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三十七話 謎の生物に進化しました!!

次回更新は、10月11日になります!!!

「ってことは……その替玉石は、昇魔石はおろか、死者を蘇生できる竜球石のかわりにもなるっていうわけですね……こりゃまた、とんでもない石だ」


 コボルトのハイネスは、俺がした替玉石の説明を信じられないといった顔で答えた。

 

 同じく円卓を囲むアシュトンもそれに頷く。


「……にわかには信じがたい話ですな。そもそも、まず竜球石という石の存在からして……」

「信じられないって言っても、現にそこのマッパは生き返ったんだ。あいつが作る物見りゃ、とてもじゃねえが今の時代のものとは思えねえだろ」


 エレヴァンは、円卓の後ろでシエルたちスライムと戯れるマッパを見て呟いた。


「確かに……あのような裸のおっさ……人間は見たことがない」


 アシュトンの声に、ハイネスもうんと頷く。


「ってよりは、そもそもあんな昇魔石なんて石がある時点で、ぶっ飛んでるしな……すいません、ヒール様。話を遮っちまって」


 ハイネスとアシュトンは、ぺこりと頭を下げた。


「いや、気にするな。普通はこんなの信じられない。 ……で、まずは昇魔石だが」


 俺は昇魔石を持って、皆に続ける。


「単刀直入に聞こう。誰か、使いたい奴いるか?」

「はい! はい! ヒール様、あたいが使いたい!!」


 早速、元気よく挙手する巨漢が一人……

 カミュだ。


 まあ、さっきの反応を見れば、予想はしていた。

 

 目を輝かせるカミュに、エレヴァンが吠える。


「おい、カミュ! 少しは、遠慮ってもんを知らねえのか! お前はここに来たばかりだろ!?」

「い、いいじゃない! あたいももっと強くなって、ヒール様をお守りしたいわ!」

「てめえは、もう十分強いだろ! どうせ、女になりたいとか、そんなんだろ?!」

「なりたい?! あたいはもう立派な絶世の美女よ! 今の言葉は取り消しなさい!!」

「絶世? 絶句の間違いだろ? いや、絶息か?」

「あんた!! いくらなんでも許さないわよ!!」

「んだと? やるか?」


 エレヴァンとカミュは互いに立ち上がり、足音を立て近寄る。


「ま、まあまあ、二人とも!」


 アシュトンとハイネスが二人を抑えるのと、俺の制止でカミュとエレヴァンは渋々席に戻った。


 まあ、テイムのおかげで、やろうとしても喧嘩にはならないが。


 というか、こうやって見るとこの島……武闘派が多いな。

 今立ち上がっているエレヴァン、カミュ、アシュトン、ハイネスは各部族でも指折りの戦士だ。

 正直、島の防備を指揮できる者は、十分とも言える。


 そんな中、バリスが言った。


「ふむ。ヒール殿。使いたい者に渡すのも良いですが、ここは島のために使うという選択肢もありではないでしょうか?」

「島のためか。つまり、島のためにこういう進化をしてもらいたい、と指示するわけか?」

「いかにも。例えば、空を飛べるように進化させ、もっと遠方を偵察できるようにするとか。今不足している役割を担えるよう、進化させるのです」

「なるほど……」

「まだこの島には色々と問題が有りますゆえ。食糧もそうですが、防備……様々なことを解決しなければなりません」


 さすが、バリスだ。

 だけども、こういうふうに進化してくれと強制するのは、嫌な気もするな。


 ……というより、昇魔石で願ったことって、全て叶うのだろうか?


 俺はリエナに、訊ねてみる。


「リエナ……進化する時、願ったことで叶わなかったことってあるか?」

「叶わなかったことですか? そうですね……実は力仕事もできるよう、もっと強靭な体になるようにも願ったのですが、結局はこうして細い体になってしまいましたね……」


 申し訳なさそうにするリエナだが、結果として良かったと思う。

 ……個人的に今の姿の方が、というだけだが。


「そうか……とすると、あまり願いを多くしても、駄目なのかもな」


 リエナが俺に答える。


「その可能性は高いと思います。二つ……いえ、三つぐらいなら、願いも叶うと思いますが」

「なるほどな……」


 当然と言えば当然か。

 例えば、不老不死で、体が傷つかないで、魔力も無限に持てて、頭が良くなって……全て叶ったら、神のような存在になってしまうだろう。

 願って叶うことの限度もありそうだ。


 カミュたちが再び着席すると、アシュトンが口を開いた。


「されば……我はバリス殿が昇魔石を使われるべきと存じます」


 この言葉に、バリスは少し驚いた顔をした。

 

 だが、俺も島のためというなら、バリスがまず一番に使うべきだと思う。

 バリスに使わせたいという感情もあるが、それ以上に……


「ワシが使うなどもったいない…… アシュトン殿は何故、このワシが使うべきだと?」

「こう言っては他の方々に失礼かもしれませんが、バリス殿はヒール殿の一番の補佐と思っております。島のあらゆることを熟知しており、問題解決のための計画も立てておられる」


 アシュトンはよく見ているな……

 俺にとって、バリスは補佐というより、保護者みたいなものだ。

 領主として未熟なので、バリスがいないとどうにもならない。 


 武闘派が多いこの島で、バリスは唯一の頭脳派と言えよう。


「ワシはただ、ヒール殿のご命令に従っておるだけ……たいしたことはなにも。このような老いぼれでなくても、誰でもできることです」

「いえ、この島にはあなたが必要なのです」


 アシュトンの声に、俺だけでなくリエナやエレヴァンも頷いた。


「そうだな……バリスにもっと長生きしてもらえば、俺も助かる」


 リエナも深く頷く。


「私もです。バリスは私たちベルダン族にとっても、失うわけにはいきません」

「お二人とも……」


 バリスは皆に必要とされていることに、返す言葉が見つからないようだ。

 

 そもそもバリスは、誰よりも昇魔石を使いたいはず。

 だが、それは自分の欲だということを分かっているのだろう。


 しかし、公私を分けても、バリスは昇魔石を十分に役立てることができる。

 

 バリスも自分の力が、今のこの島に必要であることは分かるはずだが……

 

 バリスは少し考えると、決心したように頷いた。


「……分かりました。ワシでよろしければ、この島のため、石を使わせていただきましょうぞ」

「それがいい。バリスは【魔導王】の紋章も持っているんだ。魔法も使えるようになれば、こっちももっと助かる」


 俺が頷くと、皆もうんうんと頷き始めた。

 

 バリスは皆に向かって頭を下げる。


「ありがとうございます。それではワシは、まず寿命を延ばすことを願い、魔法を使えるようになること、空を飛べるようになることを願い、昇魔石を使おうと思います」


 皆、異議なしと頷く。

 俺もそれを見て言った。


「じゃあ、バリスは決まりだな。で、あと一つだが…… 誰か、意見はあるか?」


 辺りを見渡すが、はいはいと挙手するカミュ以外からは意見が出なかった。


 カミュは自分の欲のため使いたいのだろう。


 もちろんそれは別に構わないが、フーレの皆のために使ってという言葉を考えれば、一応使ってどうするのかを聞きたい。


「カミュ……聞いてもいいか? お前はこれを使ってどうするつもりだ?」

「もちろん、島の皆のためになるように使うわよ! でもその前に、あたいの強みを話そうかしら。それからのほうが、進化がどう活かせるか伝わりやすいと思うから」 

「そうだな。そうしてくれ」

 

 俺の声に、カミュは自信満々で答えた。


「まず、船を操るなら、あたいはここの誰にも負けないと断言できるわ! 四十年前に生まれてからずっと、海の上で過ごしてきた。陸地にいた時間は……五年も満たないわね」


 その言葉に、アシュトンとハイネス、バリスはうんと頷く。

 エレヴァンもカミュの航海術には、反論のしようがない。


 現に、王国海軍の戦列艦を旗艦とし、百隻の船団を従えていたのだ。

 リヴァイアサンは相手が悪かっただけで、その実力は疑いようもない。


「あたいが思うに、この島は今の状態でも確かに生きていける環境にあるわ。でも、どうしてもまかなえない物もある。そうじゃない?」


 俺はただ、カミュの言葉に頷く。


 食糧だけでも、今の島の広さでは量も種類も育てられる限度がある。


 そしてそれ以上に不足しているのは、知識や技術か。


 例えば魔法。

 俺はかつて魔力が少なく、とても高位魔法はおろか中位魔法すら扱えなかった。

 故に、高位魔法についての知識があやふやだ。

 

 言うまでもなく、魔法は島の生活を豊かにする。

 水や魚を得るために役立っているし、使える魔法が増えればもっとやりようもあるだろう。


 あとは農業や土木建築の技術…… 本が一冊あるだけでも違うだろう。


「幸い、この島には売れそうな物が一杯ある。さっき見せてもらったミスリルもそうだけど、鍛冶場の近くには乱暴に置かれた金塊も見えたわ」

「つまりは、海の向こうと交易をするわけですな。それは確かに、必要なことかと」


 バリスはカミュにそう答える。

 俺も皆も、もっともだと頷いた。


 しかし、エレヴァンが問う。


「そんなことは分かってる。だけど、それでお前が進化をするのとなんの関係があるんだ?」

「もう、本当にせっかちさんね…… 極端に言えば、あたい一人でも船を動かせるようにするわけよ。遠くを見渡せるようになって、かつどんな時でも船を進められるような……」


 カミュは俺に向かって続ける。


「あたいは、海の知識に関しては一流と断言できるわ。 ……でも、海は知識だけで乗り越えられない時もある。あの怪物は極端な例だけど……嵐に遭ったりね」


 確かに、航海が必ず成功するなら、保険という制度はできてないだろう。

 常に船や積み荷が失われる恐れがあるから、お金を出してもしもの時の補填に備えるのだ。

 それだけ、航海は危険だということ。


「具体的に言えば、あたいも魔法を使えるようになって、空を飛べるようになりたい、ってとこね」

「風魔法が使えれば、帆に風を送れる。空を飛べれば、進む方向を空から見渡せるってことか」


 俺の声にカミュは頷く。


 ……あれ? 

 なんだか、思いもしなかったぐらいに、まともな理由だな。

 いや、確かにカミュのいうことはもっともだし、島のためになるだろう。


 カミュは止めを刺すように続けた。


「今この島にある小さな船じゃ、外洋を航海するのは難しい。でも、あたいが進化すればそれも可能になると思うわ……どうかしら?」


 これには皆、頷くしかなかった。

 自分なら、カミュ以上に役立てる、ということが説明できなかったのかもしれない。


 カミュはしたり顔を俺に向ける。

 いかつい顔でにやりと笑い、なんだか悪人のようだ…… 

 まあ、使いたいという希望もあるし、良いんじゃないだろうか。


「他に意見がある奴はいるか? ここにいない者にも聞いてみてもいいが」


 俺が言うと、バリスが答えた。


「いや、ヒール殿。知識と技術という点で言えば、確かにカミュ殿が進化するにふさわしいでしょう。体は変えられても、知識だけは変えられませぬ」


 アシュトンも頷く。


「我らコボルトも、カミュ殿以上に石を役立てられそうな者はおりませぬな」

「そうか。じゃあ、もう一つはカミュが使うということでいいか?」


 俺の声に、カミュが「異議なし!!」と声高に主張する。

 他の者も特に反対しなかった。


「決まりだな……それじゃあ」


 俺は昇魔石をバリスとカミュに手渡す。


「ありがとうございます。 ……これでワシも魔法が」

「ああ! ……まさか、こんな日が来るなんて……あ、もちろんヒール様のために使わせてもらいますわ!」


 バリスとカミュは、それぞれ感慨深そうに昇魔石を受け取った。


「一旦、会議は小休止といこうか。二人は使いたかったら、もう使ってもいいぞ」

「本当ですか?! それじゃあ、お先にっ!!」


 カミュはそう言って、昇魔石を高く掲げた。


 石からはすぐに光が広がり、カミュの体を包み込む。


 そして光が収まると……


 背から生えた真っ白い翼が目を惹く、長いブラウンヘアーの美女が目を瞑り立っていた。


 顔は女神を思わせ……神話の絵に描かれた天使のように見える。

 胸は大きいが、前までの巨体はどこへやら華奢な体つき。

 予想通りというべきか、カミュはやはり美女になりたかったようだ。


 俺はカミュをじっと見つめる。


 不思議とここまで美しいと、何故かいやらしい気持ちにもならない。

 ……いや、何故だ? 普通だったら、とっくに目を逸らしているはずだが……


 あれ? ……なんかおかしくない?


 俺はあることに気が付き、思わずカミュのある部分を二度見した。


 ……なんか……ついてるっ?!


 次の瞬間、俺は悲鳴を上げるのであった。

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