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二百八十四話 最後の目標でした!?

 俺たちはエルセルドを追い、帝都の貴族街にあるベッセル伯の邸宅の前に来ていた。


 爆発した地下倉庫にはゴーレムを残してある。また、爆発を聞き駆けつけた十五号には、ウルファスを拠点に連れていくよう頼んでおいた。


 フーレは邸宅を見て感嘆の声を漏らす。


「すごい邸宅。シェオールの宮殿ほどじゃないけど、豪華だねえ」


 その言葉通り、ベッセル家の邸宅は豪華絢爛だった。


 大理石の壁、貝紫の塗料が塗られた瓦屋根の邸宅。巨大な噴水を中心に、色とりどりの花が植えられた花壇が並ぶ庭園。王宮ほどの規模ではないが、これは王家よりも壮大なものを造るのを控えたのだろう。ともかくにもベッセル伯家の財力が窺える。


 エルセルドは邸宅に近づくと、警備が重厚な青銅の柵門を開いていく。


 フーレが呟く。


「まるで何もなかったみたいな感じだね」

「はい。焦る様子が全くありません」


 リエナもフーレの言うように、ここまでエルセルドに焦る様子はなかった。悲しむこともなければ、苛立つこともなかった。


「部下思いなら部下の死を悲しむでしょうし、ここまでの計画が狂ったなら気が気でないはず」

「あれだけの計画を立てるぐらいだし、普通じゃないのかもね。それか、まだ切り札を残しているのかも」


 余裕ゆえの落ち着き、確かにありそうだ。


 フーレが言うとリエナが訊ねてくる。


「ヒール様、いかがしますか?」

「ここまで来たんだ。もう少し情報が欲しい。ただ、地下同様無理はしない」

「承知いたしました。では、門が閉まる前に向かいましょう」


 そうして俺たちはエルセルドを追って、ベッセル伯の邸宅に入った。


 エルセルドは前庭を抜けて屋敷へと入ると、長い廊下を歩いていく。使用人の挨拶にも応じ、特に怪しい動きは見られない。


 邸宅の敷地に目立った魔力の反応はない。透魔晶で隠している可能性もあるが、ひとまずは大丈夫そうだ。


 エルセルドはある扉の前で停まると、執事らしき者に上着を渡し部屋に入る。上着に何かが入っているかもしれないと思ったのか、フーレとマッパはその執事を追ってくれた。


 俺はリエナとともに部屋に入る。部屋は執務室のようで、書類が机の上に山積みとなっていた。壁際には兵法書などの大量の本が並べられている。


 エルセルドは机に座ると、そのまま書類に目を通し印を押していく。書類はざっと見る限り軍関連のものだ。武具や物資の購入についての認可を請うものが多い。


 日常の業務なのだろう。手慣れた様子でどんどんと署名と印をしていく。


 本人も部屋も変わった様子はない……うん?


 俺はリエナが袖を引くことに気が付く。振り向くと、そこには壁に留められた巨大な地図が見えた。


「……ヒール様。これは」

「ああ。この大陸の地図だ」


 俺は小声で答えた。


 地図はバーレオン大陸のものだった。中央から南部にかけて跨る巨大な国が、ここサンファレス王国の版図。その周囲に国家が点在しているが、どの国もサンファレスの領土の半分以下であった。


 と、ここまでは俺も見覚えのある地図。しかし地図には、いくつかの印があった。


 これは……サンファレスの東西南北に丸印が記されている。


 一つは、レオードルの北側にあった。


 場所としては、ヘルティア山脈のどこか……俺たちも通ってきた経路もこの丸印に含まれているように見える。


 そして東西南の丸印の中には、チェック印のようなものが記されている。その近くには地名らしきものが記されていた。


 リエナが疑問の声を漏らす。


「何の印でしょう?」

「この印のある場所は、ベッセル伯の領地だ……しかも二箇所は、エルセルドの事故死した二人の夫人から継承するはずの土地にあるな」


 つまり、この印はベッセル伯が手に入れた、あるいは手に入れたい土地を示していると見て良い。


 すでに三か所はベッセル伯家の手の内。

 最後の一か所は、レオードル領の北だった。


「つまり、やはり彼らはリシュさんたちを……」

「見立て通りだったな」


 リエナの声に俺は頷いた。


 リシュのレオードル伯領も狙われていたわけか。厳密にはこのヘルティア山脈の土地にレオードル伯の統治は届いていない。それでも最も近くにあるのはレオードル領で間違いないから、狙われていたと見るのが普通だ。


 とはいえ、疑問は残る。この印は大雑把につけたのだろうか? しかし他の地点の近くには地名が記されている。それに加え、その地名は大きな都市があるわけでもない。


 つまり、この丸印の中に何か目的のものがある可能性が高い……


「何か……そういえば」

「あったでしょうか? いえ、ありましたね」


 リエナもシェオールからここに来る道中のことを思い出したようだ。


 ヘルティア山脈を南に進む中で唯一、俺たちの目を留めたものがあった。黄金色の塔に囲まれた凍結した湖だ。あそこからは強大な魔力の反応があった。


 転移装置や透魔晶を所有しているぐらいだ。あの湖の存在を知っていてもおかしくない。


「ベッセル伯はあの湖を欲しがっているのかもしれない。装置とかは、他の丸印のある場所から手に入れたのかもな……」

「それなら色々合点がいきますね」


 ベッセル伯家がレオードル領を狙っていることは確定だ。レオードル領を足掛かりに、湖を探索するつもりだったのだろう。


 俺たちはマッパ号で苦もなく行けたが、普通の人間が向かうには相当な準備が必要だ。


 しかし、まさかあの湖がここでつながるとは。


 リエナはさらに疑問を呈す。


「しかしどうして、ベッセル伯家はベッセル家は装置などを手に入れたかったのでしょうか?」

「目的はベッセル家の勢力の拡大のため、王国乗っ取りのため。普通ならそう考えるが……」


 俺は先程のエルセルドの言葉を思い出す。大義のため、という言葉を。


 何か思いもしない目的があるのかもしれない。


 それに大陸の東西南北に位置する地点……たまたま希少なものがあるだけの配置には思えない。


 装置などが目的でない可能性もあるだろうし、そもそもどうやってこの地点のことを知ったのだろうか。


「分からないことが多い……もう少し調べてみる必要がありそうだな」

「そういたしましょう。フーレやマッパさんにも手伝ってもらいます」


 俺たちは、エルセルドの監視とベッセル伯家の捜索を続けた。


 調べると、やはり丸印の地点で手に入れたと思われるものが地下室から見つかった。


 透魔晶は他にいくつもあり、転移装置も二つほど確認できた。もう一つは、見た目以上の容量を持つ袋で、俺のインベントリを小さくしたようなものだった。


 これがあれば色々な謀略を仕掛けられる。レオードル伯やリシュも危なかったかもしれない。


 だがリシュたちの死因に暗殺や毒殺の疑いがあれば、婚約をしようとしているエルセルドが王家や他の貴族から疑われてしまう。正体を明かさずにアリュブール商会を動かしていたことからも、慎重に計画を進めていたことが窺える。


 他にもベッセル伯領の本拠に何かあるかもしれないが、とりあえずはエルセルドたちの手の内と計画が分かった。


 それで、この後はどうするか。


 エルセルドたちの罪を明るみにしたいが、彼らは直接的な犯行の証拠は残しておらず、ウルファスやエルセルドに証言させるしかない。


 大義とやらが何を指すかは分からないが、ここまでの計画を立てる者が拷問して吐くとは思えない。それにこうなった以上、エルセルドはさらに計画に慎重になるはずだ。もちろん、リシュたちへ謀略を仕掛けることも控えるだろうが。


 ひとまずは監視を続け、この後のことは考えよう。マッパにゴーレムを呼んでもらい、屋敷とベッセル家を監視してもらう。ウルファスからも何か情報を引き出せるかもしれない。


 こうして俺たちは、黒幕を突き止めることに成功した。


 しかし依然として黒幕の謎は残るのであった。

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