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三十九話 あの子も掘っちゃいました!

「それじゃあ、始めるとしますか……」


 俺は洞窟の奥まで下りると、ピッケルを振り始めた。

 

 岩と金属がぶつかる音が洞窟の中で反響する。


「……うん、やはりこの音を聞くと落ち着くな」


 隣では、スライムのシエルが頷くように体をうねらせる。


 カミュがこの島に来て、リヴァイアサンが来て……俺はあらゆる対応に追われた。

 具体的には今後についての調整や、リヴァイアサンやオークたちが乗ってきた船の残骸の処理に……

 

 とはいえ、採掘を中断して三日ほどしかまだ経っていない。

 それなのに久々な気がするのは、俺が採掘をしていないと気が済まないからだろう。


 だが、これからは採掘に集中できる……はず。


 というのも、島の領民が五百を超えた今、俺は各分野での長を定めることにしたのだ。


 まずは、島の実質的な政治を主導する役割……王国の宮廷では宰相にあたる仕事は、バリスに任せた。

 最初、バリスは俺のこの指名を固辞したが、周りの声もあってなんとか受けてくれた。

 細かな問題の解決する裁判官のような役目も、とりあえずはバリスが受け持つ。

 だが、大きな問題は俺や皆と相談して決めるということだ。


 次に食料や衣料の担当は、リエナが担う。

 こちらは王国で言えば、農務相やらにあたるか。

 リエナには他にも、地上で俺がいない時の代理を任せてある。

 俺が王様だとしたら、副王や総督と呼んでいいだろう。


 エレヴァンには島の防衛を任せ、国防大臣とした。

 ゴーレムや島の警備隊を従え、島外からの攻撃に備える。

 

 アシュトンとハイネスはエレヴァンを補佐しつつ、島の治安維持やキラーバードなどの狩りを担当。

 喧嘩やトラブルの仲裁役ということだ。


 そしてカミュ。

 カミュは船の扱いに長けるので、海に関することを幅広く担当させる。

 もし海上で戦いが起これば、エレヴァンではなくカミュが指揮を執る。

 いわば、海軍の長官のようなものだ。

 あとは本人の強い要請で、シェオールファッション大臣なるものも兼任させている。


 マッパは今まで同様、鍛冶を任せる。

 無口なマッパだが、鍛冶をする他の魔物たちに、実演して指導してくれている。

 その甲斐あってか、徐々に質の良い道具を作れる者も現れているようだ。


 ……というか、カミュ以外は皆、今までとあまり担当が変わってない気がするな……

 何も言わなくても、タランは糸づくり、シエルは運搬を続けているし。

 建築に関しては、皆で相談して作ってくれと投げている。


 そして俺は……洞窟大臣を自称した。

 洞窟大臣という名前からも分かるように、洞窟に関する諸々の担当するという曖昧かつ適当な職務である。

 

 とまあ、これで俺は採掘に心置きなく集中できるというわけだ。

 

 決して地上に関することが面倒だからではない。

 適材適所というやつである。

 

 それに地上で何かあったら、俺も任せっきりにするつもりはない。

 あくまで、通常はこれでやっていこうという話だ。


 俺は元気よくピッケルを振る。


「なんだか久しぶりに、なんの心配もなく採掘できてるな……」


 洞窟で採掘してる他の者に危険があった場合は、魔力を探知できるゴーレムが守ってくれる。

 【洞窟王】の補助効果で特に落盤の心配もない。


 一つ気がかりなのは、洞窟の入り口に戻るまで時間が掛かるようになったということか。

 ここからは十五分ほどかかる。


 下りる時はシエルたちスライムが乗せて滑ってくれるからいいのだが、上りは時間が掛かる。

 主に皆を乗せてくれるスライムやケイブスパイダーだが、急かすのも悪い。

 ただでさえ、皆の移動の疲労を軽減してくれてるのだから。


 何かを運ぶ手段で真っ先に浮かぶのは馬車だ。

 ロバにでも牽かせれば、坂道も進めるはず……

 が、ロバなどこの島には存在しない。

 

 洞窟内の移動手段は少し考える必要が有るだろう。

 

 クリスタルや他の鉱石を使って、何かできないだろうか?

 マッパや他の皆の知恵を借りてもいいかもしれない。


 それか、何か役に立つ石が手に入ればな……


 俺はそんなことを考えながらピッケルを振りつづけた。

 

 そんな時、後ろから声が掛かる。


「あ、ヒール様! いたいた!」


 振り返るとそこには、「おーい」と俺に大きく手を振る短い黒髪の美女が。


 一瞬どちら様と訊ねたくなったが、彼女は元ゴブリンのフーレだ。

 リエナ同様、昇魔石を使い人間のような姿となり、魔法を使えるようになった。

 長い前髪で片眼が隠れてはいるが、目鼻立ちの整った顔をしており、思わずどきっとしてしまう。


 とはいえ、俺はいつもと変わらずに返す。


「フーレ。なんか用か?」

「うん。リルちゃんなんだけどさ……っと」


 フーレがそう言うと、その肩に白くてちっこいコボルトの赤ちゃんリルが現れる。

 体は小さいが、もう二本足で立っていた。

 そしてその小さな手には、これまた可愛らしいちっちゃなピッケルが握られていた。


 俺からすれば、羽根ペンほどの大きさのピッケル。

 だが、恐らく世界樹の枝とミスリルで作られており、おもちゃと呼ぶには精巧すぎる。


「リル、もう立てるようになったんだな。それは、マッパに作ってもらったのか?」


 俺の問いかけにリルは頷かないが、フーレは頷く。


「マッパさんが作ってくれたんだけど、受け取るなりずっと地面を叩いててさ。リエナさんがヒール様のもとに連れていったらどうかって」

「そっか……リル、それで洞窟掘りたいのか?」


 言葉など理解できてるとは思わない。


 しかし、リルは状況から察しているのか、コクリと頷く。


「……分かった。まだ少し早いとは思うけど、リルにも【洞窟王】の恩恵を与えようか」


 俺も首を振ると、頭に助言者の声が響く。


≪テイムが可能な魔物がいます。テイムしますか?≫


 ……頼む。


≪命名完了。リルをテイムしました≫


 テイムが終わると共に、リルは驚いた様子で洞窟内をきょろきょろと見渡す。

 

 どうやら、早速洞窟王の補助機能で岩壁の白い光が見えるようになったことに驚いているらしい。

 

 だが、驚いたのはフーレもだった。


「え? 何か、すごく明るくなってる?」


 首を傾げる俺の頭に、助言者が続ける。


≪各熟練度が一定値を超えたため、紋章【洞窟王】をランク3にアップします≫


 これは以前、ケイブスパイダーのタランをテイムした時に聞いた言葉と一緒だ。

 すると、またやれることが増えたのか?


≪ランク3にアップしたことで、【洞窟王】の効果が向上、拡張されます≫


 おお、それでどんなことができるようになるんだ?


≪採掘補助機能の効果が向上いたしました。洞窟外でも、採掘最適化が使えるようになります≫


 つまり、今洞窟でここを掘るべきという白い光が、洞窟外でも見えるようになったということだ。

 これは確かに便利だ。


≪また、テイム中の魔物に暗視機能を付与いたします≫

 

 なるほど、リルやフーレが驚いているのは、暗視機能が追加され、一気に視界が明るくなったからか。

 今までは壁にかけていた輝石の明りだけだったのが、外のような明るさになったのだから驚くのも無理はない。


「どうやら俺の能力と同じものが、皆も使えるようになったみたいだな」

「これがヒール様が言ってた暗視とかいうやつなんだ……すごいなあ」

「だろ? まるで外にいるみたいだからな…… とにかく、これでもうあまり輝石を使わなくても済むか」


 とはいえ、輝石があればあるで、更に明るくもなる。

 輝石自体はよく掘れるので、マッパのためにも洞窟に設置し続けよう。

 

 まあ、やつは暗闇の中でもやってくるが……


 フーレは俺に言う。


「……これで採掘も更に捗るね! 私もこれから掘るつもりで来たんだ」

「そっか。じゃあ、一緒に掘ろうか? リルも一緒に」


 フーレは俺に元気よく頷いた。


「この前よりももっといい物掘らなきゃね!」

「お、もしかしてフーレも、採掘に嵌ったか?」

「うん! ここは掘れば掘るだけ、色んなものでてくるしね。それにヒール様から気に入られてこいって、お父さんに言われてるし!」

「へ? 気に入る? どういう意味だ?」

「そりゃ当然、言葉通りの意味だよ。こんな見た目になったんだし、この島の王様はヒール様なんだから、気に入られたいって思うのは当然でしょ?」


 つまり……俺を結婚候補に考えているってことか?

 いやいや、フーレみたいなしっかり者が、俺みたいな情けない男をそんな目で見るわけない。

 でも、言葉の意味を考えれば、そうとしか考えられなくないか?

 だがしかし、俺には好きな人が……


 俺は一人顔を真っ赤にして、その場に立ち尽くす。


 一方のフーレは、いつもの口調で「頑張るぞ!」とピッケルを振り始める。

 そしてリルも、それに応えるように小さなピッケルで岩壁を掘り始めた。


 俺もいかんいかんと、リルを指導しながら採掘をするのであった。

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