表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
277/290

二百七十七話 王都でした!!

 ルシカを発った俺たちは、王都へと出発した。


 俺たちを乗せた馬車は街道を南に進み王都を目指している。


 アルヴァに扮した十五号は後から来てもらう。会長と十五号が会う前に、アリュブール商会の本店と会長を調べておきたいからだ。


 それに会長や黒幕の手先が他にルシカにいた可能性もある。そういった者たちの目を誤魔化すためにも出発をずらした。


 また、リシュも俺たちに少し遅れて、ルシカを発っている。


 リシュは、レオードル伯に賊を討伐したことだけを報告し、王都にはエルセルドと交流しに行くと伝えた。だから、装置やアリュブール商会については話していない。俺を信用してくれてのことだ。


 道中は平和そのものだった。王都から国土の四方に伸びる主要街道は国王直属の騎士団によって守られており、少なくとも日中に賊や魔物と出くわすことはなかった。


 街道沿いは栄えており、宿を探すのに苦労することはない。馬車が快適で宿を取る必要はなかったが、地域の食事や買い物を楽しむため夜は宿で泊まることにした。


 その間、ゴーレムを通じシェオールとの連絡も取り合った。向こうは相変わらず平和でやっているそうだ。もちろん、俺たちについてもシェオール側に伝えてある。


 そうして一週間程馬車に揺られ続けると、窓の向こうに巨大な街が見えてきた。


「でっかい……」

「色々な街を見てきましたが、さすがというべきでしょうか」


 リエナとフーレは声を漏らした。

 マッパも感慨深そうに見ると、その光景をキャンバスに描き始めた。


 絵にしたくなる気持ちも分かる。

 空高く伸びた白い尖塔がひしめく街。それを取り囲む灰色の城壁は山のように高く、地平線の彼方まで続いていた。王都の外には広大な畑が広がり、大きな街も点在している。


 あれが王都。サンファレス全土を治める王が在る街だ。そして、俺の生まれ故郷である。


 俺は二人に訊ねる。


「リエナもフーレも、王都は初めてか?」

「遠くからは何回か見たよ。でかかったから」

「近くで見ると改めて、その大きさを実感しますね……」

「ああ。この大陸……いや、世界でも最大の人口を誇る街だろうな」


 まだサンファレス王国が小国だった時代から人口だけなら有数の都市だった。いつ誰がここに住み始めたのかも分からないほど太古の昔からある街だ。


「俺も久々に見たがやっぱり大きいな……」

「シェオールも、あの街に負けないぐらい大きな街にしたいね」

「大きいことが悪いわけじゃないですが、シェオールにはシェオールにしかない魅力がありますよ」


 リエナの声に俺は頷いた。


「人が多いというのは活気があっていいことだけど、大変なことも多いからな」

「言われてみれば、そうだね。食事の用意とか大変そう……そういえば、王都ではどこに泊まるの?」

「宮殿の俺の部屋はもうないだろう。だから、宿を探すか安い家を探すよ」


 リエナが言う。


「宿もいいですが、自由にできる建物があってもいいかもしれませんね」

「そう、だな。調査が長引く可能性もある。宿よりも物件を借りるか買ったほうがいいかもしれない。将来のシェオールの拠点にすることも考えて、大きい建物のほうがいいかもな」


 だがと俺は続ける。


「今はアリュブール商会を調べるのが最優先事項だ。物件探しは今日で終わらせて、見つからなかったらとりあえず宿を借りよう」

「そうですね。すでに商会長も何かしら動いているでしょうから」

「ああ。まあ、アルヴァとベリド以上に慎重に動いているだろうけど……」


 証拠になりそうなものが見つかるとは考えにくい。それでも一応調べておくべきだろう。


 フーレが言う。


「でも、十五号と会長が話すのを見るためにも、商会の下見はしておいたほうがいいよね」

「どんな人かも見ておきたいですしね。お父上とお会いするのはその後で?」


 リエナの問いに俺は頷く。


「そうなるな。どのみち、父にはすぐに会えないはずだ。王と会いたいのなら王族であっても、侍従に謁見の請願を出す必要がある。それに、父は用がある者にしかまず会わない。俺と会わないことはまずないと思うけど……あの人は、気が付けば王都の外にいるからな」


 フーレが苦笑いを浮かべる。


「……貨物に隠れてシェオールまでやってきてたもんね、ヒール様のお父さん」

「あれは本当に驚きました。王様というものは、ずっと王宮にいると考えていましたが……影武者でもいらっしゃるのでしょうかね」

「考えたこともなかったけど、可能性はあるな……まあ、ともかく父のことは後回しだ。今はアリュブール商会の調査に集中しよう」


 そうこう話をしていると、やがて王都の門が見えてきた。人間が使うにはあまりに大きすぎる石造りの門。シェオールの巨大マッパ像でも出入りできそうな大きさだ。


 門周辺は、王都を出入りする馬車と人でちょっとした渋滞状態だった。


 外にいる者たちは俺たちの馬車に好奇の目を向ける。


「すごい馬車……」

「どんなお方が乗ってらっしゃるんだ……」

「きっと王族の方に違いない」

「中のお二人、綺麗な人ねえ……」

「男のほうは冴えないけどね」


 そんな声が響くと、リエナは不機嫌そうな顔になる。


「む……ヒール様ほどご立派なお方はいないのに。王都の方はまったく見る目がありませんね」

「まあまあ、姫。ヒール様の何よりの魅力は中身だから」


 外見が冴えないのは否定してくれないのね……


 マッパは王都の風景を描きながら愉快そうな顔を見せている。自分の作った馬車の外観が賞賛されているのが嬉しいのだろう。俺が微妙な見た目と言われる一方で。


 そんなこんなで、俺たちを乗せた馬車は王都へ入城した。


 城門付近には停車場があり、管理人に金を払って馬車を泊められる。


 しかし俺たちの馬車はあまりに華美すぎる。防犯のことも考え、高い手数料を払って屋外ではなく車庫を借りることにした。一応、御者に化けたゴーレムには馬車の見張りを頼んでおく。


 そうして馬車を泊めた俺たちは、大通りへ向かった。


 リエナとフーレは足を止めて、地平線の先まで続く大通りを眺める。


「……すごい人だね」

「馬車も多いですね」


 大通りは多くの人であふれていた。まだ城門近くだが、すでに人を避けないと歩けないほどの人気がある。


 しかし、


「ここはまだましなほうだよ。もっと進むと、足の踏み場もないほど人でごった返している」

「うへえ。長閑なシェオールが懐かしいなあ……やっぱりシェオールは色々小さいほうがいいかも」

「さっき大きいほうが良いと言ってたのに、もう撤回ですか……マッパさんは楽しそうですね」


 マッパはきょろきょろと大通りと建物を見ている。王都には壮大な建物が多い。マッパにとっては眼福なのかもしれない。


 リエナはそんなマッパを微笑ましそうに見ながら言う。


「見たこともない服を着ている方もいますし、色々落ち着いたら私もゆっくり回ってみたいですね……ですが、まずは家と宿でしたね。ヒール様、どこに向かわれますか?」

「そうだな……利便性を考えれば、この通りに面した物件か宿を探したい。この大通りは、王都でも一番大きな通りだ。まっすぐ王宮に続いているだけじゃなく、王都中の主要な通りと接続している」


 それにと俺は続ける。


「アリュブール商会もこの通りに本店を構えているんだ。しかも王宮の近くの貴族街にも繋がっていて、そこにヘッセル家の別邸もあるはず」


 リエナが頷く。


「調査のためにもこの通りがいいというわけですね」

「ああ。アリュブール以外の商会もこの通りに集まっている。まずはそこでいい物件がないか聞いて回っていこう。なければ適当な宿を探す」

「了解……歩くの大変そうだけど頑張ろう」


 フーレはげんなりとした顔をしながらもそう言った。


 そうして俺たちは王都の大通りを進み始めた。


 しかし、少しして怒声が響く。


「おい、お前ら止まれ!! お前ら魔物じゃねえか!?」


 その声にリエナとフーレが足を止めた。


 二人の正体がバレたのかと一瞬不安に思った。


 しかし声のほうに目を向けると、声の主は俺たちに背を見せていた。


 声の主はガラの悪そうな男だった。服は粗雑で刃こぼれした剣を腰に佩いている。男の周囲には同じような雰囲気の者たちが屯していた。


 ごろつきだろうな……誰かに絡んでいるようだ。


 別に王都では珍しくもない光景だ。というより、レオードルが平穏すぎたぐらいで、王国中にこういった者たちはいる。


 だが、魔物とはどういうことだろうか。


 ごろつきたちの視線の先にはボロボロの馬車があった。荷台にはフードを目深く被った背の低い者たちが数名乗っており、物資が山積みにされていた。


「ゴブリン……」


 フーレが呟くとリエナも頷いた。


「でしょうね。私たちとは違う一族でしょうが」


 リエナたちもゴブリンだった。顔を見なくとも正体が分かるのだろう。


 俺と会う前、リエナたちは王国中を移動していた。物資を買い求めるため、人の街に行くこともあったのだという。ごろつきに絡まれているあのゴブリンたちも買出しのために王都に来たのだろう。


 王国法では、街に魔物が入ることを禁じている。しかし実際は人と魔物の交易は昔から行われていて今も王国全土で見かける。


 かつて大陸の覇者だったバーレオン帝国は、人も魔物含む全種族の共生を実現していた。その時代の名残だ。魔物が人間が持つものを欲しがるように、人間も魔物の品に興味がある。


 だから基本的にはどの地域の衛兵も多少の賄賂で目を瞑るのだが……


 弱みに付け込もうとする者はどこにでもいるものだ。


 ごろつきたちはへらへらと笑いながら馬車を囲む。


「へへ。通りたきゃ、俺たちにも金を寄こしな。そうすりゃ行かせてやる」

「か、金はもう……」

「じゃあ、物資を渡せ。いいだろ?」


 このまま見過ごすわけにはいかない。

 俺は馬車に向かいごろつきたちを止めようとした。


 だがその時、どこからともなく現れた黒いフードを被った者が現れる。


「……やめろ」


 その声は俺も聞き覚えのある声だった。

出店宇生先生が描く本作コミック版7巻、発売中です!

今回も、カバー裏の魔物図鑑やおまけマンガなど、単行本でしか読めないものがございます!

ぜひ手に取ってくださると嬉しいです!


KADOKAWA公式サイト

https://www.kadokawa.co.jp/product/322408001690/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ