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四十一話 施設の秘密を探りました!!

「マッパ! おい、マッパ!!」


 俺は思わず、ガラスをコンコンと叩く。


 しかし、マッパはぎょろぎょろと視線をあさっての方向に向けるだけだ。


「こ、このままじゃ……」


 マッパが……溺れてしまうだろう。


 だが、どうしてこの中に入れたのだろうか?

 見たところ、壁にガラスの向こうへの入り口はないようだが……ん?


 俺は先ほどの錬金術の台のような場所に気が付く。

 よく見ると、取っ手が下げられており、その隣のガラス瓶の扉が開かれていた。

 

 マッパはあの台を弄って、ガラス瓶に入ったのだろう。

 そしてガラス瓶に付けられた管を通って、あのワインの中に……


 よく見ると、マッパの喉元がごくごくと何かを飲むように動いている。

 

 なるほど……溺れているわけではなさそうだ。


 カミュが口を開いた。


「ああ、マッパちゃん。ここに入るなり、ずっとガラスの向こうに釘付けだったのよ」

「……つまり、マッパは自分から、あの中に?」

「そうね。その後、あの台をがちゃがちゃ弄ってたから……でも、これで飲んで大丈夫だってわかったでしょ?」


 カミュの声に、周りの魔物達は拍子抜けしたような顔になる。

 やっぱり、自分でしでかしたのか……


 まあともかく、触れて直ちに体への影響があるような液体ではなさそうだが……


 リエナが俺の思っていることを代弁してくれる。


「ちょっと、皆さん! まだ、安全と分かったわけじゃ!」

「リエナの言う通りだ。一応確認して……ん?」


 マッパは俺たちに手で丸を作って、何かを伝えている。

 おおよそ、大丈夫だというサインだろう。

 いや、ご満悦な顔を見るに、美味しいとでも言ってるのかもしれない。


「ほら、マッパちゃんも大丈夫だって! 皆、のみ……試飲しましょ!」


 それを見たカミュと一部の魔物は、早速試飲だとワイン樽のほうへ軽い足取りで向かっていった。


 マッパもマッパで一度水面に顔を出すと、再びガラスの中の液体をごくごくと体の中へ入れていくのであった。


「まあ、大丈夫ってことか……それよりも、マッパはあの装置の動かし方が分かったってことだよな」


 俺の声にバリスが頷いた。


「ええ。ここはマッパ殿がよく知る施設の可能性も」

「そういうことになるな。ぱっと見だと、ワインの倉庫……または醸造所に思えるが……」


 どうして、そんな施設がこの地下に?

 

 この前見た神殿のような場所はいかにも、古代遺跡のような場所だった。

 だが、ここはつい最近まで使われていたかのように綺麗だ。

 カビも生えておらず、埃も見えないのだ。


 そこら辺に落ちているドールが、つい最近まで掃除していたのかもしれないが……


「しかし、妙だな。倉庫にしろ醸造所にしろ、単体で存在するとは思えない」


 ワインを保存、製造するにしたって、それを必要とする誰かがいるはずだ。

 つまり、倉庫があれば、付近に誰かが住んでいる可能性が……


 オークのカミュを筆頭に、ゴブリン、コボルトたちが興味を示していることから分かるように、ワインは人間だけが好む酒ではない。

 なので、住んでいるのは人だけとは限らないわけだ。


 といっても、ドールを壊れたままにしているのを見るに、この場所が一定期間放置されていたのは確かだとは思うが……


 リエナがこう言った。


「つまり、近くに住居……いや、町が眠っている可能性があるというわけですね」

「ああ。だが、周辺にどこかへ繋がるような入り口はない……」


 俺は改めてバリスとリエナとで、この部屋を見て回る。

 だが、扉などの穴はおろか、それを塞いだような跡すらも見えなかった。


 カミュたちは試飲と言いつつも、ワインをごくごくと飲んでいるようだ。

 息抜きは必要だが、さすがに他の場所にいる者たちにも残せとは言い残しておく。


「……うーん。どうやって、ここに出入りしてたんだ?」


 俺は途方に暮れる。

 マッパに聞いた方が早いかもしれないが……


 その肝心のマッパは、ガラスの向こうで腹を膨れさせている。

 満足そうに水面に浮かんで、居眠りしているようだ。


「仕方ない……後で聞いてみるか。バリス、ワインは皆で分け合うように言ってくれ。施設のことはマッパに聞いて、使えるようだったら使ってみよう」

「はっ。倉庫としても使えそうですし、一見、ワインが作れるようにも見えますしのう」

「ああ。で、もしワインを作るなら、あそこのブドウの種が役に立ちそうだが、それはリエナ……あれ?」


 俺は棚に置かれたブドウの種子を任せると、リエナに言おうとした。

 

 だが、リエナは少し遠くの棚の前にいた。

 そして何かを見つけたのか、俺に振り向く。


「ヒール様! こんな石が!」


 長い黒髪を揺らして小走りで向かうリエナの手には、鈍く輝く青白い石が。


「おお、何かあったか?」

「はい! この青白い石なのですが……」


 リエナは六角柱型の青白い石を1つ俺に見せた。

 サファイアとは違い、白く澱んでいる。


「見たことのない石だな。宝石かな? ちょっと見てみるよ」


 俺は青白い石に触れた。

 すると、【洞窟王】の自動回収機能で俺のインベントリに入る。


 それを助言者が、鉱石図鑑から解析する。


≪転移石……設置すると、他に設置した転移石との間を瞬時に行き来できる。行き来できる距離は、転移石の大きさによる≫


 ……転移? 


 聞いたこともない言葉だ。

 説明を聞くに馬車などの移動手段にも思えるが、瞬時とは?


 つまり……例えば地上とここで一つずつ置けば、その間を瞬時に行き来できるってことか?


≪可能です。しかし、転移可能な距離は先述のように石の大きさによります≫


 なるほど……どういう原理かは分からないが、つまり歩かなくて済むってことか。

 だけど、これって2つ以上ないと意味がないんじゃ……


 俺はとりあえず、リエナとバリスにこの石について説明した。

 だが、二人も言葉の意味は分かるが、いまいちどんな石なのかは想像がつかないようだ。


 リエナはゆっくり頷き、こう言った。


「……とにかく、その石は一個だけじゃ意味がないということですね」

「そうなるな。だが、この部屋の入り口がないのは、こいつのせいかもしれないぞ」


 俺はそう言うが、バリスとリエナは首を傾げる。


 俺も自信はないが持論を述べた。


「この部屋にこの石があって、他の場所にもこの石があれば……出口が無くても移動できるんじゃないかなって」


 バリスは難しい顔で呟く。


「ふむ……つまりは壁をすり抜けるというわけでしょうか。にわかには信じがたいことですが、そうであればここに出入り口がないことの説明がつきますな」

「一応、もう一回調べてみるけどね。で、とりあえずこの石は……」


 一個だけではどうしようもない。

 だが、近くの埋まっている場所にこの石があれば、そこに転移できる可能性も有る。


 しかし、その場所がゴーレムが大量にいる危険な場所だった場合……

 いずれにせよ、準備もなしに使うのは危険か……


「俺が持ってるよ。誰かがうっかり使ったら、危険だし」

「それが良いでしょう。それでは、ワシはマッパ殿を起こして、ここを調べてみまする」


 バリスはそう言って、マッパのいる場所のガラスを叩きに行った。

 俺とリエナは、その後もしばらく他に何かないか調べた。



 その後、特に目新しい物は見つからなかった。

 しかし、バリスの調査のおかげで、ここがワインを製造できる場所であることは分かった。


 マッパは厳密に言えば、この場所をよく分かってなかった。

 だが、装置をがちゃがちゃ弄るうちに、操作方法を習得していったようだ。


 それを気が気でない様子で見ていたバリスが説明するには……

 装置の隣のガラス瓶にブドウを入れると、ガラスの壁の向こうに液体が抽出されるらしい。

 そして抽出した液体を新たなガラス瓶に戻せるようなのだが……とりあえずマッパが浸かった分は抜き出しておくことにした。抜いた分は本人が責任を持って飲むらしい。


 驚いたのは、ガラス瓶などを水で洗浄してくれるボタンもあるようで、マッパが入っていた場所ももちろん洗ってもらった。


 また、倉庫にあるワインもそれなりに量があったので、しばらくは酒好きの魔物たちが困ることもなさそうだ。


 また、ブドウさえ育てられれば、この島でもワインが作れるようになったのだ。

 俺は酒が飲める年ではないが、このことはカミュを始め、エレヴァン、アシュトンなどが大いに喜んだ。


 こうして島に酒の匂いと活気がもたらされる中、海底からシェオールに近寄る影があった。

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