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三十八話 格好良く進化しました!!!

 俺が悲鳴を上げると、カミュも大きな胸をちょっとだけ隠し、きゃあと甲高い声で叫ぶ。


 だが、男性のシンボルは隠せてない。

 

「……もう、ヒール様のえっち!」


 いや、そんな胸を見せつけるように言われても……


「ふざけてねえで、そのみっともないのなんとかしろ……ってか、その姿はどういうことだ?」


 エレヴァンがそう言うと、近くにいたリエナが元々カミュが着ていたコートを手渡す。


 俺もどういうことなんだと訊ねたい。

 一見するとカミュは、俺と同い年ぐらいの翼の生えた美少女……

 しかし一点、男性の特徴を持っていた。


 カミュはコートを羽織りながら答える。


「どうもこうも、見た目ぐらい好きにしてもいいでしょ? あ。ありがとう」


 カミュの前に、体を伸ばし鏡の代わりとなったシエルが現れる。

 

「……あら、まるで天使みたい。前のあたいも十分美しかったけど、やっぱりこの石の効果はすごいわねー。更に美しくなったわ」

「人間の姿は、どうせ大将に好かれようとか願ったんだろ……まあ、羽は有るみたいだし、飛べるようだが…… というか、お前は女になりたいって願わなかったのか?」


 エレヴァンの問いにカミュは即座に答える。


「女になりたいですって? 私は元から立派な女よ、失礼しちゃう! あなた顔はイケてるのに、本当、デリカシーがないわね!」


 えっと、つまり……

 カミュは俺に好かれる見た目になりたい、またはもっと美しくなりたいと願った。

 だが、女の体になりたいとは願わなかったわけか。

 故に前の体の名残が……


 言い争うカミュとエレヴァンに割って入って、リエナが言う。


「お二人とも、おやめください……とにかく、カミュ様は入り口でお洋服を着ましょう。そのコートもだぼだぼですし、裁縫が得意なコボルトに直してもらうといいでしょう」

「そうね。せっかくこんな衣装映えする体になったんだし、色々頼んでみるわ! じゃあ、ヒール様。またあとで!」


 カミュは俺に投げキッスをして、入り口ヘ向かうのであった。


 思っていた以上の進化だったな……とはいえ、翼を見るに空も飛べるだろうし、魔力も感じ取れたので、約束した願いは叶えたようだ。


「ふむ……ともかく、要らぬ恥をかかぬよう、服はすぐに着られるようにしておくのが良さそうですのう。では、ワシも使わせていただきます」


 バリスはそう言って、昇魔石を天高く掲げた。


 すると、今までと同様に、バリスを眩い光が包む。

 光が収まると、そこには……


 おお、格好いい……


 俺は思わず、目の前に現れた灰色の肌の者を、内心で称えた。


 長い耳や顔はゴブリンの特徴を引き継いでいるが、頭には羊のような二本角が見える。

 俺よりも背の高い体には、人間でも羨むような立派な筋肉が付いていた。

 背中には真っ黒なコウモリのような翼を生やしており、神話の悪魔のような風貌だ。


 皺は少し見えるが、目鼻はくっきりとしており、前のおじいちゃんというような弱弱しさは感じられない。


「ふむ……これは随分と体が軽くなりましたな……」


 バリスは自分の手や足を見て、以前よりも澄んだ声で呟いた。


 この進化にはエレヴァンも驚く、


「本当にあんた……バリス様なのか?」

「ええ。ただ若返ったのではなく、とてつもない力を感じますな……これが魔力というものか」


 バリスはニヤリと、少し悪そうな顔で笑った。

 いや、こういう顔というだけで、別に悪だくみをしてるわけじゃなさそうだが……


 エレヴァンは、バリスが自分と同等かそれ以上の筋肉を手に入れたことが、少し悔しそうだ。


 そこに、人間の姿になり、白いシャツを着たフーレが声を掛ける。


「お待たせ! ……あれ? もしかして、お父さんも進化したくなっちゃった?」

「……う、うるせえ! 俺はそんな物に頼らなくたって最強だ!」

「ふーん……でも、進化も良いものだけどなあ。視界もだいぶお父さんに近づいたし、さっきからすごい力が体に宿っている気がするんだよ」


 どうやらフーレもバリスも、魔力の存在を感じ取っているようだ。 


 魔力を察知できるということは、自動で覚える魔力探知を習得しているはず。

 そして魔力探知を習得するには、それなりの量の魔力を持っている必要が有る。

 つまり、今のバリスとフーレはそれなりの魔力を扱えるということなのだ。


 バリスは年甲斐もなく嬉しそうであったが、すぐに俺に振り返る。


「……これは失礼しました、ヒール殿。カミュ殿も戻られるみたいですし、魔法の方は後ほど試させていただきましょう」


 とりあえずのシャツを着たカミュを加え、俺たちは再び円卓を囲んだ。


「で、この替玉石だが……やはり、誰かを復活させる竜球石にするのが、一番の使い道かな? ……とすると、誰を復活させるかだが」


 俺が言い終わると、バリスが口を開いた。


「もし誰かを復活させるのであれば、ワシはティベリス族……コボルトの女王陛下を復活させるのが良いと思います」


 その提案に、コボルトのアシュトンとハイネスは、神妙な面持ちになる。


 アシュトンはこう答えた。


「それは願ってもない申し出ですが……誰もが復活させたい方がいるはず。特にまだ何も貢献してない我らに使っていただくのは……」


 アシュトンの言う通り、ここの島にいる者の多くは戦争などで家族を失ってきた。

 誰かを復活させたいと願う者は、多いはずなのだ。


「いいえ、アシュトン殿。ワシはあくまでこの島の利益を思って、言ったまで。ティベリス族の女王は魔法の使い手と聞きました。復活なされば、色々とこの島を助けてくださるのではと思いましてな」

「なるほど……それはそうでしょうが……」


 女王が生き返れば、今マッパとシエルと戯れてる、あのコボルトの赤ちゃんリルも、本当の母親と会える。

 アシュトンとハイネスたちコボルトにとっては、願ってもないことだろうが……

 そしてバリスの言うように、島の発展に大いに力になってくれるかもしれない。


 アシュトンは少し考えて、こう発言する。


「……正直に申し上げれば、すぐにでもお願いしたい。我ら兄弟にとっても、母同然のお方でしたから。 ……ですが、島のためを申せば、その石は取っておくという選択肢もあるのではないでしょうか?」

「なるほど……今生きている誰かが死んだ時のためってことだな」

「ええ。それに失礼ですが……万が一、ヒール殿の身に何かあればと考えますと…… やはり、その石は取っておくべきかと」


 俺の身を案じるか……

 

 確かに言われてみれば、俺が倒れればいくらかこの島にとって不利益が生じるかもしれない。

 考えたくはないが、部族同士の争いが再燃することも有る。

 忠誠を示すというよりは、純粋にこの島には俺が必要と思って言ってくれたのだろう。


 バリスも頷く。


「確かに、手に入れたからと言ってすぐに使う必要はありませぬな。保険のために手元に控えておくのもよろしいかと」

「私も賛成です。復活のための竜球石はまた見つかるかもしれませんが、何かの代わりになれる石となると、もう手に入らない可能性も…… 別の石が見つかった時、そちらのために取っておけば良かったとなるかもしれませんし」


 リエナの言うように、”代わり”にもなる石ともなると、希少である可能性も有る。


 しかも、世界で一つしかない石が出てきたら、その代わりにもなるのだから、よくよく考えればどんな石よりも価値があるものかもしれない。

 例えば、竜球石よりも優れた石……複数の者を復活させる石が出てきたら、そっちに使った方が良かったとなりかねないしな……


「……分かった。この石は取っておこうと思うが、皆どうだ?」


 俺の声に皆、うんと頷いた。


 こうして、この石は大事に俺のポケットに収まるところとなる。


 その後は、島での役割担当などの小難しい話をして、会議は終わるのであった。

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