかけてあった焼き魚を串ごと持って、むしゃむしゃと食べ始めるのであった。


 改めて思うが、赤ちゃんとは思えないような成長っぷりだな……自分一人で何かを食べられるようになるまで、俺はどれぐらいかかったんだろう。


 昨日、コボルトであるアシュトンとハイネスにリルの成長ぶりを、どう思うか聞いてみた。

 すると、ここまで成長著しいコボルトは、いないことはないが、珍しいという。

 二人は賢い後継者に恵まれて良かったと、喜んでいた。


 しかし、まだ一か月も経たないのにこうだから、一年後にはどうなってるかも分からないな……

 リルが喋れるようになったら、色々と楽しそうだ。


 俺は、いただきますという挨拶をリルに教えながら、再び焼き魚を食べることにした。


 そんな中、ある光景に目を奪われる。


 先程までオークと話し込んでいたカミュだが、温泉から鍛冶場に戻ってきたマッパのもとにいたのだ。 


 カミュの指や視線が度々船に向けられるのを見るに、きっと船について話してるのだろう。

 俺がさっき言った船に鉄板を張る案を、真面目に考えているのかもしれない。


 地下で見つかった温泉の湯を地上まで引いてきたマッパなら、二つ返事で受けて……あれ?


 喋り終わったカミュの前で、マッパは腕を組み、困ったような顔をする。


 なんとか何かを思いついたように、木の枝で地面に何かを描く。 

 が、すぐに駄目だと言わんばかりに首を振って、枝で絵を掻き消した。


 どうやらあのマッパでさえも頭を悩ませるような頼みらしい。

 マッパも温泉に入ったばかりで、手拭いを頭に乗せていたが、濃い蒸気がそこから浮かんでるような……


 マッパがそこまで難しく思っているのは十中八九、俺が思い付きで言った船に鉄板を張る提案についてだろう。


 言い出しっぺの俺がここで見てるだけにもいかないな……


 俺は立ち上がり、マッパとカミュのもとへ向かう。

 途中卵を持ったリルが追いかけてきたので肩に乗せて、二人に声を掛けた。


「二人とも、話してるのは船のことか?」

「あ、ヒール様。 ……ええ、さっきヒール様が言ったミスリルで船を覆う話、できるんだったらマッパちゃんにお願いしたいなって。でも、どうしても小さな板を継ぎ合わせるしか方法がないそうなの」

「それでも、いいんじゃないか? ……って、なんだこの絵?」


 俺は地面に描かれたマッパの絵に目に奪われる。

 

 まず、内容よりもその精密さに驚いてしまったのは内緒だ。


 鍛冶や音楽ができるだけじゃなく、マッパは絵も描けるのか……

 王国の貴族でも、常日頃から歌や絵画の腕は争われているが、ここまで上手な者を俺は見たことはない。しかも、大抵はどっちかが巧いだけの場合が殆どだ。


 マッパの多才さは置いとくとして、それだけ巧い絵だから、何を伝えたいのかが明確に分かった。

 

 リヴァイアサンに噛みつかれた船の絵……小さな板だと、どちらにしろ船はばらばらにされてしまうらしい。


 いや、それを言ったら、飲み込まれればどの道お終いな気も……

 まあ、硬ければ硬い方が安全なのは、確かだとは思うが。


 マッパはさらにそこから矢印を引いて、新しい絵を描いた。

 それは、何枚もの大きなミスリルの板で包めば、リヴァイアサンも文字通り歯が立たないという絵であった。


「つまり……どうにかして、一枚のミスリルで包む必要が有ると」


 俺は鍛冶場の施設と船を見た。


 あの船を包めるような板となると、大量のミスリルが必要になる。

 ミスリル自体はまだ余裕がある……しかし、それを流し込めるだけの型が、この島にはない。


 そもそも、一度にそんな大量のミスリルを溶かせられるだろうか?


 一度マッパの作業を見たが、鉄と比べるとミスリルは長い時間熱する必要があるようだ。

 それも、大きなミスリル板を作れない理由の一つなのだろう。


 カミュは俺に頷く。


「そこまでしなくてもと思うんだけど、マッパちゃんはそこまでしないと安全じゃないって頭を悩ませてるみたいでね」

「完璧主義者というか、職人気質というか……うん? マッパ?」


 マッパは俺を見て、右手を左手にポンと叩いた。

 明るくなった顔を見るに、何か閃いたようだ。

 俺とカミュについてこいと手招きすると、山のように積まれたミスリルの塊の場所まで連れていく。


「いきなりどうしたんだ?」


 俺の声に、マッパは近くにあった炉を指さす。

 とてもじゃないが、これだけのミスリルを一度で入れるのは……


「いや、待てよ……そうか!」

「うん? なんかいい方法が見つかったのヒール様?」

「ああ……でも、マッパ。溶かすのは簡単でも、加工は大変じゃないか?」


 俺が不安そうに訊ねると、マッパは自分の胸をどんとたたいて応えてみせた。


「あとは任せろってことか……分かった、やろう!」


 俺は早速、手をミスリルの塊に向けた。


 そう、一度で熱する炉がないのなら、魔法で熱せばいい。

 もちろん、それを一気に形に整えるのは、俺にもできないが。

 だが、マッパは自分ならできるというのだ。


 俺はマッパと目を合わせてから、炎属性の魔法ファイアをミスリルの塊に放つ。

 すると、マッパは棒でそれを伸ばし、目では捉えられないような速度で金槌を振り下ろした。


 すると、今度は水をミスリルにかけるマッパ。


「あ、水は私がかけるわ!」


 カミュの声に、マッパはじゃあと指をさして水を掛けさせた。

 こうやって、打っては水をかけて冷やしてを繰り返していく。


 やがて、ミスリルは絨毯を広げるように伸ばされて、もともとの塊部分はなくなった。

 

 そして見るからに船のような形の、長大な一枚のミスリル板が完成するのであった。


「おお! これは!」


 周囲で見ていたオークたちから拍手が巻き起こる。


 俺も思わず拍手をしていた。

 まさか、大した設備もないのに、ここまで立派な板を作れるなんて。


 とはいえ、俺はただ溶かしただけ……大したこともしてない。

 だが、マッパは一瞬でこの板を作った。

 しかも、何か設計図があるわけでもないのに。


「相変わらずたいしたものだな……」


 親指を立てて、してやったりという顔をするマッパ。


 あれだけ出航を怖がっていたオークたちも、ミスリルの板を叩いてこれならと安堵した顔をする。


 とにかく、これで船についてはもう心配しなくても良さそうだ。


「ヒール様ぁっ! さすが!」


 そんな中、カミュがどさくさに紛れて俺に抱き着こうとするので、俺は華麗に避ける。


「……さすがなのは、マッパとあそこまで船を造ったカミュたちだよ。俺は手伝っただけだし」


 いや、実際そうだろ……というより仮に俺が誇るようなことをしたって、何故俺に抱き着かなきゃいけないんだ……


 ぷくっと頬を膨らませるカミュだが、すぐにはっとした顔になる。


「ヒール様……肩に何か乗ってるけど?」

「え? リルがどうし……え?」


 俺が顔を右に向けると、そこには黄色いくちばしと赤い目を向けた小鳥が。


 小鳥は舌を出して、俺の顔をひと舐めするのであった。

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