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二百八十一話 報告でした!

 アリュブール商会と真向かいの建物を買い上げた俺たちは、早速ここを拠点とすることにした。

 俺がインベントリから鉱石や物資を出して、マッパには床や壁、天井を補強してもらう。


 頑丈にするというよりは、防音性を高めるためだ。ドアや窓にも強力な錠を設置する。


 その間俺は、姿を隠す魔法などを使い、ビストを監視した。


 しかしビストは俺たちの拠点に何か仕掛けることはなかった。そして何か書類や伝言を誰かに渡すこともなかった。


 不自然なぐらいに怪しいところがない。恐らくは、俺が密偵を送り込んでいるかもしれないと警戒したのだろう。


 ともかく俺はビストを監視し続けた。同時にリエナやフーレには商会に怪しいところがないか、それらしい書類などがないかも確認してもらった。しかしやはりというか何の尻尾もつかめなかった。


 その後もゴーレムに交代してもらい監視を続けたが、動きはなし。俺たちは拠点で一夜を過ごした。


 その翌朝、十五号がいつもの老執事のような姿で拠点へやってきた。待機していた馬車のゴーレムが十五号を呼んでくれたのだろう。


「ヒール様、お待たせいたしました。状況は?」


 俺は十五号にビストに接触したことや、ビストに怪しい動きがないことを伝える。


「装置については安堵している……いや、“アルヴァ”の報告を待っているのかもしれませんね」

「ああ。装置が明るみになっていないことが確かになるまで、黒幕への報告を保留しているんだろうな」

「であれば、ただちに私が」

「ああ。俺たちも姿を隠してついていく。もし危険を感じたらその時はすぐに撤退しよう」

「お気遣い感謝いたします。しかし私は人形。もしもの際は、見捨ててでも」


 十五号がそう言うが、フーレがポンと優しく十五号の頭を叩く。


「そんなことできるわけないでしょ。ともかく安全第一でいくよ」

「ああ。魔力の反応がないとはいえ、何を潜ませているかは分からない。慎重にいこう」


 そうして俺たちは作戦を開始した。

 

 ビストへの報告へ向かう“アルヴァ”を、姿を隠す魔法をかけた俺たちが追う。


 アルヴァに扮した十五号は商会まで到着すると、軽く他の商会員と目を合わせ挨拶する。誰も偽物だとは気付いていない。また、アルヴァが来ることに慌てた様子もなかった。


 やはり装置は限られた者……ビストとアルヴァしか知らなかったのだろう。


 十五号は客で溢れかえる商品売り場を抜けると、奥にある階段を上がっていく。


 四階までは売り場のあるエリア。しかし五階に上がると、そこは机や棚の並んだ事務所になっていた。


 十五号は事務所で働く他の商会員に声をかけながら迷わず奥のほうへと進んでいく。会長室の場所はアルヴァから聞かされているから迷わない。


 やがて荘厳な金の装飾がなされた扉の前に立つと、コンコンと扉を叩いた。


「誰だ?」

「ルシカ支店長のアルヴァでございます」

「うむ。入れ」


 十五号はその言葉通り、扉を開く。俺たちもそれに続き、会長室に入った。


 豪華な調度品や美術品が並べられた会長室。貴族の邸宅でもこれほどの品々はなかなか見られない。


 ビストはすぐに口を開く。


「……レオド支店の三番地下倉庫、九番棚最上段の商品は?」

「レオドの騎士像」

「よろしい。かけたまえ」


 暗号か何かだろうか。アルヴァの情報通り十五号は答えたようだ。


 とはいえ、アルヴァが偽の回答を教えて、それが異変を知らせる回答である可能性もある。まだ油断できない。


 俺は周囲の魔力や気配を警戒しながら、ビストとアルヴァの話に耳を傾けた。


 ビストが言う。


「それで、つけられてないだろうな?」

「もちろんでございます」

「そうか。それで、どうだった?」

「ベリドは……立派に務めを果たしました」

「うむ……こんなことで……彼には詫びても詫びきれんな」


 ビストはそう言って顔を曇らせた。ビストもやはり乗り気ではなかったようだ。


「ですが、ベリドは上手くやってくれました。装置については無事であることを確認しております。ベリドは自決する前、塔の近くの地面に装置を埋めてくれたようです」

「回収は?」

「申し訳ございません。レオードルの兵が見張っておりまして、それは叶わず。私は兵たちの戦利品の買取という名目で砦に向かったものですから」


 ビストは怒ることもなくうんと頷いた。


「あれほどの物を持ち運べば目立つ。仕方あるまい」

「はっ。しかしこのような事態となったのは全て私の責任」

「何を言うか。お前もよくやってくれた。よもや、何もないと言われる南方のシェオールに向かったヒール殿下が突如北方のレオードルに現れ、しかも難攻不落の砦を落とすとは誰が予見できようか」

「とはいえ」

「気にするな。責任は私が取ると言っただろう」


 ビストは力強い口調でそう言った。

 十五号はアルヴァの性格からか、頭を下げて謝る。


「面目次第もございません、会長」

「気にするな。それに、最悪の事態は避けられたわけだ。とはいえ、どう掘り返すかだが」

「砦ですが、我が商会で買わせてもらえないかとご領主様には提案いたしました。砦を解体し石材などを使いたいと。しかしご領主様は、二度と賊が住み着かないよう兵を常駐させると譲りませんでした」

「何年も苦しめられた砦だ……それはそうであろうな」


 ビストは眉間に皺を寄せ苦悩する。


「……傭兵を雇い、砦を襲撃させるか」

「無理でございましょう。あの難攻不落の砦に、レオードルの正規兵が駐屯したのです。千人雇ったところで落とせないかと。それにそのような大人数を動員すれば、山に到達する前に確実に捕捉されます」

「であろうな……かといって少数の密偵を向かわせるのも難しい」


 二人の間に沈黙が流れる。やがて十五号が重い口を開く。


「……会長。すでに我らの手には負えぬ問題かと」

「うむ……やはり、報告せねばなるまいか」


 つまりは、ビストはまだ黒幕に報告していないことになる。


 慎重に動いた結果が功を奏したようだ。これでビストから黒幕を辿ることができる。


 だが、ビストは顔を青ざめさせていた。


「しかし我らは用済みとなる。私の首だけで済めばいいが……」

「私も構いません。ですが、命まで取るでしょうか?」

「取るであろう……生かしておく意味がない」

「会長……こんな指示をしたのは、一体誰なのです?」

「それは……」


 ビストが言い淀むと、突如俺の前を光の線のようなものが横切った。


「っ!」


 十五号は咄嗟に両手を広げ、ビストを守ろうとする。俺もすぐにシールドを展開した。


 すると、シールドに当たった二本の針が床に落ちる。


「はっ? なんで当たらない? というかなんで気付いたの?」


 アルヴァでもビストでもない声が響いた。もちろん俺たちのものでもない。


 声の方に目を向けると、そこには誰もない。そして魔力の反応も見えない。これは……


 黒幕の手の者と見て間違いない。そういう装置を持たせているか、バルパスのように紋章の力で姿を消せるのだろう。


 しかし針が次々とビストと十五号に放たれていく。


 十五号はビストを守るように覆いかぶさる。俺たちもシールドを自分やビストたちに展開していった。


「っ!? くそ!!」


 驚くような声だけが聞こえる。誰かは分からないが、ビストやアルヴァを殺そうとしているのは確かだ。


 だが、それができない。できないなら、向こうはどうするだろうか──


 俺は窓と扉に目を向け、シールドを展開した。


 ──態勢を立て直すために一度撤退するはずだ。


 すぐに窓のほうから声が上がる。


「っ!? なんだこれ!?」

「マッパ!」


 俺が言うと、投げ縄が突如窓のほうに放たれる。


「くっ!? なっ!?」


 何かを覆った投げ縄が、ごそごそと動いている。しかし縄の中は何も見えない。透明の何かがそこにいる。


「何故だ!? 斬れない!? くそっ!!」


 透明の何かは縄を斬ろうとしているようだが、マッパの縄は金属糸を織り込んでいるから全く切れない。


 それからすぐにびりっと音が響くと、小さな悲鳴が上がった。ベリドを捕らえた時と同様、縄に電気が走るようになっていたのだろう。


 それから投げ縄はぴくりとも動かなくなった。


 ビストを泳がせて黒幕を探るつもりだったが、向こうから出向いてくれるとは。


 しかしなかなかに冷酷な人物だ。ビスト自身も言っていたようにもう用済みと判断したのだろう。装置が無事であることを聞いて、殺そうとするとは。


「こ、これはどういうことだ!? 私を殺しにきたのではないのか?」


 ビストは困惑した様子だ。黒幕に殺されることは覚悟していたのだろう。以前に接触してきたのも、この透明の人物だったのかもしれない。


 だが、状況はこのようなものになってしまった。


 このまま退散してもいいが、ビストをあとで自白させるためにも一言残しておくか。


 俺は琉金で黒の仮面と鎧を作り、透明化を解く。


「っ!? 誰だ!?」

「……この者は我らが預かる。ビスト。そなたは来る日が来たら罪を告白せよ。さすれば、この商会の誰も命を落とさせないと約束する」


 ビストは目を丸くしながら声を上げる。


「しょ、承知いたしました!!」

「それでいい。では、さらばだ」


 そう言うと、マッパが何か玉のようなものを転がした。玉からは煙が漏れる。


 ……こんなときのために用意しておいてくれたのかな? 颯爽と現れ最後は煙の中に消える──正直格好いいと思ってしまった。


 そのままマッパは縄を透明化させると、俺たちは縄ごと刺客を外へと運び出した。


 こうして俺たちは黒幕への有力な手掛かりを掴むのだった。

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