四話 ゴブリンを救助しました!
「あぁー、気持ちいいー……」
今俺は、洞窟の入り口でスライムを枕に寝ている。
このスライム……シエルをテイムしてから、三日が経った日の夜だ。
この三日間、俺はひたすら採掘に励んだ。
結果……
◇インベントリ
岩×4893
鉄鉱石×71
銅鉱石×89
金鉱石×5.8
銀鉱石×8.9
石炭×88
石灰岩×90
……
ルビー×1.7
サファイア×1.4
クリスタル×19
亀石×39
とまあ、だいたいどの資源も初日の三倍に増加している。
魔力を増やすクリスタルだけあまり増えていないのは、なるべくすぐに消費するようにしてるからで、もう500個近くは使ってるはずだ。
だから、俺の魔法も非常に強力になった。
今では海に雷属性の魔法を放つだけで、狙った大魚が取れる。
水属性の魔法なら、5樽分の水を降らすこともできた。
今の俺は中位魔法を軽々と使いこなせるようになったのだ。
静電気だの、手汗だのと馬鹿にされていたのが今となっては信じられない。
こうして俺は、早くも水と食料の問題を解決した。
しかもありがたいことに、シエルは教えたことをすぐに覚えた。
言葉は理解できないようだが、俺の手振り身振りを真似してくる。
ベッドになってくれたり、洞窟内の移動に俺を乗せてくれたりと、至れり尽くせりだ。
また、シエルの他にスライムを十体ほどテイムできた。
しかし、彼らはシエル以上に意思疎通が難しく、好き勝手にそこらへんをうろうろしてるだけだ。
一応名前は付けたが……正直、見分けがつかない。
シエルみたいに動きがあれば分かり易いのだが。
というより、このシエルが特別なだけかもしれないけど。
「シエル……その肩の所も頼む」
俺は自分で揉んでほしい部分を手で示すと、シエルは体をうねらせて肩を揉んでくれる。
「あ~……そこ。そこだ……」
とにかくだ。今俺はとてもこの島で快適に過ごしている。
生命の危機を脱した上に、”採掘”という生甲斐が出来た。
もちろん魚ばっかじゃ飽きるし、あれこれ魔法で工夫したいところだが……
気が付けば俺はもう、採掘のことしか考えてなかった。
希少な鉱物が、ピッケル一つでザクザク掘れてしまうのだ。
こんな楽しいことは他にはない。
というより、この島でできることって、現状それぐらいだからね。
……明日も掘るぞ!
俺はひんやりとしたシエルの上で、気持ちよく眠りにつくのであった。
……うん? なんだ?
頬をつんつんとされたので、俺は目を開く。
起こしたのはどうやら、シエルのようだ。
体を起こして外を見ると、まだ朝焼けの時間。
波も穏やかで、気持ちの良い目覚めだった。
「シエル、おはよう……俺を起こしてくれたのか?」
シエルは体を伸ばして、矢印の先端のような形を海側に向ける。
「何かあったのか? うん? あれは……」
岩場には難破したボートがあった。
俺の乗ってきたものではなく、木片が散らかっている。
そしてその周囲には、人ならざる者が三体ほど横たわっていた。
緑の肌の者……ゴブリンか。
周辺に大型船は見えないから、どこからか漂流してきたか。
身に着けている毛皮もぼろぼろだ。
ここも岩場とはいえ陸地だ。
海を彷徨うよりは、はるかに安全。
食糧や水も手に入るかもしない。
そう考え上陸しようとしたが、波に呑まれたのだろう……
ボートの壊れ具合を見るに、皆相当な速さで岩に叩きつけられたか。
死んでいてもおかしくない。
一応、生きてるか声を掛けてみよう。
使える物を持っている可能性も有るし。
こちらを襲ってくるかもしれないが……
今の俺は中位魔法が使える。恐れることはない。
俺は早速シエルを従えて、ゴブリンたちに向かった。
「……おーい、大丈夫かー?」
こちらの声には誰も反応を示さなかった。
よく見れば、皆血を流している。
……これはもう駄目かもしれない。
一応、一体ずつ息があるか近寄って確認する。
すると意外にも、三体とも息があった。
「……まだ、生きてるな」
なんとか助けてやりたいが、相手は魔物のゴブリンだ。
ゴブリンは部族を形成して生活するのだが、基本は人間と敵対関係にある。
だいたいの人間はゴブリンを見たら殺せと教わるし、逆もしかりだ。
しかし一方で、人間と友好的な部族もいるという。
どちらかの区別は難しい……
まあ、今の俺は中位魔法を軽々扱える。
洞窟の中は真っ暗だし、道も複雑。
採掘中に後ろから襲われるなんてことはないだろう。
このまま見捨てて死なれたら、後々罪悪感でうなされそうでもある。
俺はすぐに回復魔法リカバリーを、ゴブリンたちに掛けた。
白い光がゴブリンたちを包む。
流血は止まったようだ。
息の調子も穏やかになったと思う。
専門家じゃないのでなんとも言えないが、回復したのは確かじゃなかろうか?
さてこの後だが……
このままでは彼らは波に濡れてしまう。
やがて潮も満ちてこよう。
陽も強くなってくるし、洞窟に寝させてやるか。
まずは……あいつが運びやすそうだな。
ゴブリンの中で、一番小さい者をまず持ち上げる。
人間の幼児のような大きさで、黒ずんだ緑の肌をしていた。
体も丸っぽく、本当に軽々運べた。
次に、先程のゴブリンより少し背丈の高い者を運ぶ。
葉っぱのような緑の肌だが、皺も目立つので老人かもしれない。
こちらもやせ細っていて、運ぶのは簡単だった。
そして最後が困った。
ゴブリンは小さいことで有名だが、この者は俺よりも背丈が高い。
しかも筋骨隆々で、ゴブリンよりかはオークを思わせる見た目だ。
どう持ち上げようか……うん?
迷ってると、シエルが自分の体を広げ、この大きなゴブリンを洞窟まで運んでいった。
「いやあ。シエル、助かったよ」
シエルはなかなか察しが早くなってきたようだ。
こうして俺たちは、ゴブリンを三体洞窟の入り口に運び終えた。
さて、どうするかな?
俺は早く採掘に向かいたい……
看病の必要が有るならさすがに行けないが、もう外傷も見当たらない。
水と食料はあるわけだし、起きたら勝手に飲み食いしてくれるだろう。
俺の手は自然とピッケルを握っていた。
「シエル……こいつらに何かあったら、教えてくれるか?」
シエルは俺の声に頷いたりはしない。
だから身振り手振りで、なんとなく伝えてみる。
それが上手く伝わったのか、俺が洞窟を降りても、シエルはその場にとどまってくれた。
……これで心置きなく採掘ができるっ!
俺は今日も、ピッケルで岩壁を叩くのであった。




