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三十二話 伝説の怪物が現れました!!!

「あなたたち…… 今すぐ、あたいたちを上陸させなさい!!」


 桃色の口紅を塗った真っ白い顔のオークが、野太い声で言った。

 

 オークにも、確か性別があると聞く。

 俺が思うにこのオークは男だと思うのだが……なんだか、口調といい身なりといい女のようだ。


 オークは大粒の汗を額から流し、厚化粧を滲ませていた。

 明らかに、何かに焦っているようだった。


 しかし何かに気が付いたのか、更に顔をしかめる。


「ちょ、ちょっと、どうして……どうして、あんたが生きているのよ、アッシュ。それに、そこの大柄のゴブリン……もしかしてベルダンの大戦士エレ?! どうなってるの……」


 以前戦ったコボルトがここにいるだけでも、困惑するだろう。

 

 しかも、コボルトと敵対関係であるはずのゴブリンもいるのだ。

 それに、エレヴァン……元のエレの名はオークにも知れ渡っていたようである。


「というか、どうして人間がこんな島に……あの奥の大きな蜘蛛……そしてあの大木……もしかして、あたいはもう……」


 がたがたと顎を揺らすオーク。

 理解が追い付かないだけでなく、何かに怯えているようだ。


 その間に、他のボートのオークたちが上陸する。

 皆、剣や斧を持っているが、何故か裸だ……

 いや、確かに船乗りは身軽の方が良いのだろうが…… 


「カミュ殿……話せば長くなるが」


 アシュトンが説明しようとした瞬間、エレヴァンが白い顔のオークに怒声を浴びせる。

 このオークは、カミュという名前らしい。


「ごちゃごちゃうるせえ!! お前がコルバスの頭、カミュだな?! 噂には聞いていたが、趣味の悪い恰好しやがって!!」

「しゅ、趣味の悪い恰好ですって?! 失礼しちゃうわね!!!」

「というか、何様のつもりだ? 上陸させろだって? それがものを頼む態度か?!」

「勘違いしないでちょうだい! お願いなんかしてるんじゃないの!! これは命令よ!!」

「命令だとっ?! てめえの頭蓋骨で、今日は祝杯を挙げてやろうか!?」


 エレヴァンは斧を構えようとする。

 このままだと争いになる……俺は割って入った。


「待った! カミュと言ったか? 俺はこの島の領主、ヒールだ」

「あなたが領主……? ……可愛い顔してるけど、悪いわねっ!」


 カミュはすぐに体を動かし、俺に向かった。

 多分、俺を捕えようとしたのだろう。


 俺は雷魔法ショックで、カミュの体を麻痺まひさせようとした。

 が、その前にアシュトンとエレヴァンが割って入る。

 

 カミュは二人に細剣を向け、距離を取った。 


「やはり、簡単にはいかないわね……」


 エレヴァンは隣で曲刀を構えるアシュトンに、こう言い放った。


「アシュトン、邪魔だ……俺一人でやる」

「いや、エレヴァン殿……カミュ殿は暗器を多数持ち合わせておる強敵。それに、生け捕りにするのは、殺すよりも難しい」


 アシュトンの返事に、エレヴァンは勝手にしやがれと答えた。

 

 やっぱり、戦闘民族だな……

 まあ、生け捕りにはしてくれるらしい。


 俺が魔法で捕まえてもいいが、ここは二人が協力したという事実を作れるよう、任せるとしよう。

 当然、何か怪我でもしたら嫌なので、あらゆる攻撃を防ぐシールドを二人に展開しておく。


 ゴーレムには、他のオークの相手を命じる。

 皆を生け捕りにするようにとも。


 二人の会話に、カミュは言う。


「いいわ。こっちも時間がないの…… 二人まとめてかかってきなさい!!」


 ……時間がない?


 俺が首を傾げていると、エレヴァンとアシュトンは、カミュと武器を交えるのであった。


 力ではエレヴァンが、速さではアシュトンがカミュを圧倒していた。

 振り下ろされるエレヴァンの大斧による一撃、アシュトンが矢継ぎ早に繰り出す曲刀シミターによる斬撃……

 それをカミュはなんとか防ぎ、細剣で反撃した。


「こんな男前たちにいじめられて……ああ、こんな状況でなければ、もっと可愛がってあげたいのに!」


 カミュは細剣を舌で舐めて、それをエレヴァンに向ける。


 この時、俺は初めてエレヴァンのぞっとした顔を初めて見た気がする。 


「こ、こっち来るんじゃねえ!」

「あら、どうしてぇ?」

「てめえの肉は、サメにくれてやるよ!」


 エレヴァンは払いのけるように、カミュの攻撃を防ぐ。

 

 カミュの細剣の扱いは、俺が宮殿で見たどんな剣豪よりも素早く力強かった。

 見た目からは考えられない、繊細な動き……


 しかも、時々腕に隠していた小さな矢を放ったりと、カミュは中々の戦上手のようだ。


 が、さすがに部族を代表する戦士のエレヴァン、アシュトンが相手では、分が悪そうであった。

 周りのオークたちも、ゴーレムに赤子のようにあしらわれ、次々と蜘蛛糸の網にいれられていく。


 カミュも次第に息を切らし、流れるような汗のせいでカツラをぽろっと落とした。

 厚化粧の白い顔は見る影もなく、オークの緑色の肌が露わになる。

 

 が、息を切らすその顔は、エレヴァンと比べても遜色ない男前だ。


「はあ、はあ……こんなところで死ぬわけには……コルバス族を滅ぼすわけには……早く、早く……」


 カミュはまだ戦おうとしていた。

 しかも、何かを急ぐように。


 ……何を急ぐ必要が有る? 

 ここは俺が介入し、なるべく早めに話を聞いてやるべきか?


 そんな時だった。

 戦列艦から、わあっという歓声が上がる。 

 

 何が起きたと、俺は海を眺めた。

 すると、20隻はあろう船団がこちらに向かっていたのだ。


 まだゴーレムに捕まってないオークも、雄たけびを上げる。

 追いついたんだ、生きていたんだなどと喜んだ。


 とすると、あれはコルバス族の船団か。

 どうして遅れてやってきたかは不明だが。


 カミュもにっと笑った。


「形勢逆転ね……少なくとも、2,000の増援がこの島に来るわ」

「けっ。何人いようが同じことだ。皆、今晩の肉にしてやるよ」


 少しも怖気づくことのないエレヴァン。

 しかし、アシュトンの方は恐れるように言った。


「あ、あの船には……」


 アシュトンの紋章は【千里眼】。

 通常の倍の視力を与える紋章だ。

 しかも、もともとコボルトは人間よりも目が良い。

 俺たちでは見えない、船の乗組員も見えるのだろう。


 エレヴァンは豪快に笑った。


「どうした、アシュトン!? 雑魚がいくら現れても同じだってのに! お前も大したことないな!」

「ち、違うのです、エレヴァン殿! あの船に乗っているのは……生者ではない!!」

「あ? 何言ってんだ?」


 エレヴァンが首を傾げるのと同時に、カミュもふっと笑った。


 俺もアシュトンの言葉が本当かどうかは、目では分からない。

 だが、一つおかしいのは、どの船も異常なまでに帆が破れている。

 オールを出して漕いでいるわけでもない……とてもじゃないが、あんな速度が出せるとは思えない。

 

「全く、何を言ってるのかしら……さあ、降伏するなら、今のうち……」


 カミュがそんなことを言おうとした時、どんっという音があたりに響いた。

 

 新たにやってきた船が、カミュの戦列艦に体当たりしたのだ。


「……え?」


 思わず言葉を失うカミュ。

 

 船同士がぶつかるような事故はあり得るだろう。

 が、今回はあきらかに故意に、戦列艦は体当たりされていた。

 両側から、垂直に二隻の船が突っ込んだのだ。


 戦列艦はあっという間に真っ二つになる。

 そして仲間である船から、矢が飛んできたのだ。


「う、うそでしょ……どうして? どうして?」


 頭を抱えるカミュ。

 この間にも、船はこちらに向かってやってくる。


 困惑しているのは俺たちもだ。

 エレヴァンは思わず、こう言った。


「ど、どういうことだ?!」

「……信じたくはないですが、新たに現れた船にいるオークは皆、骨肉がむき出しで……あれは、アンデッドそのものです」


 アシュトンの解説に、カミュが声を荒らげる。


「でたらめを言うんじゃない!」


 カミュはすぐさま胸から望遠鏡を出し、船を覗く。


「う、うそ……」


 だが、映し出された光景があまりに悲惨だったのか、カミュはその場で崩れた。


「……はっはははは……そうか! そうよ、これは夢!! だいたい、こんなところになんでゴブリンやコボルトがいるの?! あの怪物も夢だったんだわ!! ひゃはははははっ!!!」


 狂乱するカミュ。

 もはや、不気味に笑い続けるだけだ。


 ……怪物?

 なんのことだ?


 俺がそんなことを疑問に思っていると、突如海から大きな水しぶきが上がる。

 船よりも巨大な幅の水柱は、周りの船を波で転覆させていった。 


 そして水の中から現れたのは……


「り、リヴァイアサン?!」


 蛇のように長細く、鮮やかな青い鱗を持つ、神話の生物……

 リヴァイアサンが、姿を現すのであった。

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