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三十六話 会議を開きました!!!

「な、なにこれぇっ?!」


 カミュはミスリルでできた斧を持ち上げて、思わず声を上げる。

 

「これ、本当に斧なの? 中、空洞になってるんじゃない?」


 マッパは、そんなカミュの声には何一つ答えない。

 ただ金槌を振って何かを作っているようであった。


 そしてそれが出来上がると、マッパはカミュに手渡した。


「こ、これって……まさか、細剣?」


 マッパはうむと頷いた。


 刃から柄まで、全てがミスリルでできた細剣。

 刀身の紋様や、柄頭の造形が、まるで金細工の芸術品のように凝っている。

 これをものの数分で作り上げてしまうのだから、やはりマッパの鍛冶技術はたいしたものだ。


「嘘、これを私に……?」


 カミュは目を輝かせ、ミスリル製の細剣を手に取る。

 軽く振って、その軽さを実感しているようだ。


「す、すごいわ……こんな剣、今まで触ったこともない。あなた、最高よ!」


 両手を広げるカミュだが、マッパは両手を胸の前で振って拒否する。

 皆が気味悪がる感じなのに対し、マッパの断り方はどこか紳士的であった。


 だが、その分カミュも寂しそうだ。


「な、何よ、おっさんのくせに……裸のくせに!! あなたなんて、本気じゃないんだからね!!」


 カミュはふんっとそっぽを向いた。


 今日起きてからというもの、カミュはずっとこんな感じで島のあちこちを見て回っている。


 俺はというと、戦列艦や他の船の残骸を集める手伝いと、墓地を作っていた。

 そしてそれもひとまず終わり、バリスのもとへ帰るところだ。


「カミュ、それにマッパ。バリスがお前たちを呼んでいる。一緒に来てくれ」

「あぁ、ヒール様! もちろん、ご一緒いたしますわ! だけど、あのご老人があたいにも用があるなんて」

「カミュはこの島のオークの頭領だ。バリスは種族ごとの主だった者を集めて、会議をしたいんだよ」


 バリスはと言ったが、これは俺の要請でもある。

 というのは、この前手に入れた昇魔石二個と替玉石……これの使い途を協議したかったのだ。

 この二種類の石は使い方によっては、島に大きな恩恵をもたらすだろう。


 昇魔石は、使用する魔物が、自分の望む姿に進化できる石だ。


 例えば……

 ゴブリンが魔法を使えないのは、魔力を扱えない体だからだ。

 しかし、昇魔石があれば、魔力を扱える体に進化させることができる。


 また、替玉石は使用することで、どんな石にも変えることができるものだ。


 つまり、死者を蘇生するための竜球石にもなる。 

 もし類まれな能力を持つ者がいれば、蘇生し、島の生活を助けてもらうこともできるだろう。

 もちろん、昇魔石として利用するのも手だし、まだ見ぬ石と変えるために取っておいても良い。


 だが、死者を生き返らせるという行為は、俺は慎重になるべきだと思っている。

 もちろん、誰もが死にたくて死んだわけじゃないと思いたいが、例外……死にたくて死んだ者もいると思うからだ。生涯に満足して、死を迎えた者もいるだろう。

 これはとても、俺一人で決められるような案件じゃない。 


 とまあ、俺が一人で決められないようなことを協議したかったのだが、バリスも皆に相談したいことがあったらしい。

 なのでこの際、種族の主だった顔ぶれで会議を開こうとなったわけだ。


 世界樹の下には、巨大な大理石の円卓が置かれていた。

 これはバリスがミスリルゴーレムの十五号に作らせたものだ。

 ゴーレム自体が岩の加工が得意なようで、ものの数分でこの形にしてしまった。

 しっかりと大理石製の椅子も用意されており、露天でなければ会議場と言っても差し支えない。


 巨大な世界樹の下で会議というのも、まあなかなか悪くないが……


 円卓の席には、すでにバリス、アシュトン、ハイネスが着いていた。

 座れないタランも、円卓を囲んでいる。


 ゴブリンにコボルト、ケイブスパイダーか……

 まさか、この島で彼らと一緒に暮らすことになるとは、最初は思いもしなかった。

 そもそも、俺は王宮と王都でずっと育ったので、彼ら魔物を見る機会はなかったのだ。


 そんな中、リエナは一人、皆に振る舞うための茶を用意していた。


 リエナはゴブリンであるが、昇魔石を使い、今は人間のような姿になっている。

 しかも、王宮で見たどんな女性よりも美しい……

 ……はっ、いかんいかん。


 俺は首を横に振り、邪心を捨てる。


 そんな俺が来たことを気付いたのか、皆が立ち上がった。


 バリスが俺に頭を下げると、皆もそれに続く。


「ごめん、バリス。遅くなった」

「いえいえ、ヒール殿。こちらこそ、お呼びして申し訳ございません」

「いやいや、元はと言えば俺がバリスに頼んだんだ。じゃあ、始めるとしようか。カミュ、マッパそこに座ってくれ」


 俺はカミュとマッパ、そしてスライムのシエルに、円卓を囲ませる。

 これで始められる……と思ったが、一つ空席があることに気が付いた。


「そういえば、エレヴァンは……?」

「あ、将軍でしたら」


 リエナは視線をある方向に向けた。

 すると、そこにはフーレと話すエレヴァンが。


 やがて、エレヴァンは神妙な面持ちで頷くと、俺に気が付いたのか、フーレを伴ってやってきた。


「大将、本当に良いんですかい?」

「昇魔石のことか? そもそもそれは、フーレが自分で掘り当てたものだ。俺が許可することじゃない」

「しかし、こんな貴重な物をこいつが……」


 エレヴァンの声に、フーレは言う。


「分かってるよ……これは私一人で掘った物じゃない。だから、ヒール様や皆のためになるよう、この石を使う。約束する」

「フーレ……分かった。それを使わせてもらって、大将のお役に立つよう頑張るんだぞ」

「うん! もちろん、お父さんのためにも!」

「けっ。調子の良いこと言いやがって……まあ、話半分で期待しといてやるよ」


 ……本当は嬉しいくせに、エレヴァンも素直じゃない。


 とまあ、親子のほのぼのを見せつけられた後、フーレが俺に言った。


「それじゃあ、ヒール様。この石、使わせてもらうね」

「何度も言うが、それはフーレの石だ。遠慮しないで、使ってみろ」

「うん!」


 フーレは俺にそう答えた。


 が、カミュはいったい何がと、すぐにでも俺に問いたそうな顔をしている。


 また、恐らくはリエナから昇魔石の存在を知らされていたであろうアシュトンとハイネスは、固唾を呑んでフーレを見守っていた。


「じゃあ……いくよ」


 フーレが昇魔石を掲げると、あたりは眩い光に包まれた。


 そして光が収まると……


「に、人間?!」


 第一声、エレヴァンがそう言った。


 確かに、俺の前には白肌の人間が立っていた。

 

 この俺と同じ年齢ぐらいの”少女”は、ゆっくりと目を開く。

 

 ショートの黒髪は右目を隠すように伸びており、瞳もそれに負けじと黒い。

 また、やせ型ではあるが出る所は出て、それでいて腕や足などは引き締まっている。

 腹などはうっすらと割れているほどには筋肉がついていた。


 皆は、どうして人間に? と驚きを隠せない顔のようだ。

 カミュに至っては、目をぎょっとさせ、顎が外れんばかりに口を開いている。


 円卓の上にいたコボルトの赤ちゃんリルも、突如目の前のフーレが消え、人間が現れたことを不思議がっていた。


 そして俺はそんな中で一人……両手で顔を覆うのであった。


 フーレは不安な声でこう訊ねた。


「え、えっと……どうなってるんだろう?」

「どうなってるも何も、お前も人間になっちまったのかよ……」


 エレヴァンは質問に質問で返した。


「え? 本当?  何か鏡……あ。ありがとう、シエルさん ……って、本当だ」


 びよん、という音がするに、スライムのシエルが鏡になるよう体を伸ばしてくれたのだろう。


 フーレも自分の現在の姿を、認識したらしい。


 皆がどよめく中、エレヴァンの声が響いた。


「どういうことだ? ……姫に続き、フーレまでとは。ベルダン族って先祖は人間かなんかだったのか?」

「いや……ワシはそのようなことは聞いたこともない……ところで、フーレ。お主は何を願い、昇魔石を使ったのじゃ?」


 バリスがフーレに訊ねる声が聞こえた。


「え? えっと……単純に、ヒール様みたいな強い人になれればなあって」


 その言葉に皆、おおと納得した。


 バリスが言う。


「なるほど。故に、髪や瞳の色、背丈がヒール殿に似ておるのだろう。姫も、同じ風に?」

「わ、私ですか? そうですね、私も多分、そんなことを願ったかもしれません!」


 リエナらしくない、不明瞭な言葉が聞こえた。

 しかし、バリスは納得したように答える。


「ふむふむ。そういうことでしたか」


 俺も合点がいった。 

 昇魔石は、使う者が望む姿や能力の種へと進化できるもの。

 リエナとフーレの頭には、魔法を使う俺のイメージがあったのだろう。


 まあ、俺の顔は、進化したリエナやフーレのような美形じゃないが……


「な、なんと……これが昇魔石……」

「こんなの、見たこともないな……」


 アシュトンとハイネスの感心したような声も響く。


 そんな中、俺はこう言った。


「なるほどな。良かったな、フーレ」

「え、う、うん! これもヒール様のおかげだよ! ……でも、どうして顔を隠してるの?」

「え? いや、これは説明すると長いんだが……とりあえず、服を着てきてくれるか?」

「うん? 分かった!」


 フーレはそう言って、足音を立てて出ていった。


 どうやら行ったみたいだな。

 俺は両手を顔から離す。


 リエナは察してくれたようだが、皆は俺の行動を不思議がっているようだった。

 カミュは先ほどより俯いており、無反応だ。


「とまあ、今のが昇魔石というやつだ。アシュトンとハイネス、そしてカミュはこれでどんな石か分かってもらったか?」


 アシュトンとハイネスは、うんと頷く。


 しかし、カミュは体を震わせるだけだ。


「あ、あんなの有り得ない……あんな石があるなんて……あたいは夢でも見てるの……」


 どうやら昇魔石の効果が、信じられないようだ。

 

 まあ、信じたくないような石は、昇魔石だけじゃないんだけどな……


「とりあえず、これらの石について皆と協議させてくれ」


 俺は席に着き、皆と会議を始めるのであった。

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