表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
235/290

二百三十五話 杞憂でした!

 ルダ王子がシルフィウムへの侵攻を宣言した翌日。

 俺たちは戦を止めるため、そしてレムリクへ会うため行動を開始した。


 まずはゴーレムたちを通じ、シルフィウムとシェオールに侵攻のことを連絡した。


 シェオールには争いとなった場合に備えるように、そして争いを事前に止める手立てを考えてほしいとも伝えてある。


 もっとも、シェオールには直接俺の口から伝えることになったわけだが。


 というのも、俺たちは一度シェオールに帰還したのだ。

 レオール山の鉱床の地下にあった転移門を使って。


 マッパを連れていったが転移門は壊れておらず、扉を開くだけで無事にシェオールの地下と接続することに成功した。


 あとは俺が上向きに掘れば、慣れ親しんだシェオールの坑道が見えてきた。


 これでラング州との行き来が容易になったわけだ。


 もちろん、ベーダーからシェオールに何者かが侵入する可能性もある。

 転移門のレオール鉱床側にはゴーレムたちを配備して門を守ってもらう。


 そうして俺は今、バリスたちシェオールの大臣たちを集め、シェオールの庁舎で会議を開いていた。


 久々の海をゆっくり眺める時間もないまま、俺は皆に侵攻とレムリクのことを伝える。


 バリスが言う。


「承知しました。以前の報告からすれば、拡大を続けるベーダーがシルフィウムに侵攻することに特に驚きはありませんな」


 エレヴァンも胸を叩いて言う。


「シルフィウムを守るための準備も済んでますぜ。大将の声があれば、いつでも行けやす!」


 皆、最悪の事態に備えてくれていたようだ。

 悲観する様子もなく想定内という反応。


 バリスは落ち着いた様子で続ける。


「しかし、シルフィウムへの援軍は最終手段。目下、取り組むべきはベーダーに侵攻を思いとどまらせることでしょう。その第一段階として、レムリク王子と接触する──我らも反対する理由はありません」

「捕まるぐらいなら、そのレムリクって王子様とルダとかいう兄貴は仲が悪いはずだ。きっと大将に力を貸してくれるはずですぜ」


 エレヴァンもそう頷いた。

 二人とも賛成のようだ。


 そんな中、アシュトンはこう呟く。


「兄弟の仲は表向きには分からないもの。会いに行くこと自体は反対いたしませんが、両王子が結託する可能性も考え、計画は万全を期すべきかと」

「兄貴は心配しすぎだ。王族の兄弟ってのは、片方の親が違うってやつも多い。ヒールの旦那の弟を見れば……あ、すいません」


 謝るハイネスに俺は首を横に振る。


「いや、ハイネスの言う通りだ。王族は立場上、血縁でも対立することが多々ある。代表的なのは、継承権を巡ってだな……もちろん、レムリクとルダがむしろ仲がいいことも考えられる。アシュトンが言ったように何が起こってもいいようにしておくべきだ」


 となれば、とバリスが口を開く。


「どんな状況にも対応できるようにするのが好ましい……姫とフーレだけでなく、他の者も接触の計画に参加させましょう」

「ええ? 私と姫だけでも大丈夫だって、バリス様」


 不満そうに言うフーレを見て、エレヴァンが首を横に振る。


「どんな相手か分からねえ奴の懐に忍び込むんだ。姫はともかく、お前じゃ心細い。ここは俺が……」

「父さんが行ったら目立って仕方ないでしょ……というか暴れたいだけなの知っているからね」


 フーレがそう言うと、エレヴァンは違うと反発した。


 リエナは少し考えた後に言う。


「ヒール様をお守りするなら、確かに私とフーレで問題ないとは思います。とはいえ、レムリク王子の剣は、私たちではとても捉えきれないほど速かった……ルダ王子も同じ剣の腕を持つ可能性があります」


 俺はリエナの言葉に深く頷いた。


「武器や体術に優れるやつが来てくれると確かに助かるな」

「だったらやっぱり俺が一番だ!!」


 エレヴァンはそう言うが、アシュトンもこう口を開く。


「力であれば確かにエレヴァン殿でしょう。しかし速さとなれば我に分があるはず。ここは我にお任せあれ」

「いや、兄貴より俺のほうが嗅覚がいい! 旦那! 俺を連れていってくれ」


 ハイネスもそう名乗り出た。


 戦いたいだけじゃなく、皆、たまにはシェオールの外に行きたいんだろうな……


 バリスもそんな空気を感じ取ったのか、こんな提案をした。


「一国の王子が二人……将軍、アシュトン殿、ハイネス殿が三人いても敵わない可能性すらある。三人とも同行させてもよろしいのでは」


 フーレが不安そうな顔を見せる。


「でも、三人ともシェオールの軍を任されているんだよ? 三人抜けたらまずくない」

「ワシもおるし、今はボルシオン殿やアリエス殿も軍をまとめている。コッパ殿ら強力なキメラ衆もいるし、何より我らには魔動鎧という最強の兵器がある。将軍たちが数日抜けても問題はない」


 バリスの言葉を聞いたエレヴァンはうんうんと頷いた。


「そうだ。どんな敵──例えリヴァイアサンが何体やってきても大丈夫なように、シェオールの戦士たちを鍛え上げてある。心配いらねえよ」

「エレヴァン殿の仰る通り。それにベーダーと矛を交えるのなら、ある程度我らも敵の力量を目にしておきたい」


 アシュトンもそう答えた。


「それとも、俺たち三人は足手まといっすかね……?」


 ハイネスは心配そうな顔で俺に訊ねてきた。


 エレヴァンもアシュトンもこちらを不安そうに見つめる。


「そ、そんなことはない。むしろ心強いよ。バリスが抜けても問題ないというなら、俺も三人が来てくれたほうが助かる」


 レムリクはまだ何か力を隠しているかもしれない。

 そんなレムリク以上に兄のルダが強くてもなんらおかしくない。


 この三人が来てくれるのは、本当に願ってもないことだ。


 エレヴァンは俺の言葉を聞くなり、よっしゃと声を上げた。


「そうこなくっちゃ!」

「必ずや我ら三名、ご期待に応えましょう」

「道草食ったりしないんで安心してくだせえ!」


 アシュトンもハイネスも元気な声を響かせた。


 バリスが言う。


「決まりですな。まあ本当にシェオールのことはご心配なさらず。地上地下ともに警戒範囲を広めていますし、なんら異常も見られない。今はシェオールの未来のためにも、レムリク王子との接触とベーダーの侵攻の阻止に力を注ぐべきです」


 その言葉に俺は深く頷く。


「そう言ってくれると助かるよ。それと……もしものときのことなんだが」

「それもすでに計画を考えております」

 

 バリスがそう答えると、フーレは目を丸くする。


「すご……今のでヒール様の言いたいこと分かったの?」

「俺も驚きなんだが……分かるの?」


 そう答えるとバリスは笑みを見せて言う。


「もちろんでございますとも。もしシルフィウムが陥落したら、それとラングスの亜人たちに危機が及ぶようなら……そう心配されているのでしょう」


 バリスの返答に俺は思わず言葉を失う。


「その通りだ……」

「バリス様、やっぱりやべえな……」


 エレヴァンも他の者たちも唖然とした様子だった。


 バリスは少し自慢げな顔で言う。


「ワシが一番、ヒール殿のお考えを察せられているようですな。と、自慢はさておき、その心配事の対処ですが、シェオールでの受け入れなども想定しております。食料はシルフィウムの方のおかげで作物の収穫が劇的に増加しそうですし、住まいのための空間は地下にいくらでもある。ですので、その件も心配はご無用です」

「そ、そうか」


 しばらくシェオールを空けることを不安に思っていたのが、今では馬鹿らしく思えてくる。


 バリスをはじめ、シェオールには優秀な者がたくさんいる。


 俺はレムリクに会いにいくことに専念しよう。


「皆、ありがとう。それじゃあ、俺は明日にでもレムリクに会いにいってくる。必ず屋敷や牢獄にいるとは限らないんだがな……」


 亜人たちの中には俺たちに恩返しをしたいと、屋敷周辺を見張ってくれると申し出てくれた者がいた。

 レムリクらしき者が屋敷を出てきたら教えてくれると。

 しかしまだそのような報告はない。


 リエナが口を開く。


「それでもやはり牢獄が一番可能性が高い……」

「こればかりは行ってみないと分からないね。それよりも、やっぱり作戦はあれで行く感じ?」


 フーレの声にバリスが笑う。


「フーレもなかなか分かってきたようじゃな」

「私じゃなくても皆分かるよ」


 その言葉に他の者たちもうんうんと頷く。


 一瞬、俺はフーレの言うあれが分からなかった。


 だが、冷静に考えればすぐに浮かんでくる。


 俺はピッケルを手にして言う。


「これで、いくわけだな」


 地下から屋敷と牢獄を目指す──


 翌日、俺たちはレムリクと会うためにラングスの近くへと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ