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二百六十九話 営業でした!?

 宿部屋についた俺たちは椅子に座り、一旦現状整理をすることにした。


 まずはリエナとフーレに、リシュの婚姻についての考えを話した。


 リエナは頷いて答える。


「ヒール様は、ベッセル家と賊が間接的に繋がっている……そう疑っているわけですね」

「今のところは、かもしれない、ぐらいだよ。陰謀を巡らせる貴族も、根城をつくる賊も、王国にはいくらでもいるから」


 ベッセル家でなくても、例えばレオードル伯領をよく思わない近隣の領主のせいかもしれない。賊が住み着くのも別に珍しくもない。


 フーレは難しい顔をしながら言う。


「でも、婚約を申し込んできた時期を考えると、やっぱり怪しい……そうだよね?」

「ああ。だから、賊を調査しようと思うんだ──うん?」


 俺は廊下から部屋に近づく魔力の反応に気が付く。この魔力の形は……


「ああ、リシュか」


 しばらくすると扉を叩く音が響いた。


「ヒール、夕食にはまだ早いと思ったんだけど。少し気になることがあって」

「気にしないで入ってくれ」


 俺が言うと、リシュが部屋へと入ってくる。


「座ってくれ。何があったんだ?」

「いや、うちの屋敷にも来ていた商人がいたでしょ?」

「アリュブール商会の?」

「うん。あの人たちが、ずっとヒールのたちの馬車をじろじろ見ていてさ」

「商人ならどこの馬車か気になるのも無理はないんじゃないか? 自慢するつもりじゃないが、あんな豪華な馬車なかなかないし」


 突然レオードル伯に貸付の話が断られた理由が、俺たちにあると思っているのかもしれない。馬車を見れば、俺たちが金を貸したみたいに思われてもおかしくない。


「そう、だよね。ただ、必死に紙で何かを書いていたようだから」

「商会の他の者に連絡するのかもしれない。金を持っていそうな者だから、見つけたら声をかけろ、とかね」

「なるほど。ご、ごめん。色々と心配しすぎだよね」

「無理もないよ」


 リシュをあまり不安にはさせたくない。


 だが、確かに目をつけられたのは心配だ。

 それにアリュブール商会もベッセル家と繋がっているかもしれない。


 とりあえず、馬車には十五号を残してあるから心配はないだろう。商人たちも表立って馬車に正面から手を出すことはないはずだ。


 リシュが領主の娘であることも、恐らくは把握しているだろう。


「それよりもリシュ。せっかく来たなら、ノストル山の包囲に詳しく聞かせてくれないか?」

「ああ、もちろんいいよ」


 リシュはそう言うと、宿にあったルシカ周辺の地図をテーブルに置く。


 ルシカが中央に描かれた地図。南側に賊が住むノストル山が描かれており、危険なので近づくなと但し書きが付いている。


 リシュはその地図に指さしながら説明を始めた。


「ノストル山を囲むように、二十の見張り塔と、四つの詰所が築かれている。そこを総勢五百人の衛兵が駐屯している。その詰所や見張り塔の間を、衛兵が四六時中巡回している感じだね」


 五百名。伯爵家がどこかと戦争をするなら少ない数字だが、一か所の治安維持に当てる人員としては過剰なほどだ。しかも賊がいる限りずっと給金や食費など払い続けなければならないから、財政的な負担は大きい。


「それで、今のところは上手く防げている、というわけだな」

「うん。今のところは、ね」


 リシュにもこのままではいけない、というのが分かっているのだろう。

 だが、ベッセル家の莫大な投資があれば、お金は気にならなくなる。だから、リシュは婚約を受け入れるつもりなのだ。


「……リシュ。そういえば気になっていたんだが、最近の賊による被害が軽微なんだよな?」

「うん。この一年は特に。主に兵士のいない時間を見計らって、周囲の村で空き巣やスリをしたりするぐらい。たまに暴行も起きるけど、すぐに村を出ていくらしい」

「そうか。それぐらいしか収穫がないのに、賊は食料をどうしているんだろうな?」

「山にだって食料はあるけど……賊は少なくとも三百人ぐらいいる」

「山にそれだけの食料があるだろうか? 畑を作っている可能性もあるが」


 俺はもう一つ疑問を口にする。


「しかも装備が良いと聞いた。武具だって手入れが必要だ。何か、おかしくないか?」


 リシュはそれを聞いてピンと来たようだ。


「つまり、誰かが山頂に物資を送り届けている……そ、そんな」


 顔を曇らせるリシュ。

 仲間に裏切者がいるかもしれない……それがショックなのだろう。


「味方だと決まったわけじゃない。それに送り届けているという話も、まだ本当かは分からない」

「そう、だよね」

「うん。だからリシュはまず包囲の兵士たちを調べてほしい。何か怪しい動きがないか。具体的には、兵士たちの食料の増減を調べたり、誰かが大量に食料を買い込んでいないか調べれば分かるはずだ。執事のレイヴァンを協力させる」


 レイヴァンは、今俺が考えついた十五号の偽名だ。リシュの身を守ってもらう。


「分かった。調べてみるよ。ヒールたちは?」

「俺は直接山を調べてみる。山頂に物資を運ぶのは大変だ。何かしら、輸送を楽にする手段があると思う」


 シェオールの鉄道のように、何かしら輸送を楽にするものがあると見て良い。


 山といえば、柱を山頂まで立てていき、その柱にロープを通して索道を作ることが多いが……索道があればさすがに目立つはずだ。


 となれば、有り得るのは秘密の抜け穴、とかかな。


 リシュは首を傾げて言う。


「もともとの要塞と山の地図に、そんな設備はなかった。それに、要塞攻略の際に、山は調べている……そんなものがあるかな?」

「賊が新しく作った可能性もある」

「うーん……賊がそんなものを作れるのかな?」


 俺は続ける。


「その賊、ただの賊じゃないと思うんだ。さっきも言ったが、ここで盗賊をするのには収穫が少なすぎる。包囲されているから街の出入りも容易ではない。何故そうまでして、ノストル山にこもるのか意図が掴めなくて」

「他に住む場所がないからじゃないの?」

「そういう理由もあるとは思うけど……まあ、たらればの話でしかない。いずれにせよ、調査してからじゃないと」


 リシュは頷いて言う。


「そう、だね。そうしたら、なら、私は明日にでも兵士たちを調べてみる……」

「身内が関わっていると決まったわけじゃない。それに食料の減りがおかしいなら、もう明るみになっていてもおかしくない。あまり心配しなくても大丈夫だ」

「ありがとう、ヒール。こんな時に言うのも変だけど、私、やっぱり……」


 リシュはそこまで言いかけて、顔を逸らした。


 何が言いたかったのか察することはできなかった。

 しかしフーレはニヤニヤと俺を見て、リエナは感慨深そうに頷いている。


 俺が首を傾げていると、リシュは俯き気味に言う。


「ゆ、夕食にする?」

「賛成。私もお腹すいちゃった!」

「明日に備えて今日は早めに寝てもいいかもしれませんね」


 フーレとリエナも同調するように言った。


「そうしようか」


 そうして俺たちは宿の一階にある食堂で夕食を取ることにした。


 テーブルには、牛肉のステーキや芋のシチューなどを中心に十種類ぐらいの料理が置かれている。暖かそうな湯気が立ち、食欲をそそる香りが漂っている。


 リシュは料理を皿に取り分けながら言う。


「全部、レオードルの名物だよ。レオードル領といえば、やっぱり肉と乳製品だからね」

「そういえば、いっぱい牛いたもんね……うん、美味しい!」


 フーレはステーキを頬張ると至福そうな顔をした。

 リエナもシチューを食べながら言う。


「芋も大きくて、濃厚な味ですね! 体が温まります」


 俺も色々と食べてみるが、本当に美味しい。肉の串焼きも非常にいい焼き加減だった。


 そんな中、俺は宿の入り口に立つ者の視線に気が付く。


 あれは……先ほどの馬車に乗っていたアリュブール商会の人間か。

 ここに宿泊しにきたというわけではなさそうだ。


 商人はこちらへ向かってくる。

 そして俺の前でお辞儀をした。


「お食事中失礼いたします。私は、アリュブール商会の番頭アルヴァと申します。少しお話のお時間をいただければと思い、お声がけいたしました」

「何かご用で?」

「失礼ながら、実は外の馬車を拝見いたしまして。ぜひ、我がアリュブール商会にお越しいただければと思った次第です。お声がけさせていただいた方には、特別な品を紹介させていただいております」


 こういう営業は、王都ではよくあることらしい。お金の持っていそうな者に声をかけているのだろう。


 俺が王子であることを知っているかどうかは分からない。いずれにせよこちらのことはペラペラ喋らない方がいいだろう。


「それはありがたい。そういえば、この街にもアリュブール商会の店があったな」

「はっ。よろしければ、ご覧になりますかな?」


 俺は首を横に振る。


「今日はいい。それに何を扱っているか次第だ」

「この地の特産はもちろん、バーレオン大陸全土の品々も扱っております」

「そうか。では、武具の類は?」

「おっと、武具に興味がございましたか……あるにはありますが、レオードル領の兵の方々に卸している実用的なものが多いので、お眼鏡にかなう逸品は王都より取り寄せなければなりませぬ」

「そう、か。ならば王都まで行くとしよう」

「お力になれず申し訳ございません」


 アルヴァは頭を下げて言う。


「いずれにせよ、どうかお気軽にお声がけください。お客様のお越しを心よりお待ち申し上げております。それでは失礼いたしました」


 アルヴァは再び深く頭を下げると、宿を出ていった。


 俺はリシュに訊ねる。


「武具の話は本当か?」

「そう、だね。最近はアリュブール商会から仕入れていることが多いとは聞いていた」

「アリュブール商会はずっとレオードル伯領でも商売を?」

「いや、一年ぐらい前からだよ」


 アリュブール商会は常に拡大を続けている大商会だ。新しく拠点や店舗を増やすことに不自然な点はない。


 大きい商会だからこそ、店も多い。そして大量の商品を用意できる。


 アリュブール商会も調べてみたいが……とりあえずは賊だな。


 俺たちは夕食を食べ終えると、その日は早めに寝ることにした。

挿絵(By みてみん)

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挿絵(By みてみん)

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