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二百六十一話 雪の小屋でした!

 俺たちを乗せた盾は、馬も驚くような速度で雪に覆われた山林を駆け抜けていた。


 目指すは南にあるはずのサンファレス。

 山を滑り降り、登り坂や森の上を飛んでいく。

 湖を発ってすでに三時間ほどが経った。


「風が気持ちいい!」

「雪景色も本当に綺麗ですね!」


 前からはフーレ、後ろからはリエナがはしゃぐのが聞こえる。

 空の旅や雪山の滑走を楽しんでいるようだ。


 一方の俺は振り落とされないか心配でならない。


 特に空中を飛ぶのは、高い場所が苦手な俺にとってはやはり怖い。

 魔道鎧で慣れたとはいえ、この盾には窓とかないし……


 とはいえ、リエナとフーレが前後にいるおかげかだんだん恐怖が薄れてきた。


 もうフーレから手を放しているがそこまで怖くない。

 リエナはずっと俺に抱き着いているが……


 そんな中、リエナが後ろから言う。


「……先ほどからほとんど生き物がいませんね。何匹か鹿はいましたが」

「寒さが大丈夫な魔物もいるかもしれないが、こんなに雪が積もっているんじゃな」


 リエナの言うように、一目で危険と分かるようなものは何も見当たらなかった。

 どこかみたいにリンドブルムが飛んでいたり黒い瘴気で覆われていたりはしない。


 普通の雪景色というと変だが、本当に平和だ。


「今までが特殊な場所で、ここが普通の場所なだけなんだろうけど……もう何時間も飛んでいるのにずっと同じ景色だな」

「建物も見えないし、ずっと雪が積もっているからね。やっぱこの山脈を抜けるの相当かかりそう……まだ日が暮れるまで時間があるけど、もう野営のことも考えといたほうがいいかも」


 フーレは空を見上げて言った。


「夜になってから野営地を探したら遅いからな。森で野営は熊とか魔物とか怖いし、見晴らしも悪い。こうして空を飛べるんだから、どこかの山にしよう。洞穴か平坦な場所があるといいんだが」

「そうですね。雪崩が起きないような場所、あるいは雪崩の影響を受けないような場所があるといいのですが……」


 リエナと俺は周囲の山に目を配る。


 しかしなかなか良さそうな場所は見つからない。


 そうして野営地を探しながら一時間ほどさらに進むと、リエナが声を上げた。


「──あ! あの山見てください! 山頂に平地が!」


 リエナの視線先、西側の山に目を向ける。

 その山は他と比べ、山頂に平地があった。

 あそこならば雪崩に飲み込まれる危険性は低い。


「足場が崩れる可能性はあるが良さそうだな」


 フーレが頷いて言う。


「あそこまで条件良い場所はなかなかなかったね! まだ夕方まで何時間かありそうだけど、今日はあそこで野営しようか?」

「そうしよう。まだ初日だし、これだけ速いと十五号たちも──いや、これは」


 北の空へ振り返ると、こちらに飛んでくる魔力の反応があった。


 目では見えないが、巨大な魚の形をしている。


「あれ……もしかしてマッパ号か?」

「え? 本当? マッパの奴、飛べるように改造したんだ。すごい」

「……さすがマッパさんですね!」


 フーレとリエナはそう言うが、あまり驚いているようには見えない。

 マッパ号が飛べるのを知っていたのだろう。


 最初からマッパ号でよかったんじゃ……


 それとも、高いのが苦手なのを俺に克服させるため、皆気遣ってくれたのかな。


 おかげで確かに怖くなくなった気がする──いや、そんな気がしただけだった。下を見るとまだ怖い。


「ついてこれているなら大丈夫だな……ともかく、あの山頂に行ってみようか。野営できるかはまだ分からないけど」

「了解!」


 フーレはそう言うと、盾で目的の山頂の平地へと向かった。


 到着した俺たちは平地に降り立ち足場を確認する。

 

 積もっている雪は薄く、少し掘るだけで岩肌が露出するほどだった。

 すでに積もっていた雪は、雪崩で落ちていったのだろう。


 雪をどかせば安全に野営できる──俺たちはここで一晩過ごすことにした。


 俺は風魔法で雪をどかし、岩の地面を確保する。


 その間にマッパ号も山頂に着地し、十五号たちが野営の準備を整え始めてくれた。

 まずは火を焚き、その周囲に椅子となる丸太を並べていく。

 リエナはその焚火でシェオールの魚を焼いたり、鍋を置いてスープを調理し始めた。


 また──何故かマッパが雪で小屋を作ってしまった。


 雪を押し固めできた半球のような形の小屋。

 中は寒くてとても寝れないだろう──そう思ったが中に入ると思いのほか暖かい。半裸のマッパがなんとか過ごせているのだから間違いない。

 水を撥ねる寝袋もあるとのことなので、テントではなくここで寝泊まりすることになった。


 そうして野営の準備を整えた俺たちは食事を取ることにした。


 皆で焚火を囲むように丸太に腰かけると、リエナが木の皿で配膳してくれる。


 まずはシェオールでもよく食べる焼き魚。シルフィウムで獲れた香草で味付けしているらしい。

 もう一つは貝のスープで、こちらはアランシアの牛乳で煮込まれているようだ。


 早速、フォークで焼き魚を食べてみる。


「身が柔らかくてジューシーで、いつもと同じ絶妙な焼き加減だ……でも、景色が違うせいか味が違うように感じるな。塩気も香りも変わらないはずなんだが」

「本当! 熱が口に広がるというか、スープもいつも以上に美味しい!」


 フーレもどこか興奮するように言った。

 確かに温かい食べ物が体に染み渡るような感じがする。


 リエナは嬉しそうに答える。


「寒い中だと温かい物がより美味しく感じますからね。あと……食事もそうですが、空もなんだか違うように見えますね」


 リエナはそう言って空を見上げた。


 俺も顔を上げ、暗くなった空を見つめる。

 そこには満天の星空と言って差し支えない光景があった。


「空を星が覆いつくしている……シェオールも星が良く見えたが、ここでもよく見えるな」

「うん! でもシェオールと比べると、空が澄んでいるような気がするね」

「そのせいか星の輪郭がよりくっきり見える気がしますね。あ……あの西の空のはドラゴン座ですね。バーレオンにいた頃よく見てました」


 リエナが空を指さして言う。


「ゴブリンたちから見た星座か? 確かにドラゴンに見えるが、あれはサンファレスでは大鷲座って呼ばれていた」

「大鷲ですか。言われるとそう見えなくもないですね。知りませんでしたが、人間とは星座が異なるのですね」

「そうかも……東のあれは見えるか? あれは白獅子座だ」

「えっ? 子猫座ではないのですか?」

「ずいぶん可愛く見えているんだな……じゃああれは? 王座って呼ばれているんだ。王が玉座に座っているように見えるだろ?」


 フーレが驚く様に言う。


「ええ!? あれって檻座じゃないの? 檻と、その中に入れられた人間の勇者! 隣の人型は、その人間を捕まえたゴブリンで、英雄のモ座って呼ばれている星座。ゴブリンの中では一番有名な星座だよ」

「ぜ、全然違うんだな……」


 と、俺たちは天体観測をしながら食事を楽しんだ。

 あまり聞いたことがないゴブリンの話が聞けたし、リエナたちにサンファレスのことを少し教えてあげることができた。


 完食した後は、俺も片付けを手伝う。

 皿を水魔法で洗い、風魔法で乾燥させていく。


「いやあ、美味しかった……しかし、本当に綺麗な夜空だ。皆にも見せてあげたいな」


 フーレは布で皿を拭きながら答える。


「たしかに! まあ子供は雪で遊びたがるかもしれないけど……皆もこれたらいいね。転移門のあった湖の近くに家作ってもいいかも!」

「シェオールの誰もが気軽に来れるようになるといいですね。あっ、ヒール様、お風呂湧いております」


 リエナが指さす方向には、先程俺たちが乗ってきた盾があった。

 盾の内側にはなんと湯気の立つ液体が満ちている。

 周囲には温風が出る魔道具もあるようで、裸になっても寒くなさそうだ。


「あの盾、風呂にもなるのか……万能だな」

「マッパさんから秘密にしていろと言われてましたので。もしよろしければ私とフーレでお背中を流しますが」

「だ、大丈夫だよ。それに先に入るのは俺じゃなくても……いや、二人が好きな順番にしてくれればいい」

「では、お先にどうぞ。どうかごゆっくり」

「わ、分かった」


 俺は二人の視線を気にしながら風呂に入った。


 再び星空を見ながらゆっくり風呂に浸かる──

 海を眺められるシェオールの温泉も格別だが、雪山で浸かる風呂も最高だ。


「ふう……」


 過酷な旅になると思われたが、皆のおかげで快適に進むことができた。

 俺が何を言わなくても、すべてやってくれる。


 思い返すと、俺、今日ほぼ何もしていないな……

 こんな楽させてもらっていいのだろうか。


 明日こそは俺も何か……いや、何も起きないのが一番だな。


 そんなことを考えていると、俺は気持ちよくなって風呂の中うとうとと眠ってしまうのだった。

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