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三十四話 凱旋しました!!!

 地震のような震動と衝撃に、俺は宙に放り出される。


 このまま地面に打ち付けられたら死ぬだろう……

 俺は風魔法で体を浮かせる。

 

 が、その心配は要らなかったようだ。

 地面にはスライムのシエルが体を拡げて待機している。


 気が付くと、リエナやエレヴァン、皆が駆け寄ってきていた。


 俺はシエルの体に、ゆっくりと舞い降りる。


「ヒール様!!」


 着地と同時に、リエナは俺に抱き着いた。

 涙を流しながら、さらに力強く俺を抱きしめる。


「リエナ……」

「……良かったっ。ヒール様に何かあったら、私っ……私っ!」


 こんなに俺を大事に思っていてくれたとは……

 俺はリエナの背中をさする。

 

 ここは俺も、ぎゅっと抱きしめるべきなのだろうか?

 舞踏会に出席したことがない俺は、女性にどう接すればいいのかいまいち分からないのだ……


 まあ、とりあえずリエナの涙は治まりつつある。

 胸元に抱えていたコボルトの赤ちゃんも、リエナの手をぺろぺろと舐めて励ましてあげている。


「ごめん……心配かけたよ。皆も、ごめん……」


 俺の声に、エレヴァンが首を振った。


「なんで大将が謝るんです? 俺たちこそ、なんの役にも立てず、すいやせん……」

「いや、あんなの誰だって逃げるのが普通だって……」


 今もあの巨体を見て、正直生きた心地がしない。

 凶悪な顔と刃……腕は小さいながらも、鋭利な爪を持っている。


 今回はなんとか【洞窟王】の力でごり押せたが……


 大きく鋭利な岩を瞬時に生成し、敵の直前で射出する……

 ある意味魔法よりも、強力かもしれない。 


 魔法であれば、魔力を探知するスキルで敵に察知されてしまう。

 あれだけの魔法を使うリヴァイアサンだ。当然、そのスキルを持ち合わせていただろう。


 しかし、岩を射出する分には、そのスキルは通用しない。


 バリスが俺に言う。


「ご無事で何よりでした。 ……しかし、これは本当にあのリヴァイアサンなのでしょうか?」

「俺にも分からないけど、見た目も魔法も武器も効かないのは、リヴァイアサンの伝承通りだな……」


 白目を剥き、完全に動きを停止しているリヴァイアサン。 

 死んだとは思うが……慎重に調べる必要が有りそうだ。


 と思ったが、早速興味深そうに近づく男が……

 マッパはリヴァイアサンの鱗をこんこんと叩いて、その強度を確認しているようであった。

 それに飽き足らず、歯を叩いたり、髭を引っ張ったりと好き放題やっている。

 

 まあとにかく、リヴァイアサンは死んだと思って良さそうだ。

 あれだけ強大だった魔力も、今では全く感じられない。

 

 そんな中、アシュトンとハイネスが、ゴブリンとコボルトを率いてやってくる。

 どうやら、腕を拘束したオークたちを連れてきたらしい。


「そこになおれ!!」


 オークたちはカミュを先頭に俺の前で、跪かされる。

 

 アシュトンは俺に訊ねた。


「全てで21名です……ヒール殿、いかがしましょうか?」


 いかがと言われてもな……


 王国や大陸の海運を脅かしてきた、コルバス族。

 彼らは領地を持たず、補給のために沿岸にある同じオークの村落に立ち寄るのだと聞く。

 つまり、彼らの家は船そのもの……

 彼らもまた、故郷を失ったようなものだ。

 そして現に多くの仲間を失った。


 彼らが望むなら、とりあえず受け入れても構わないが……


 だが、このコルバス族は、アシュトンたちティベリス族と戦ったばかりだ。


 ベルダン族とティベリス族も仇敵同士であったが、今では共に生活している。

 しかしそれは、一年以上戦っていなかったことも、考慮しなければならない。

 

 逆にコルバス族とティベリス族は、前の海戦まで仇敵ではなかったはずだ。

 ティベリス族は長く海には出てきてなかったようなので、海を拠点とするコルバス族と争うことはなかったのだろう。

 しかし現時点では、仇敵と言って差し支えないはず……


 俺が迎え入れると言えば、アシュトンたちも従うであろうが……


「そうだな……とりあえずは、海にいるかもしれない生き残りを救助すべきだろう。エレヴァン、頼まれてくれるか?」


 真っ二つに割れ沈んだ戦列艦だが、まだ生きているオークもいるだろう。


「もちろん。おい、お前ら、付いてこい」


 エレヴァンはゴブリンやコボルト、ケイブスパイダーなどを連れて、ボートを出しに行くのであった。


 さて……俺の方はともかく、オークたちの話を聞くとするか。

 俺は唖然としている男前のオーク……カミュに話しかける。


「カミュ、だっけ? お前がコルバス族の頭なのか?」

「……そうよ。いえ、だったと言った方が正しいかしら。仲間も皆海の藻屑だし、財産も帰る船すらもないんだから……」


 カミュはそこまで言って、観念したようにふっと笑う。


「どうぞ殺しなさい……もう生きている意味はないわ。いや、もうあたいは既に死んでいるのかもしれないわね……あんな怪物に襲われ、こんな島に流れ着いて……挙句の果てに、あんたみたいな可愛い人間が、あんな怪物を倒した」


 まあ、そりゃそう思うよね……

 リヴァイアサン自体、伝説として語り継がれる生物だ。

 それに襲われただけでもあり得ない話なのに、逃げてきた島には少し前に戦った敵がいて……

 俺みたいな人間が異常な魔法を見せて、しかも岩を突然出してリヴァイアサンを倒してしまった。

 

 可愛いは余計だけど……


 俺も自分で何をしたんだか、よく分からない。

 だけど、とにかく生きていることだけは確かなんだ。

 それは、カミュやここにいるオークたちも同じ。


「どう思おうが自由だが……俺はお前たちを殺すつもりはない」

「……は? あたいはこの島を奪おうとしたのよ? しかも、そこにいるコボルトたちにとって、あたいたちは仇……」


 この言葉に、アシュトンが言った。


「カミュ殿。貴殿らを恨めしくないと言えば嘘にはなる。だが、我らはヒール殿に仕えるにあたり、過去とは決別することにした。ここにいるベルダン族の方々がそうしたように……」


 アシュトンは唇を噛みしめる。


 つい数日前に女王を殺した相手……

 仇が目の前にいるのだ。


 しかし、自分もまた誰かの仇であるのは、理解している。

 エレヴァンにとっては、アシュトンは息子を殺した相手なのだ。


「だから我らは、貴殿らをどうこうするつもりはない。それは過去のことだ……」


 そう言い切ったアシュトンの肩を、弟のハイネスがポンと叩く。


 ハイネスは更に俺に言った。


「コルバス族は、陸のゴーフェル族とはちょっと違います。ゴーフェル族は敵を容赦なく殺しますが、コルバス族は敵の船は沈めても、助けを求める乗組員は救助するんです。もちろん、奴隷売買や身代金のためかとは思いますが……まあ、その何が言いたいかって言いますと……」


 自分たちのことは気にするなと、遠回しに言いたいのかもしれない。


 俺もコルバス族については、聞いたことがある。

 王国の貿易船が襲われた時、いくらか金を払えば見逃してもらえることを。


 また、二年前海難事故で漂流していた乗組員が助けられたという話も聞いた。

 その乗組員は腕を失っており、家も貧乏であったので、身代金などとても払えない。

 それを知ったコルバスの長……つまりカミュが、取れない者からは取らないと無条件で解放した逸話は、王国でもよく知られている。


 あくまでコルバス族は、過酷な海で生き抜くために戦争をしている。

 無駄な殺生を好むような者たちではないのは、確かだ。


 カミュはアシュトンとハイネスの言葉に驚きを隠せないようだ。

 

 俺はカミュに言う。


「……もちろん、島を出ていくのも止めはしない。まあ、船がないんじゃ出ていけないだろうが……だから、とりあえずは、この島にいても良いんじゃないか?」


 俺の言葉に、カミュは思わず声を震わす。


「……ほ、本気で言ってるの?」

「本気も何も、他にどうすればいい? 無論、滞在するからにはしっかり働いてもらう。悪いが牢に誰かを閉じ込めて養う余裕は、この島にないからな」


 カミュはそこまで聞くと、涙を流しこう叫んだ。


「……男よ! あんたこそ……海の男だわ!!」


 カミュはその場で、ふんっと腕の拘束を解いた。

 そして両手を広げ、俺に飛び掛かろうとするのであった。

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