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二百四十七話 すでにいました!?

 レオールに五人のベーダー人の集団がやってきた。皆、武装もせず貴族らしい服装。ルダと総督の使者だ。


 彼らは亜人の警備隊に止められると、レムリクと交渉の場を持ちたいと伝えてきた。


 俺はレムリクと共に合議を開き、対応を決める。使者にはラングスとレオールの中間地点で会談したいと伝えさせた。


 一方の使者は返答を持ち帰ることもなく、その場でこちらの申し出を了承した。


 かくして翌日、俺とレムリクは交渉の場へと発った。


 交渉に臨むにあたり、万全の準備を整えている。


 交渉に同行するのはリエナ、フーレ、アシュトン、ハイネス。他にも、十五号をはじめとしたゴーレムや魔道鎧に乗り込んだ魔物たちが遠くから支援してくれる。皆、マッパが作った魔法を弾くミスリル製の鎧や武器を身につけていた。


 一方のレオールにはバリスが、シェオールにはエレヴァンが残っている。何かあれば、バリスもまた駆けつけてくれることになっていた。


 また、交渉の場から即座にレオールに撤退できるように、レオールから等間隔に転移石を落としていく。


 やがて歩いていくと、少数でこちらを待ち構える者たちの姿が見えてきた。


 ラング州の総督アーダー、そして王子ルダ。あとは護衛らしき者が少数だ。


 ルダは腕を組み堂々とした態度でこちらを待ち構える。一方のアーダーは遠目からでも不安そうなのが窺えた。


 アーダーがいるか。

 彼とはシェオールで会っていることは、レムリクにも伝えてある。

 こちらの正体を明かしてもいいと言ったが、レムリクはベーダーとシェオールの関係が悪化することを懸念し、変装するよう勧めた。会談では、レムリクの護衛として振る舞うようにとも。


 その助言に従い、俺はマッパの作った防具で身を固め会談に臨む。頭も全身も覆う、ミスリルのプレートアーマーだ。


 レムリクは俺と顔を合わせて言う。


「それじゃあ、行こう」

「ああ」


 俺が頷くと、レムリクはルダたちのもとへと歩き出した。


 ルダはすでに魔力を回復させている。

 以前と同じ強力な突進をいきなり繰り出してくる恐れもあった。


 俺はルダたちの一挙一動に注意を払いながらレムリクの斜め後ろを歩く。


 しかし、彼らは怪しい動きを見せない。彼らの後方、少し離れた場所にはいくらか魔力の反応があるが、こちらも静かにこちらを見守っているようだ。


 特に何が起こるわけでもなく、俺たちはルダの前へと到着した。


 レムリクがまず口を開く。


「兄上、そしてアーダー殿。よくぞ来られた」

「レムリクよ。逃亡の件は問わぬ。しかし、この騒ぎは何の真似だ?」


 ルダは静かに訊ねた。

 強面の顔のせいか、口調が静かでも威圧感があるな……


 一方のレムリクは怖気付くことなく答える。


「私が命じました。兄上の侵攻には手を貸すなと」


 聞いていたアーダーは及び腰ながらも怒声を響かせた。


「ご、ご自身が何を仰っているのか分かっておられるのか!? これは聖戦なのですぞ!?」

「今、シルフィウムを攻める理由がどこにある? こう言っては失礼だが、あなたは西方の探検に失敗した汚名を、シルフィウム征服の功で雪ぎたいのだろう。そんな個人的な欲のために亜人たちを付き合わせる権利はどこにもない」

「王子とはいえ、言ってよいことと悪いことがございます! 私は単にベーダーへの脅威を完全に取り払おうと……し、失礼を」


 アーダーはルダが手を小さく挙げたのを見て黙り込む。


 ルダは再びレムリクに訊ねる。


「つまりお前は、シルフィウムに侵攻するなと言いたいのだな」

「ああ。そしてこれを機に、南方の秩序を取り戻す。亜人は我がベーダーの民。暴行や搾取は許されない」


 レムリクの返答にアーダーは青筋を立て口を開こうとする。

 しかし、ルダがそれを遮った。


「それがお前の要求か」

「大まかにいえばそうだね。詳細はこの書に認めてある」


 レムリクはそう言って、書状を差し出した。


 ルダはそれを受け取る素振りも見せず答える。


「俺は受け入れん。次は俺の話を聞け、レムリク」


 レムリクは残念そうな顔をするが、一息吐いて答える。


「そう、か。一応聞かせてもらうよ」

「亜人をすぐに村々へ戻し、侵攻の支援をさせるのだ。そしてお前は、俺と共にシルフィウムへの先陣を務めるのだ」

「断る……これで交渉決裂だね」

「レムリク。俺は交渉に来たのではないぞ。命令を伝えにきたのだ」

「兄上が僕に命令……? まさか」


 レムリクは急に表情を強張らせる。


 ルダは察したように頷いた。


「ああ。これは、王命だ。父上が、シルフィウムを征伐するよう、俺とお前に命じたのだ」


 ルダが言うと、周囲の護衛の一人がレムリクの前で片膝を突き書状を差し出す。


 レムリクは額に汗を滲ませ、その書を手にした。


 書物自体に魔力の反応などはない。

 レムリクが金箔で縁取られたその書状を広げると、口を開いた。


「確かに父上の命令書だ。まさか、辺境の作戦に際して父上がこのような命令を送ってくるとは」

「お前が脱走したことを、虚飾なく父上に報せた。すると即座にこの勅書を送ってきたのだ」


 ルダは淡々と答えると、じろりとこちらを睨んできた。


 鋭い視線に威圧されそうになるが、俺はなんとか耐える。


 言わんとしていることは大体わかる。

 王は、俺たちの存在を異質に思った。だから即座に介入してきたのだと。


 しかし、レムリクも俺も覚悟していたこと。

 王が来ているかは分からないが、こちらの対応は変わらない。


 レムリクは即座に勅書を破く。


「兄上。僕はこの王命に従うつもりはない」

「父上、そしてベーダーに反逆することになるのだぞ」

「それでもだ。決めている」

「お前は変わり者だが、武芸の腕は確かで馬鹿ではない。そのお前がここまで強気に出る……一体何がそうさせる?」


 そう言って静かにこちらを見るルダ。


「信用のおける者をレオールに偵察に出した。しかし全く隙がなく、誰も侵入できなかった。認めたくはないが、すでに俺が対応できる話ではなくなった」


 ルダはレムリクに再び顔を向ける。


「貴様たちは我がベーダーの明らかな脅威となった。それを忘れるな」


 それだけ言い残し、ルダは背を向け護衛とともに去っていく。

 アーダーは慌ててその後を追った。


 レムリクは彼らの背中を見て言う。


「宣戦布告、というところだね」

「ああ。きっとお前の父上ももう」


 俺の言葉にレムリクは首を縦に振った。


「僕たちを見ているだろう……いつ仕掛けてくるか」


 レムリクがルダが向かう先へと顔を向けるのだった。

出店宇生先生による本作コミカライズ連載中! カドコミ様で29話①更新されています!

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