二百五十五話 四カ国同盟でした!
俺は今、ラングスにある総督邸に来ている。
総督のアーダーはすでにベーダー本土へ帰還し、現在ここはラング王国の実質的な宮廷として用いられていた。
決戦後、休む暇もなく動いていた俺たち。
だが、それはレムリクも同じだった。
法律や条例の制定だけでなく、役人の選抜など、国制を整えることに奔走していた。
一から制度を作るのは大変だっただろう。
少し休むよう勧めてもいいかもしれない。
しかしその心配はいらなかった。
執務室の扉を開くと、忙しそうにするレムリクの姿が。
机の前に座り、膨大な書類に目を通しては次々と署名している。
俺ならげんなりしてしまうような光景だが、レムリクに疲れは見えない。
ようやく、自分のやりたかった改革ができることを内心喜んでいるのかもしれない。
レムリクは俺たちに気が付くと、筆を置いて立ち上がった。
「忙しいのにすまない」
「気にしないでくれ。俺たちのほうは、だいぶ片付いたから」
「父上たちと話をつけてから、君たちは率先して僕たちを助けてくれた。いや、君たちがいなければ、まだこのラングは混乱の真っただ中だったろう。本当に、なんとお礼を言えばいいのか」
「俺たちがいたから、レムリクも決断したんだ。俺たちが協力するのは当然だ。それは、これからもな」
「ありがとう……シルフィウムの者にも礼を言わないとな」
「今、シェオールに来てもらっている。一緒に行こう」
シェオールには、シルフィウムのテオドシア、アランシアのアリッサが来ている。
アランシアにもシルフィウムとラングと協力関係を結んでほしいと、バリスが呼んでくれたのだ。
そうして俺は、レムリクを連れてシェオールに帰還した。
鉄道で地下から地上へ向かう中、俺はレムリクに気になっていたことを訊ねる。
「そういえば、レムリク。ドラゴンが倒れたとき、始祖って言ったな。あのドラゴンはつまり、ベーダー王家の始祖だったのか」
「ああ。あのドラゴンは、その始祖の血の力が集まったもの。ベーダー人の中には、誰しも始祖の血が少し流れている。父上は魔法でその血を利用して、始祖を召喚したんだ」
「なるほど。となると、またベーダー王はあの魔法で始祖を再現できるわけだな」
「残念ながら、それはもう難しいだろう。今ベーダー人には誰もが始祖の血が流れていると言ったけど、王族と民衆の間では濃さに差がある。一般に、血が濃ければリンドブルムになったときに大きく強くなれるんだ」
龍化の力の源は、その始祖の血の力だったのか。
俺やバリスは耳や翼が龍化の力の源と考えていたが、そうではなかったようだ。
「そうなのか。だが、あの戦いで死んだベーダー人はいなかった。王族も多数生き残っている。それなら、やはりまた攻めてくるんじゃないのか?」
「兄上たちの姿を見ただろう? 生きてはいるが、翼は焼け落ち、鱗は落ちた。君たちが以前倒したアーダーのようになってしまった。他の王族も皆、そうなった。あれは始祖の血の力を使い果たしてしまったんだ」
「じゃあ、ドラゴンになっても、リンドブルムになっても、もう元の強さは取り戻せないってことか」
「ああ。しかもあの場には、国の主要な王族や貴族が集まっていた。そのほとんどが、血の力を失ってしまった……彼らのほとんどが、もう普通の人間と変わらない」
「戦力の大半を失ってしまったわけか」
「そう。こんな状態では、父上はラングなんかに構っている余裕はない。諸外国から攻められないか肝を冷やしているはずだ。亜人をあっさり解放したのも、もう今までのように従わせる圧倒的な力がないからだ」
ベーダーは諸外国へ侵略を繰り返していた。
敵も多いのだろう。
その上、国内の亜人にも対処するのは不可能だったわけか。
レムリクはこう続ける。
「それに、僕は始祖の血の力をいくらか自分のものにすることができた」
「うん? もしかしてお前は、その血の力を得るためにドラゴンに?」
「そこまで利己的ではないよ。取り込まれた一番の理由は、ドラゴンを自分で制御するため。まあ、無理だったけど」
「ずいぶん危険なことをしたな……」
「ごめん。君たちに甘えてしまったのは確かだ。君たちなら僕がいなくても倒せるだろうと思ったし、もし僕が死んでも亜人たちを導いてくれるって」
「今後は勝手な真似は許さないぞ。俺たちの戦いはこれからなんだから」
「ああ。ラング王国を繁栄させるのはもちろん、君たちと予言の日に備える……それまではもう危険な真似はしない」
レムリクは深く頷いた。
「本当に頼むぞ……そうだ。龍化といえば、レムリクの龍化は違う姿だったよな」
「ああ。僕の龍の姿は、母の姿に似ているんだ。母はそもそも龍人ではなく、異国の龍だった」
「そうだったのか……」
「ああ。殺されてしまったけどね。母は戦が嫌いで、主戦派ばかりのベーダーでは異端だったから」
レムリクは自分に言い聞かせるように続ける。
「……僕が母上の願いを叶えるんだ。平和で争いのない、誰もが豊かな国を」
「……俺も、これから会うテオドシアやアリッサも同じ考えだ。きっと、アランシアも快く協力してくれるだろう」
「ありがとう、ヒール。僕たちも、君たちを助ける。約束だ」
レムリクはそう言って手を差し出した。
俺は頷き、その手を握るのだった。
それからシェオールの地上に着いた俺たちは、シェオールの宮殿でテオドシアとアリッサとともに会議を始める。
アリッサはラングへの支援や協力を申し出てくれた。
それだけでなく、シェオールとアランシアの同盟にシルフィウムとラングを加えることを許可してくれた。
こうして、予言の日に備える、四か国の同盟が誕生した。
四か国で取り組むことの一つは、各国で黒い瘴気などの観測機関を設け互いに情報を共有すること。
そして予言の日に備え、食料や物資を貯蔵すること。
細かい技術交流や支援などの詳細は、バリスや各国の要人で詰めてくれることになった。
長い戦いだったが、俺とシェオールは、新たに心強い仲間を得たのだった。
第八章はこれで終わりとなります。
読んでくださった方、本当にありがとうございます!
九章は、長い旅に出ていた者たちが帰ってきて──
今後もどうか読んでいただければ嬉しいです。
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