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二十六話 何だか大変な木を埋めちゃいました!

 コボルトたちが食事を終えると、俺はアシュトンとハイネスから話を聞くことにした。

 どうして、こんな大海に来なければならなかったのかをだ。


「そんな、皆様も故郷を焼かれたのですね……」


 俺やバリスと一緒に話を聞いていたリエナは、暗い顔で呟いた。


 アシュトンはこう聞き返した。


「とすると、ベルダン族もゴーフェル族のオークに故郷を焼かれたのですな……」

「はい……家も森も全てを焼かれました。私も王である父を失い、母兄弟全てを失いました……」

「なんと……それは辛かったでしょう」


 アシュトンもまた表情を曇らせた。


 アシュトンたちティベリス族は、リエナたちベルダン族と同様に、ゴーフェル族というオークの一部族によって故郷を焼かれたらしい。


 俺はアシュトンにこう訊ねた。


「ひどい話だな……じゃあ、アシュトンたちはそのゴーフェル族に追われて、この近くまでやってきたってことか?」

「いえ、ゴーフェル族は基本、船を扱えません。陸地ではゴーフェル族に追われたのですが、海ではその同盟相手であるコルバス族に襲われていたのです」

「コルバス族か……俺も聞いたことあるな」


 確か、サンファレス王国の貿易船も襲っている、オークの海賊団のことだ。

 熟練の船員ばかりで構成されており、海戦慣れしているので、傭兵としても名高い。

 サンファレス海軍が討伐に乗り出したことも有ったが、終始逃げの一手を取られ、一隻も沈めることはできなかったらしい。

 

「そんな奴らがまだ近くにいるかもしれない……もっと警戒する必要が有りそうだな」


 俺の声にバリスが頷く。


「それでは櫓か何かを作り、見張りも増やしましょう。 ……しかし、アシュトン殿。海に逃れ、どこへ向かうつもりだったのです?」

「それは……新たな大陸にです」

「ほう、そうでしたか。ワシらベルダン族も同じく、新たな大陸を目指していたのですよ」

「なんと……では、ベルダン族にも同じような伝承が?」

「南方の忘れられた大陸……ワシらは、黄金こがねの地と呼称しておりました」

「そうでしたか。我らは葦の生い茂る平野と、南の大陸を呼んでいます」


 二人の会話を、俺は不思議に思った。


 バリスたちゴブリンが来たときは、俺はてっきり王国船の多い沿岸を避け、一旦南方に来たと思ったのだ。

 しかし、バリスたちはどうやら南方に大陸があると思ってきたらしい。

 

 だが、このシェオールから南には……


「俺は…… いや、人間の子供なら、このシェオールから南にあるのは、奈落のような滝だって教えられる。……まあ実際のところは、非常に波が高くて船が通れない海域があるってことらしいが。いずれにせよ、大陸があるなんて話は聞いたことがなかったよ」

「ワシらも神話の話故、なかば賭ける気持ちで海に出ただけです」

「我らティベリス族もそうですな……しかし、女王陛下だけは、南に大地があると信じて疑いませんでした」


 バリスもアシュトンも、半信半疑であったようだ。

 それでも南を目指したのは、今まで住んでいたバーレオン大陸だけでなく、東や西の大陸にも自分たちの住処はないと思い至ったからだろう。


 アシュトンは声を震わせる。


「ですが、南には現にこうして大地があった……女王は間違っておられなかったのだ」


 確かに間違ってはないけど、随分ちっさな大地があったものだな……

 女王が生きていたら、何か思っていたのと違う……と言うだろう。


 まあ、まだ南に新しい大陸がないと決まったわけじゃないが。


 それはさておき、コボルトたちが増えて、相対的にこの島はちっさくなったとも言える。


「女王の墓も後で作るとしよう。いい加減、入り口の遺骨の墓も作らなきゃだしな……あ、その前にコボルトが寝泊まりする部屋を、洞窟で掘るべきだったな」


 うーん、やることが多すぎるな。

 他にもやらなきゃいけないことが、あるだろうし……


 俺が頭を悩ませていると、リエナが言った。


「ヒール様……ヒール様が全てを一人でなさる必要はありません。簡単な指示を出していただければ、私たちがやりますから」

「姫の言う通り。道具も満足にありますし、部屋も墓も我らにお任せください。コボルトの方々に採掘を覚えてもらう、いい機会にもなるでしょう」


 バリスの声に、アシュトンとハイネスも頷く。


「我ら兄弟はもちろん、ティベリス族一同、すでにヒール殿に忠節を捧げた身。このアシュトンと、ハイネスになんなりとお命じくだされ」


 コボルトの赤ちゃんも俺の胸から顔を出して、よく分からないだろうに、手を上げてみせた。


「皆……」


 この島に来たとき、俺は一人だった。

 それがスライムのシエルを皮切りに、ここまでたくさんの島民が増えた……

 素直に、俺はそれが嬉しい。


 嬉し涙をこらえ、俺はうんと頷く。


「ありがとう……それじゃあ、バリス。まずは、アシュトンとハイネスと一緒に、洞窟の部屋を作る計画を立ててくれるか?」

「仰せのままに。それでは、アシュトン殿、ハイネス殿、洞窟を見に行きましょうぞ」

「「はっ!」」


 アシュトンとハイネスは俺に頭を下げてから、バリスと共に洞窟へ向かうのであった。


「それで、リエナには一つ大事な頼みがあってな……一緒に育ててもらいたいものがあるんだ」


 俺の言葉に、リエナは顔を赤くする。


 え? 今の俺の言葉に恥ずかしがる要素あった……?


「わ、私もヒール様と一緒に育てていきたいです!! 未熟ですが、私頑張ります!」

「そこまで難しく考えなくてもいいんだけど…… それで、これなんだが……」


 俺はズボンのポケットから、植物にしては大きい種を出した。

 途端に、リエナの顔が平静を取り戻していく。


「……なんでしょう、これ?」

「世界樹と呼ばれる木の種子だ。これを一緒に育ててほしい。リエナには太陽石を預けただろう?」


 植物の成長を促進する、太陽石。

 あまり数はないので、一個だけ使うつもりだ。


 ……あれ?


 俺は一瞬リエナが止まったかのように見えた。

 だが、リエナはパンパンと自分の頬を叩いて、すぐにいつもの真面目な顔に戻る。


「世界樹……ですか。初めて聞きますね」

「バリスが言うには、とてつもなく大きな木で、何かしらの恩恵を生物にもたらすとか……まあその、よく分からない木なんだよ」

「なるほど。とにかく、害はないということですね? それならば、確かに埋めてみて、どんなものか見ても良いかもしれませんね。ですが、畑は今、全部埋まってまして……」


 リエナは埋立地をきょろきょろと見回す。

 

「土は有るので、どこか見栄えの良い場所でもよろしいのではないでしょうか?」

「そうか……」


 どこがいいかな?

 木を中心に街づくり…… 

 景観も良いだろう。

 

「じゃあ、埋立地の中央に……いや、待てよ」 


 だが、とてつもなく大きな木とはいったい、どれぐらいの大きさなのだろうか……

 あまり大きすぎると、洞窟から海が見えなくなってしまう。

 見た目が良くないということではなく、誰か来た時に見晴らしが悪いのは避けたいのだ。


「……とりあえず、島の裏側に陸地を作ってみるよ。そこで、様子を見てみよう」

「かしこまりました!」


 俺は洞窟に入って、島の裏側まで道を作る。

 そしてそこからこの前と同じように、インベントリから石材を作り、埋立地を作るのであった。


 コボルトも増えたことだしこの際、大きさも前と同じものを作る。


 だけど、こちらは大きな津波にも耐えられるように、海面から10mになるような高めの土台を組む。

 当然、かかる時間も倍になり、もう少しで夕方というところで、ようやく完成した。

 採掘と違ってこちらは体力をそんなに使わないので、疲れないのは良いことか。


 しかし、岩を大量に消費してしまった。

 岩はなんだかんだで役に立つので、すぐに補充する必要がある。

 これはまたしばらく採掘に集中すべきだな。


「よし、早速埋めてみるか。中央でいいかな」

「はい! それでは向かいましょう」


 俺たちは新たにできた裏側の埋め立て地中央に向かう。

 そしてそこで、土……ケイブスパイダーの〇を敷き詰めた。


「これで埋められるな……うん?」


 俺は後から何かの気配を感じた。


 真っ裸のおっさん……マッパだ。

 何食わぬ顔で、木を埋める場所を見ていた。


 何か新しいことをしようとすると、いつもどこからか現れる。

 まあ、別にいいんだが……びっくりするので、せめて何か声を掛けてほしいものだ。


「それじゃあ、埋めてみるよ……」


 俺は早速世界樹の種子を埋めてみた。

 

 ここから、試しに太陽石を一個使ってみるとしよう。


 だが……


「あれ? 小さいですが、もう芽が出てきましたね。太陽石を使われたのですか?」

「いや……俺は使ってないよ。リエナに太陽石は全部預けたからね。リエナこそ使ってないか?」

「いえ、私も……現に、このまだ使ってない一個しか、倉庫から持ってきてませんし」


 リエナは夕焼け色の石を俺に見せる。

 これはまだ使ってない輝きだ。くすんでいない。


 とすると……


 俺は後方のマッパに顔を向けた。

 だが、マッパも俺は違うと言わんばかりに、胸の前で両手を振る。


「……本当か? お前はよく、石を勝手に持っていくからな……」


 まあ、でもマッパの言うことは本当かもしれない。

 両手には何も持ってないし、あの短い腰布の先にしか何かを隠せない。


「まあいいや……リエナ、とりあえず太陽石を使ってみてくれるか?」

「はい! それでは」


 リエナは太陽石を高く掲げ、使用する。


 すると、世界樹はぐんぐんと伸び、マッパの背を超え、俺の背を超え……


 ……うん? 何か、おかしくないか?


 成長が止まる気配が見えない。

 すでに、俺の身長の倍の高さに成長しているのに。

 幹もどんどんと広がり、俺たちは思わず後ずさりした。


「お、おい、リエナ。本当に太陽石は一個だけなのか?」

「は、はい……確かに、これだけです」


 俺たちが声を震わせる中も、木はどんどんとでかくなっていた。


「まずい!! 洞窟まで逃げろ!!」


 俺はリエナの手を引き、振り返った。

 既にマッパも走り出していたので、俺たちも全力で駆ける。

 だが振り返ると、俺たちの速さに負けないぐらいに拡大する木が……

 

 一心不乱に逃げる俺たちだが、マッパが足を滑らせてしまった。

 すぐに拡大する木の幹が、マッパの体を取り込む。


 手を伸ばすマッパだが、俺も走るのに必死だ。


「マッパっああああ!!!」


 俺が叫ぶも、世界樹からなんだか快感に満ちた顔だけを覗かせながら、マッパは高く昇っていくのであった。

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