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四十六話 船が(一応)完成しました!!

 俺は採掘を一時中断し、昼ごはんの前にカミュの待つ埋立地に向かうことにした。


 カミュには造船を任せていたな……


 造船といっても一から作るわけではなく、アシュトンたちコボルトが乗ってきた船を一度解体し、その他廃材を組み合わせて造るらしい。

 船の構造に関しては殆ど無知だから、俺の出る幕はほぼなかった。

 

 今朝遠目で見た時はもう立派な船みたいな形をしていたし、完成したのかもしれないな。


 それを裏付けるように、洞窟の入り口からは立派な帆船と、それを囲む群衆が見えた。


 三本の柱に二層の甲板……アシュトンたちが乗ってきた船よりも、随分と立派なものに改装されていた。

 

 さすが何十年も海で過ごしてきたカミュだ。

 船に関しては、このシェオールの中で誰よりも知識豊富……いや、大陸でもカミュほどの船乗りは指で数えるぐらいだろう。


 ともかくこれでこの島で手に入らない物も手に入れられるようになる。


 皆も嬉しいだろう……俺はそう思ったが、近づくにつれカミュの周りのオークが皆、暗い顔をしていることに気が付く。


「……うん? 皆、どうしたんだ?」


 俺が声を掛けると、皆がこちらに振り向く。

 そんな中腕を組んで難しい顔をするカミュが、俺にこう答えた。


「……あ、愛しのヒール様ぁ! 来てくれたのね」

「あ、ああ。船が完成したから呼んでくれたんだろう?」

「ええ、そうなんだけどー……その前に。あんたたち、これもヒール様のためなんだから、わがままなんて言ってられないでしょ?」


 カミュは諭すように、オークたちに言った。


 オークたちはカミュの声に、渋々頷く。

 どうやら、オークたちは何かを訴え、カミュはそれを我慢するように言っていたようだ。


 俺としては、オークたちが悩んでいることがあれば聞いてあげたい。

 もちろん、こんな小さな島だから、解決できないこともあるかもしれないが……


「待ってくれ、カミュ。何か、問題があるんだろう? 遠慮せず、話してくれ」

「ヒール様……それがね、この子たちいざ進水って時に、海に出たくないって言うのよ」

「それはつまり……海が怖くなったってことか?」


 俺がオークたちに訊ねるように言うと、皆こくりと頷いた。


「……そりゃそうだよな」


 伝説の生物リヴァイアサンによって、一瞬にしてあれだけの大船団が壊滅状態に陥った……

 あの日を思えば、皆の気持ちは痛いほどわかる。

 数多あまたの同胞が殺されるばかりか、アンデッドにされてしまったのだから。


 カミュもその気持ちは同じのようだが……


「皆、仲間の死はなんとか受け入れたわ……船を動かすのも嫌いじゃない。現に漁船を動かすのも楽しくやってる」


 カミュは水平線を見つめて、こう続けた。


「でも、島……おかが遠くなると、皆途端に体を震わせるの……リヴァイアサンに襲われるんじゃないかって」

「なるほどな……」


 そう考えると、俺もなんだか海が怖くなってきた。

 海にあんな巨大な生物がいたなんて……


「でも、リヴァイアサンは死んだわ。だから、大丈夫って言い聞かせてるんだけど……」


 カミュがそう言うと、オークの一体が皆を代表するように言った。


「ですけど、お頭……さっきも言いましたが、つがいから生まれない生き物なんて、この世に存在するわけないですよ!」

「だから、あれは普通の生き物じゃないって言ってるでしょ?!」


 カミュの言うように、確かにあれはそんじょそこらにいる生き物じゃないだろう。

 

 だが、オークの言ってることは正しい。

 リヴァイアサンがこの世で一体だけなんて保証はどこにもないのだ。


「分かった……貿易はやめよう。現状、水も食糧も十分にある。無理して船を出す必要もないだろう」

「で、でも……」

「危険なのは確かだし、俺は皆に嫌なことをやらせたくはない。この船は漁船としてでも使えばいいじゃないか」

「ヒール様……」


 カミュとオークたちは、俺の言葉に嬉しいような悔しいような表情を浮かべた。

 ありがたいと思う反面、情けないと感じているかもしれないな。


「確かに、立派な船なんだが」

「そうね……何があっても沈まない船なら、皆安心して船を出せるのだけど……」

「これでもやられるんだから、やっぱリヴァイアサンは怖いよな……まあ、これも木でできてるわけだし」


 俺は船の強度を確かめるように、船体をごんごんと叩く。


 しっかりとした堅さを感じるが、リヴァイアサンの前では簡単に壊されてしまうだろう……うん、木材?


 俺はふと、こんなことを思いつく。


「……ふむ。では、この船に鉄の板をつけたらどうかな?」


 そうだ、そうだよ! 船を木で造る必要なんてないじゃないか!

 自分で言って、我ながら名案だと思った。


 だが、カミュもオークたちも微妙そうな表情を浮かべる。


「え? 俺なんかおかしなこと言ったか?」


 カミュはうんと頷く。


「僕の考えた最強の船、ってとこかしら……典型的な、船を知らない人間が言うことよ、それ」

「そうか……いや、そうだよな」


 確かに、船が何故木で造られているかを考えれば、自ずと分かることだ。

 鉄板を上から張り合わせた分、船が重くなる。

 それだけではなく、船が遅くなってしまうのだろう。


 船に乗せられる食糧にも限りが有る。

 頑丈になったからといって、目的地に着くのが遅くなり、食糧が底をついては意味がない。


 ならば一から鉄で造れればとも思うが、継ぎ目のない鉄板を造るのは相当に難しそうだ。

 

「うーん。それなら、ミスリルの板なんてどうだ? あれなら軽いし、鉄よりも丈夫だ」

「そうかもしれないけど、そんなに簡単にできるかしらね? しかも、半端ない量のミスリルが必要になるはずよ」

「マッパならできるような気も……と、来ていたか」


 俺の近くに歩いてきたマッパ。

 どうやら狙ってきたわけでなく、何かを伝えるために来たようだ。

 親指を立てながら、こっちに来いと手招きする。


「……ともかく、船を出すのは皆の心の準備が出来てからにしよう。急ぐ必要はどこにもないんだから」


 俺はそう言い残して、マッパの後をついていくのであった。

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