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三十一話 上陸許可を要求されました!!

 マッパがお湯を地上まで通してくれてから、二日後の昼。

 俺は今日も変わらず、洞窟を掘っていた。


 地上では今、バリスが温泉づくりを行なっている。

 どうやら、世界樹の下の一区画に作るようだ。

 

 つまりは空からは丸見え……

 俺としては少し、恥ずかしい。

 しかし、ゴブリンやコボルトたちにとっては、温泉は外にあるのが普通らしい。

 

 俺は温泉なるものが、天然の浴場であることぐらいしか分からない。

 王宮の浴場は、水が張られた場所の下に窯のような物があって、お湯に温めていた。


 まあ、世界樹の下で疲れを癒すのも悪くはないか……


 とにかく、外についてはバリスに一任して、俺はピッケルを振っている。

 

 さらに生活を豊かにするような何かを掘り当てたい。

 また、何かと必要になる岩を補充する必要があった。


 採掘に関しては、自慢じゃないがやはり俺が掘るのが一番効率がいい。

 農業はリエナが、軍事はエレヴァンが担当している。

 そして道具はやはりマッパが作っていて、最近ではゴーレムや警備隊の武具を作っているようであった。


 ここにきて、やっと皆自分の得意分野を担当し始めた感じだ。

 

 コボルトたちは目も良く俊敏なので、鳥や魚の狩りが上手。

 運搬はやはりスライムやゴーレムたちの独擅場だし、衣類はケイブスパイダーがいなければ作れない。

 

 少し前まで、食糧や水で困っていたのが嘘のようだ。


「今日もなんか良い物が掘れたらなあ……」


 ピッケルを振りながら、俺はそんなことを言った。

 

 どこどこに何が埋まっているとか分かれば、効率もいいのだが。

 

 それは隣でピッケルを振るフーレも同じようだ。


「フーレ? もう昼だ。休まなくて良いのか?」

「ううん、大丈夫……もう少ししたら、戻るから」

「そっか……ほどほどにな」


 フーレは朝起きると、食事をすぐ済ませ、採掘に向かう。

 同年代のゴブリンの子供が遊んでいる中、フーレだけは常に洞窟に潜っていた。

 

 フーレとしては早く魔法を使えるようになりたいのだろう。

 そのためには昇魔石で、今の体を魔力を扱えるような体に進化させなければならない。

 

 しかし、昇魔石はちょっと他の鉱石とは違う。

 何かの遺構のような石室に、大事そうに置かれていたものだ。

 つまり、同じような遺跡にまた置かれている可能性の方が大きい。


 フーレもまさか、一朝一夕で取れるとは思ってないだろうが……


 俺もそんなフーレのため、どんどんと掘り進める。

 

 貴重品なので、またゴーレムが守っていたりということもあるだろう。

 だとすると、魔力の反応があるので、こちらとしても良い目印になるのだが。

 

 そんな時、俺の後ろでわずかに魔法の反応があった。

 振り返ると、そこにはフーレがいた。

 

「フーレ!!」

「へ? あ……っ?!」


 俺はすぐさまフーレに無属性魔法のシールドを放つ。

 近くのゴーレムも、フーレを庇うように覆いかぶさった。


 それからすぐに、フーレの前で、何かがボンと爆発する。


 爆発は小さかったのでシールドで十分に防げた。

 フーレは怪我をせずに済んだようだ。


「あ、ありがとう……」


 俺とゴーレムに礼を言うフーレ。

 俺の魔法がなくても、ゴーレムが上手く防いでくれただろう。

 やはり、ゴーレムは洞窟にいた方が良さそうだ。


「いや、良かったよ……罠か何かかな?」


 人工的な物かどうかは分からない。

 しかし、フーレが頷く。


「みたいだね……奥に何かあるみたい」  

「何か見つけたか?」


 フーレは砕けた岩を払い、何かを取り出していた。


「……これ、宝箱?」


 フーレが首を傾げながら俺に見せたのは、装飾の少ない木箱だった。

 

「かもしれないな。中を見たらどうだ?」

「うん! ……あれ? 開かない……」

「とすると……これも鍵がかかっているってことか。開錠魔法を掛けてみるよ」


 俺はフーレの持つ箱に、鍵開けの魔法ピックを掛けた。

 すると、ぱかっと宝箱が開く。


 そこには水晶のような物が一つと、金の石が三つ入っていた。

 水晶は……クリスタルはもう少し濁っている気がするので、これはまた別の石だろうか。

 または、街の占い師が使うような、ただの水晶である可能性も有る。


 そして金の石……これは昇魔石である可能性が高い。

 

 金色であることを知っていたフーレは思わず、目を輝かせる。


「石なら回収できるはずだ……図鑑でなんなのか見てみるよ」


 俺はそう言って、水晶と金の石を一個取り、回収を試みる。

 すると、ちゃんと回収できた。


 金の石は……やはり昇魔石だった。

 他の二つも昇魔石であろう。


 俺は早く結果が聞きたいフーレに、こう言った。


「……フーレ、おめでとう。これは昇魔石だ!」

「ほ、本当!? ……うそ」

「嘘じゃない。ほら」


 俺はインベントリから再び昇魔石を出して、フーレに渡す。


 フーレの方は、やったと声を上げると、嬉し涙を流した。

 この洞窟に来てからというもの、フーレはずっと洞窟を掘っていたのだ。

 やっと報われたというべきだろう。 


 さて、もう一つの方は……

 

 そして助言者にクリスタルの分析を頼む。


≪替玉石……使用することで、知っている他の石に変えることができる≫


 つまりは、どんな石としても使えるということ……

 昇魔石はもちろん、死者を復活させる竜球石にも変えることが可能だということだ。


「これまたすごい物を見つけたな……」

「水晶のこと? なんの石なの?」

「なんにでも変えられる石らしい。昇魔石はもちろん、誰かを復活させる石にもできるものだ」

「そ、そんなものが……」

「取っておくか、よく考えて使った方が良いだろう……はい」


 俺はフーレに替玉石を手渡した。

 だが、フーレはとっさに首を横に振る。


「私は昇魔石が一個あれば十分だよ! それにヒール様がいなかったら、生き延びることも、この石を手にすることもなかった。今だって、下手すれば死んでたかも…… これはヒール様が使って」

「でも、掘ったのはフーレだ」

「ううん。私が採掘に集中できたのは、ヒール様や皆のおかげ。釣りや他の作業もろくに手伝ってないし……ヒール様が使わないんだったら、皆のために使って」

「そうか……ありがとう、フーレ。それじゃあ、これは皆と相談して使うとするよ」

「うん、この昇魔石二個もね」


 フーレはそう言って、昇魔石を二つ俺に手渡した。

 俺はそれをインベントリに回収する。


「それじゃあ、目当ての物も回収できたことだ。まずはゆっくり昼飯でも食べて、石を使ってみようぜ」

「うん!」


 俺たちはこうして、一度地上に戻ることにした。

 道中、フーレは心底嬉しそうに、鼻歌交じりで歩く。


「私、生きてて今、一番楽しいかも!」

「そっか。でも、魔法を鍛えるのも良いが、たまには採掘にも顔出してくれよ」

「もちろん! 採掘も今まで以上に頑張るよ!」


 そんな時だった。

 スライムを板のようにして、入り口から滑り落ちてくる者が。


 ミスリルゴーレムの十五号だ。


 十五号はしきりに鐘を鳴らしている。

 鳴らし方からするに、海上に何かが現れたようだ。 


 俺はすぐさま、入り口の外に向かう。


 途中、ゴブリンやコボルトの子供がすれ違うように、中に向かってきた。

 不安そうな彼らに、俺は訊ねる。


「外で何かあったのか?」

「ヒール様! て、敵が……オークの船が来たって!」

「オーク……か」


 敵と言い切ったということは、この前コボルトと戦ったオーク……海賊として名高いコルバス族が来たということか。


 コルバス族は100隻の大船団だという……これは、島に来て以来の危機かもしれない。


 老人など、体の不自由な者が洞窟に逃げるのとすれ違いに、俺は入り口に出た。


 すると海の上に、巨大な帆船が見えた。

 王国海軍の戦列艦……一隻で千人乗ることができ、甲板両舷に数十のバリスタを備え付けた海軍最強の船。


 しかし、真っ白いはずの帆は漆黒に染められている。

 王国の旗も凶悪な骸骨の旗に差し替えられており、この船がもう王国のものでないことを窺わせた。


 恐らくはコルバス族が、王国海軍から鹵獲ろかくした船なのだろう。

 

 だが、俺はそんなことより気になったことがあった。

 

 それは、戦列艦以外に船が見えないという事だ。

 通常このような巨大な帆船は小回りが利かないため、小型の船が護衛するのが普通。

 しかも、コルバス族は100隻の船をもっているという話だったが……


 戦列艦の様子もなんだかおかしい。

 通常四本の帆柱マストが見えるはずなのだが、中側の二本は途中で折れている。

 

 俺はリエナ、バリス、エレヴァン、そしてアシュトンとハイネスが集まる場所へと向かう。


「コルバス族か?!」


 その声に、アシュトンが答える。


「はい、我らと戦った船です。しかし、他の船は見当たらず、あの船も我らが見た時と違い、ボロボロで……」


 数日前に見たアシュトンがおかしいと言うのだから、やはり何かがコルバス族に起こったのだろう。


 エレヴァンが呟いた。


「へっ。調子に乗って、嵐にでも遭ったんじゃねえか?」

「そう考えるのが、自然でしょうな……いかに強力な海軍と戦ったとしても、100隻を失うはずは……」


 アシュトンもエレヴァンの声に頷いた。


 バリスが言う。


「ヒール殿。とりあえずは、ゴーレム十体に前衛を。そしてその後方に、ゴブリンとコボルト共同の警備隊を配置しております。ご命令があれば、すぐに攻撃できるようにしております」

「そうか……うん?」


 俺は戦列艦から、小さなボートがこちらに向かっていることに気が付く。


「使者か? ……迎えるとしよう」

「大将、俺たちもお供しやす」


 エレヴァンがそう言うと、他の者たちも頷いた。


「ありがとう、皆。だけど、リエナとバリス、ハイネスは残ってくれるか? 他の方向に船を隠していることも考えられる。警戒してくれ」


 それにリエナたちは頷いてくれる。

 リエナはこう言った。


「はい。ですが、ヒール様、お気をつけて……」

「ああ、もちろん気を付けるよ……」


 俺はそう言い残して、ボートに向かうのであった。


 ボートの先頭には、大柄なオークが立っていた。

 王国海軍提督の帽子とコート……そして長い金のカツラ。

 両手には、それぞれ細い細剣が握られている。


 もう少しで埋め立て地というところで、そのオークは大きくジャンプした。


 そして、俺たちの前にドスンという音を立てて、着地する。


「あなたたち…… 今すぐ、あたいたちを上陸させなさい!!」


 厚化粧のオークは、俺たちに向かい、そう命令するのであった。

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