二百四十八話 看破しました!
ルダたちが去っていく中、俺は振り返って言う。
「皆、準備を!」
リエナ、フーレ、アシュトン、ハイネスは真剣な面持ちで頷く。鎧で武装した彼らは、それぞれ四方に視線を向けた。
敵はどこから来るか分からない。
もし敵わなそうな相手なら全力でレオールへ皆で逃げる。
そう身構えていると、やがてルダが去った方向からベーダー人たちの集団が現れる。皆、龍と化していた。
大軍で俺たちを倒すつもり……そう考えたが違ったようだ。
ベーダー人たちは行進をやめ、横陣を組んで立ち止まる。
やがて集団の中から一人の龍人が飛び出してきた。
ベーダー王……にしては、あまりに魔力が少なすぎる。また、立派な龍ではあるが、ルダよりも体躯で劣っていた。
「我はガルダー!! 反逆者レムリクよ、俺と勝負しろ!!」
レムリクは俺に顔を向けて言う。
「おそらく、王子たちに一騎討ちをさせ、こちらの実力を見るつもりだろう。だが、ガルダーなら、僕だけでも対処できる。君たちは周囲の警戒を」
「分かった」
俺が頷くと、レムリクは人の姿のままガルダーへと向かった。
レムリクにも転移石を渡している。そしてドラゴンでない者がドラゴンになれるという、竜化石も。
ロイドンから手に入れた竜化石。ベーダー人が使えばどうなるかは分からないが、これは一応の保険だ。
……レムリクは龍にならなくとも、十分に強い。
「貴様には到底扱えぬ雷の魔法……とくと味わえ!!」
ガルダーは体を光らせると、周囲に閃光を走らせた。
その閃光は、走るレムリクを囲むように向かっていく。
強力な雷魔法。
人間が相手なら、何人殺されていたことか。
しかし何も心配いらない。
今のレムリクには、魔力の壁を展開するミスリル製の盾を持たせてある。
マッパが用意したもので、しかもレムリクの元々の鎧や剣にも各種魔法が使えるよう改造してくれた。どれも魔法を記憶させる魔導石を装着させた形だ。
それが雷魔法を防いでくれる……までもなかった。
レムリクは一瞬でガルダーの目前へと移動する。
「なっ!?」
剣を振るうレムリクを前に、ガルダーはただ驚くことしかできなかった。その場でガルダーの体は地に伏せる。
斬ってはいない。剣の腹で叩いたのだろう。
「レムリクの今の移動は転移石か」
転移石をガルダーへと投げ、その場に転移した。
俺もオレンと戦う際用いた手だ。
使い方の一つとして教えたが、初戦で使いこなすとは。
レムリクはベーダー人たちに向かって言う。
「これで終わりか!? 屈強で知られたベーダー人が!?」
ベーダー人たちはその言葉に怒りを露わにする。怒声の嵐の中、五名ほどのベーダー人が飛び出してきた。全員王子なのか、名乗りをあげてレムリクへと向かう。
「雑種ごときが!!」
「やはり人間の血が入ったやつなど生かしてはいけなかったのだ!!」
そう叫びレムリクに雷魔法を浴びせるベーダー人たち。
しかしレムリクはそれを軽々と避け、一体ずつ剣で倒していった。
それを見てさらに王子以外の多数のベーダー人が挑むが、全くレムリクには敵わない。複数で一斉に襲いかかっても、足元にも及ばなかった。
転移石のおかげもあるだろうが、さすがだな……
アシュトンも感嘆の声を漏らす。
「なんと鮮やかな」
「ああ。転移石があるとはいえ、ありゃ別格だ」
ハイネスもそう呟いた。
剣の腕ならシェオールでこの二人に勝てる者はいない。その二人に言わせるのだからやはりレムリクの剣術はすごいのだろう。
ベーダー人の様子からもそれは窺えた。
次々と襲いかかるベーダー人を容易くあしらうレムリクを見て、明らかにベーダー人の意気は消沈している。
一人倒されるたびに、彼らの声は小さくなっていった。
周囲の様子にも異変はない。
ルダ以外、大きな魔力の反応も感じられなかった。
……王は来ていないのか? 俺たちの勘違いか?
いや、ルダ以外の王子がこれだけ集まっているのだ。そんなことはないはず。
それに、なぜルダは襲ってこないのだろうか。
戦力を小出しにするのも理にかなっていない。
以前ルダは一対一で戦うようなこだわりは見せず、仲間を使い俺たちを包囲しようとした。
何か企んでいるはず……レムリクが戦いに集中している今、俺たちがそれを看破しなければ。
俺は再び周囲に目を凝らす。
倒れていくベーダー人たち。演技ではなく、本当に気を失っているのは間違いないが……
うん? ベーダー人たちの倒れている場所に偏りがないか?
俺は魔力の反応の並びの規則性に気がついた。
ここからでは分かりにくいが、レムリクの周囲を円で囲むようにベーダー人たちが倒れている。
巨大な魔法陣……倒れたベーダー人の魔力を用い、何か大掛かりな魔法を使うつもりか。
だが、倒れているベーダー人たちも危ないはず……
いや、以前ルダは仲間が倒れている場所に平気で突っ込んできた。仲間を犠牲にしてでも勝とうとするだろう。ベーダー王もそうかもしれない。
俺たちやレムリクには転移石があるから、なんとか逃げられるはずだ。
だが、このままだと、倒れたベーダー人たちが死ぬかもしれない。
俺たちはベーダー人との争いを望んでいるわけじゃない。シルフィウム、ベーダー、亜人、全ての勢力と協力関係を築きたいと思っている。死人なんか出したくない…
王が見ているなら……こちらの意思を行動でも彼に伝えよう。
もうすぐで魔法陣の円が完成する……そろそろ魔法がくるはずだ。
俺は皆に言った。
「……アシュトンとハイネスは、後方へ転移しろ! リエナとフーレは魔法壁を頼む!!」
そう言い終わるや否や、突如空から眩い光が降り注いで来た。