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二百七十三話 優しい拷問でした!?

 ノストル山の要塞は陥落した。

 突如内部から現れた俺たちに、賊たちは何の抵抗もせず降伏したのだ。


 今は賊の武装解除の際中。衛兵たちに両手を拘束させて、要塞の広場に賊を集めさせている。


 俺はリシュとともに、塔の頂上から広場を眺めていた。


「こんなに簡単に、要塞を落としてしまうなんて……私たちが数年かかっても落とせなかったのに」


 信じられないといった様子のリシュ。


 何度も攻略に失敗した要塞。それを一週間前に突然現れた俺が落としたのだから驚くのも無理はない。


 俺も正直、ここまで上手くことが運ぶとは思わなかった。


 結局のところ、賊──もともとは傭兵たちは金が目的だったのだろう。雇い主に忠誠を誓っていたわけではない。


 裏を返せば、雇い主も傭兵を信用していなかった。つまり、与えていた情報も最低限のはずだ。


 しかし彼──賊の頭ベリドはどうだろうか?

 要塞内でただ一人、転送装置について知っていた男。抜け穴が偽装だと知っていて、最後は自死を目論んだ。


 ベリドだけは計画の目的を知っていたと見ていい。


 リシュも同じ思いだろう。しかし、転送装置については黙っておきたい。


 信用していないわけではない。装置を欲しがることもないだろう。しかし装置を用いた俺の計画には反対してくるはずだ。俺が陰謀を企てた者たちの注意を惹く、という計画に。


 自分のせいで俺が狙われることになると知れば、リシュは絶対許さない。


 俺はリシュにこう願い出る。


「リシュ……頼みがあるんだが」

「うん?」

「ベリドと傭兵への尋問、俺に任せてくれないか?」

「え? そ、それはいいけど。私も一緒に」

「悪いが、俺たちだけでやらせてほしい。特にベリドは密室で行いたいんだ。リシュには見せたくない」


 リシュは神妙な顔をしてから、少し不満そうに答える。


「ヒール……私だってもう子供じゃない。領民のためなら、多少強引な方法だって……いや、でもさすがに鞭打ち以外は」

「心配しないでくれ。痛めつけるつもりはない。ただ、あまり人……特に女性には見せたくない特別な方法があるんだ」

「女性には見せたくない、特別な方法……」


 リシュは顔を赤くしながら考え込む。


 別にいかがわしい手法も取るつもりはない。リシュを諦めさせる手前、女性には見せられないと言っただけだ。


「まあ、そういうことだから任せておいてくれ。それと、ベリドは自決したという噂を流しておいてほしい。ルシカに協力者がいれば、ベリドの自白を恐れて逃亡するかもしれない」

「わ、分かった」


 リシュは頷くと、再び広場や要塞を眺める。晴天の下、レオードル家の旗が各所で翻っていた。


 俺も要塞の下を眺めると、衛兵たちがこちらに気が付き持っていた武器や旗を掲げた。


「ヒール様、万歳!」

「ヒール王子、万歳!!」


 その声を皮切りに、要塞の各所から俺を称える声が上がる。


 要塞を落とした俺を評価してくれている……それ自体は嬉しいのだが、なんだかむず痒い。王国で人から褒められることなど、今までなかった。


 リシュはそんな俺を見てほほ笑む。


「今まで落とせなかった要塞を、誰も失うことなく落とせた。ヒールはもう、レオードルの英雄だよ」


 そう言ってリシュは鞘から剣を抜いて掲げた。


「……レオードルを救ってくださったヒール王子に万歳!!」


 面と向かって俺を称えるリシュ。


 恥ずかしいが、名を上げることは望んだことだ。俺へ注意を向けるためにも、多少目立つ必要がある。


 俺も剣を掲げて、それに応えるのだった。


 それから俺は、要塞内の地下室を用い、賊たちの尋問を始めた。


 賊──傭兵たちは非常に協力的だった。皆、ベリドに多額の前金を出され、レオードルでの盗賊行為に参加したのだと言う。衣食住が保証されているだけでなく酒も飲めるし外部と手紙のやりとりもできる。ここでの暮らしに不満は無かったと証言していた。


 何名か非協力的な者がいたので、その者たちはマッパの作った装置で拷問した。断っておくと、決して痛めつける装置ではない……だが、俺も使われたくない拷問装置だった。


 その結果、やはり傭兵たちには重要なことは知らされていなかった。装置の存在も知らず、偽装の抜け穴から物資のやりとりをしていたと信じていた。塔の扉を施錠していたのは、脱走しないようにするためと考えていたようだ。


 だからやはり、ベリドを吐かせる必要があった。椅子に座らせ四肢を拘束し、猿轡をつけて尋問する。しかしやはり口が堅く、何も話さない。


 結局、拷問するしかなかった……


「ひゃはははははははは!!」


 地下室にベリドの笑い声が木霊する。


 そのベリドの全身を、マッパと十五号が猫じゃらしのような装置でずっと撫でていた。


 あれはマッパの作った拷問装置だ。

 以前、アランシアで捕えたルラットから情報を聞き出そうとしたときに、マッパが手に持っていた。あの時は使わなかったが、あれを強化したものらしい。


 正直、くすぐりで吐くかは疑問だったが……


「ひゃなす……! ひゃなすからあ! らめてぇえ!!」


 効果てきめんだった。


 マッパと十五号はくすぐりを中断する。


 ベリドは顔を真っ赤にしながら、俺に泣きじゃくるような顔を向けた。


「話す……ただ、もうこの拷問はやめてくれ」

「それは返答次第だ。 ……もう一度聞くぞ。お前は傭兵でも賊でもないな?」


 ベリドは頷きすぐに答える。


「あんな粗野な連中とは違う……俺は小さいころから剣や礼儀作法を学んできた。ずっと真面目に……」

「商人をしていた。そうだろう?」


 俺が訊ねると、ベリドは観念するような顔をした。


「お前の主は誰だ? あの、転送装置のことは分かっている。つながっている先もな……」


 ベリドはぎゅっと目を閉じてから口を開く。


「……ルシカにいる、アリュブール商会のアルヴァ様だ。俺たちが盗賊としてノストル山に居座れば、レオードルに武器や物資を売れる……だから盗賊行為をするよう、命じられたんだ」


 あっさりアルヴァとの共犯を認めた。

 商会の地下にあった装置の存在がバレているなら、アルヴァもすでに捕まったと考えたのかもしれない。くすぐりの効果もあるだろうけど。


 そして、目的はあくまで商売……


 辻褄は合う。武具や物資の需要を自ら作り出し、自分たちが供給を埋める。悪徳商人なら考えつきそうなことだ。


 だが、露見した時のリスクが高すぎる。死刑は免れない。


 それにあの転送装置があるなら、こんな大掛かりなことをしなくても手堅く儲ける方法があるはずだ。もっと単純に商売敵の金庫から金を奪ったり、いくらでもやり方はあるはずだ。


 アルヴァ自身もやはり誰かから指令を受けている可能性が高い。装置は与えられたにすぎないはずだ。


 あいつも拷問するか……しかし、その指示を出している者も、アルヴァを簡単に切り捨てるだろう。


 アルヴァもそれは分かっているはず。拷問するよりも、取引をもちかけるほうがいいかもしれない。


 その後、ベリドへの拷問は続けたがそれ以上の情報を得ることはできなかった。


 俺は装置を携え、ルシカへ帰還するのだった。

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