表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/290

二十八話 温泉掘っちゃいました!!

「……うん?」


 俺の隣で採掘するフーレが、呟いた。


 俺も手を止めて振り向くと、フーレは新しいピッケルを見つめていた。

 マッパが作ったこのピッケルは、頭がミスリルでできていて、柄が世界樹の枝でできているものだ。


 昨日生えた世界樹……そこから落ちる葉や枝を、俺たちは調査した。

 葉はすり潰したりして、バリスが薬にならないかなど調べている。


 一方の枝は持つだけでその軽さが分かった。

 それでいて、岩に叩きつけても折れない……どころか、鉄の斧では切れず、ミスリルの斧やナイフでやっと加工できたほどだ。


 まだまだ世界樹については分からないことも多いが、一番知識のあるバリスにその後の調査も任せてある。


 その一方で俺たちは、世界樹を使ったピッケルの試験もかねて、この前大量に消費した岩を補充すべく採掘中だ。


「どうした、フーレ? その新しいピッケルになんかあったか?」

「いやさ……なんか、全然疲れないなあって思って。もう掘り始めて一時間経ってるんだけど、前のと比べて全然疲れないんだよね……」

「へえ……言われてみれば、俺もそんな感じが……」


 俺もフーレと同様、柄に世界樹を使ったミスリル製のピッケルを使っている。

 前の、柄もミスリルでできたものも軽く使いやすかったのだが、今の方が木でできている分握りやすい気がする。

 

 だが、フーレの言うように疲れない、という実感はあまりない。

 というのも、俺は前のピッケルでも、もうほとんど疲労感を覚えなかったからだ。

 

 世界樹の枝で分かったことはもう一つ、魔力を纏っているということだ。

 もしかすると、魔力以外にも回復効果のある何かしらを含んでいる可能性も有る。

 昨日俺たちの頭をおかしくさせた、黄金の粉……あれにも、一種の回復効果はあったことを考えれば、想像に難くない。


 俺はもっと感想を聞こうと、フーレの隣でピッケルを振るエレヴァンに声を掛けた。


「エレヴァン。お前はどうだ?」

「言われてみれば、そうかもしれやせんね……まあ、でも条件は同じだ」


 エレヴァンはちらっと何かを気にすると、再びピッケルを振り下ろした。


 何の条件かと俺は首を傾げたが、フーレが俺の裾を引っ張り、視線で何かを訴える。


 フーレの目の先には、アシュトンとハイネスがいた。

 この兄弟も、二人でピッケルを振るっている。


「なるほど……」


 俺が岩をたくさん掘ろうなんて言ったものだから、エレヴァンはあの二人には負けるものかと、対抗心を燃やしているようだ。

 当のアシュトンとハイネスは精一杯やってるものの、特にエレヴァンに打ち勝とうとはしてないようだが。


 まあ、誰が傷つくわけでもないから、別にいいけど……

 こんな競争なら、大歓迎だ。


「まあとにかく、疲れないからって無理は禁物だぞ。いいか、フーレ」

「うん!」


 こうして俺たちは、再び採掘に戻るのであった。


 だがしばらくして、俺の腰の方から嫌な音が響く。


 びりっという何かが破けた音……

 同時に、やけに下半身が涼しくなる。


 どうやら、ズボンの股下が破けたらしい……

 まあ、これだけ動いてるのだから当然か。

 

「……フーレ。俺はちょっと地上に行ってくるよ」

「うん? 何かあった?」

「いや、ちょっと小腹が空いてさ。なんかあったら、知らせてくれ」

「うん、了解」

 

 俺は変な歩き方で、洞窟の入り口まで向かうのであった。


 すると、すぐ外の作業で、リエナがコボルトたちと何やら一緒に作業していた。


 リエナはすぐに俺に気が付き、こちらまでやってくる。


「ヒール様、お疲れ様です。お食事になさいますか?」

「あ、いや……ちょっと、言いづらいんだけど……」


 リエナは不思議そうに訊ねる。

 とはいえ、こんなことを打ち明けられるのはリエナぐらいだ。


「ズボンが破けちゃってさ……悪いんだけど、何かの布で直してくれないかなって……」

「そうでしたか! それはちょうど良かったです!」

「ちょうど?」

「はい! 実は先程、コボルトの方々に、キラーバードの皮のなめし方を教わっていたんです! 我らベルダン族は、獣皮の加工はあまり上手ではなかったので…… とにかく、とても良い生地ができたところなんです!」

「なるほど……」


 俺はコボルトの着ている服を見る。

 コボルトは、人間が作る革製品とそう変わらないものを身に着けていた。


 アシュトンやハイネスの革鎧も、よく考えれば大層立派なものだった。

 加工のみならず、染色技術も優れているのかもしれない。


「いくらか試しに衣服を作りました。それで、どこが破れたのでしょうか?」


 リエナは膝を曲げ、俺の腰元に目をやる……

 なんだかとても恥ずかしくなり、俺は思わずズボンを押さえた。

 

 リエナは俺を見上げて、首を傾げる。


「ぬ、脱いで渡すから」

「かしこまりました!」


 そう言って、リエナは俺の腰の前でにこにこと待機する。


 いや……脱ぎづらいんだが……


 とはいえ、別にズボンを脱ぐだけだし、まあ良いか……

 俺の下着姿なら、何度もリエナは見ている。


 俺はするりとズボンを降ろした。


 だがその瞬間、リエナの顔が真っ赤になる。


 え……?


 俺は自分の下半身に目をやった。

 すると、俺の下着は……見事に前で裂けていたのだ。


 破けていたのは、下着もだったらしい……

 俺は見せたくないところをリエナの前でさらけ出してしまった。


「あっ…… ごめん!!」


 俺は思わず片手で前を隠し、もう片方の手でズボンをはく。

 今までにないぐらい、俺は焦っていたと思う。

 もたつき、ズボンを上手く履けない。


 何かを察したのか、常に俺に付いてくるスライムのシエルが、下半身の前で目隠しするように壁になってくれた。

 

 リエナは赤面したまま、必死に首を横に振る。


「な、な、なな、何を謝られるのですか! ……こ、こ、この際ですから、ズボンも下着も新しいものを、お作りしますね!!」


 リエナはそう言って、慌ててコボルトのいる作業場に戻っていった。


 すでに、コボルトは皮を使った衣服を作っているようであった。

 ケイブスパイダーの蜘蛛糸も合わせているようで、随分と手際が良い。

 

 というより……やっちまった。

 これじゃ、まるでマッパと一緒みたいじゃないか……

 一応、領主としての威厳を保ちたかったんだが……

 

 俺が肩を落としていると、誰かがポンポンと俺の背中を叩いた。

 

 振り返ると、そこにいたのはマッパであった。


 気を落とすな、ということだろうか。

 いや、上半身裸のおっさんに言われても……


「……うん? それ……」


 俺はマッパの腰布の隙間から覗く、ある物に気が付く。

 マッパは俺の視線に気づいたのか、腰布をたくし上げ、それを見せつけた。


 ……そこには、光沢のある茶色い革製の下着があった。

 

 新たな下着を自慢するようなマッパだが、きつきつで思わず目を逸らしたくなる。

 どうやら、コボルトたちが作ってくれたようだ。


 俺は下着を着けてますってことか……


 謎の敗北感を覚えた俺はなんだか急に恥ずかしくなり、そこらへんにあった腰布を身に纏って、洞窟に戻るのであった。


 戻ると、フーレが俺に訊ねる。


「あ、ヒール様! もう食べたの?」

「え、ああ、うん……」

「……? そう……」


 フーレは俺の腰布を気にはしていたが、それ以上は何も訊ねないでいてくれた。


 何かを忘れる時は、やはりピッケルを振るのが一番だ。

 俺はすぐに採掘に戻った。


 途中、フーレが俺にこんな言葉を投げかける。


「なんか今日のヒール様、ペース早いね」

「そうか?」

「うん……これは負けてられない……」


 フーレも俺に呼応するかのように、ピッケルを振る。


 そんな時であった。

 俺が掘った場所に、小さな穴が見えた。


 その穴からは、何やら湯気が立つ液体がじゃぶじゃぶ噴き出ている。


 これは……


「これって……温泉?!」


 フーレはそう、思わず声を上げた。

 俺たちは、どうやら温泉を掘り当てたようであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ