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二百三十四話 会いにいくことにしました!

 総督とルダ王子の演説の後。

 俺たちはシアのいる村にいったん帰還した。


 フーレは難しそうな顔で腕を組んで言う。


「まずいことになったね……しかも、あのアーダーが戦の引き金になるなんて」

「あの方はシェオールとベーダーとの衝突を避けるために解放したのです。生かしておくのが間違っていたとは思いません」


 リエナは俺に顔を向けて言う。


「シルフィウムの方々には侵攻のことを伝えるとして……我々はどういたしましょうか」

「俺たちが何もしなければシルフィウムは負ける……軍事協力については慎重にしたかったが、協力関係を結んだ以上、いきなり侵攻されるシルフィウムを助けないという選択肢はない」


 ベーダーによる一方的な侵攻だ。ベーダーを調子づかせれば、他の国々も攻撃される心配もある。


 リエナはフーレと顔を合わせて頷いた。


「私たちも賛成です。ですが、その前にできることがあるかとは」

「ああ。そもそも侵攻を起こさせない……それができれば一番だな」


 フーレが村の人々に目向ける。


「シルフィウムの人たちだけじゃない。戦いになれば、シアたち亜人も傷つく……」


 今日の村は、昨日とは違った騒々しさだった。


 無理もない。戦が始まる。食料や人手を出さなければいけない。


 先ほど、総督の伝令がこの村を訪れ、村長に何かを命じていた。

 供出する食料の量や徴用される人の数を告げられたのかもしれない。


 村の人々は悲嘆の声を漏らす。


「どうするんだ……要求された食料は俺たちが食べる半年分以上だ。とても用意できない」

「雑役だなんて言うが、奴らは俺たちを平気で捨て駒にする……俺たちを攻めた時も、他の国の民を囮にしていた」

「でも、逆らうことなんて……」


 この村だけでなく、ラングスにある亜人の村はどこも今こんな感じだろうな……


「しかし、どうやって止めるか……」


 フーレは腕を組んで考え込んだ後、こう呟く。


「……私たちで殴り込んでみる?」

「アーダーはともかく、あのルダ王子が首を縦に振るとは」


 リエナの言う通り、ルダ王子は一筋縄ではいきそうもない。

 例え手足を縛っても反抗してきそうだ。


 そもそも簡単に捕縛できるような柔な相手でもなさそうだし……


 俺が頭を悩ませていると、リエナが言う。


「私たちだけでなく、他の者たちの知恵も借りた方が良さそうですね」

「そうだな。転移門がシェオールと繋がっていれば、行き来が楽になる。壊れていたらマッパに直してもらうか」

「そうしましょう。ただ、もう一つ……」

「レムリクのことだな」


 助けたいのはもちろんだ。


 しかしレムリクがそれを望むかどうか。

 

 そして解放したとして、レムリクはこの侵攻をどう考えるか。


 レムリクはレオール山の鉱床で、俺たちにある事実を打ち明けた。


 レムリクは人間とも戦っていた。

 当然、戦ってきた相手は人間に限らないだろう。

 温厚な性格でも彼は王子。

 戦が起きた時、自国のために戦うのは普通だ。


 今は囚われの身だが、レムリクもシルフィウムの侵攻に参加する可能性は低くない。


 一方で俺たちの戦いを止めたいという思いに応え、知恵を貸してくれるかもしれない。

 しかしそれは俺たちの勝手な期待に過ぎない……


 考え込んでいると、フーレが訊ねてくる。


「王子を助けるか、迷ってるの?」

「ああ。これも皆と相談してから……」


 俺がそう口にすると、リエナが呟く。


「どうでしょう……結局のところ、レムリク王子がどう考えているか分からない限りは」

「決断のしようがない、か」


 それならとフーレが口を開く。


「……とりあえず、会ってみる?」


 どこで捕まっているかも分からない。

 しかし、フーレの言う通り会って話をするのが一番早い。


 会いにいくということは、結果としてレムリクを解放することになるだろう。

 俺たちが会いにいけば、そういう状況を生み出せる。


 自由になった彼がどう動くかは分からない。

 最終的に、俺たちと敵対する可能性もあるわけだ。


 しかし、それでもレムリクと会ってみたい。

 彼の考えを確かめたいというのもあるし、やはりこの争いを止める手助けをしてほしいのだ。


 俺はリエナとフーレを見て言う。


「……会いにいこう。俺たちに協力してくれるかは別として、レムリクの動向は知りたい」

「よろしい案かと。仮にレムリク王子がルダ王子と共に戦うのなら、こちらも相当な準備が必要になります。王子に真意を訊ねて損はないかと」


 リエナが言うとフーレもうんうんと頷く。


「きっと総督の屋敷とかに捕まっているはずだし、そういう場所なら他の情報も得られるかもしれないしね」

「そうだな。ルダ王子についても何か分かるかもしれない」

「まずは王子に会いにいくってことで決まりだね……でも、本当に屋敷というか、ラングスにいるかすら分からないんだよね……」


 フーレは再び悩むような顔を見せる。


 するとリエナは少し言いづらそうに口をゆっくり開いた。


「……亜人の方の中には、レムリク王子の居場所や牢獄の場所について知っている方がいるかもしれません」


 幸いにも、マッパのおかげで多くの亜人が集まっている。


 しかし俺たちに話したことが、総督たちにバレたら……と不安に思う者もいるはず。


 情報を提供してくれる者がいるだろうか。


 そんな中、後ろから声がかかった。


「あの……」


 振り返ると、そこには心配そうな顔をするシアがいた。

 

「困っている、よね。ラング州を出たいなら、協力するよ。あなたたちにはお世話になったから。戦いが始まれば、ベーダー人以外はいつスパイ扱いされるか分からない」


 俺たちに恩返しをしたい、のだろう。

 大変ありがたい話だ。


 その助けはいらないが……シアなら屋敷や牢獄の中に入ったことがある亜人を知っているかもしれない。


 シアを通じて聞くのではなく、誰かを紹介してもらい情報を集めるか。


「シア……それなら、教えてほしいことがあるんだ。でも危険と思うなら答えなくていい」

「知っていることならなんでも答える。何が知りたいの?」

「総督の屋敷や牢獄に入ったことのあるやつと話がしたいんだ。なるべく秘密で」


 それを聞いたシアは即答する。


「つまり、屋敷や牢獄についての情報が知りたいんだね……何を考えているかは分からないけど任せて。この村でラングスの牢獄や屋敷に連れてかれた人は多い。皆ベーダー人に反感を覚えているし、あんたたちには感謝している。総督たちに漏らしたりしないよ」

「頼めるか?」

「もちろん。私の命の恩人だし、マッパのおじさんも呼んでくれた。皆にはまたこの村に来てほしいしね」


 シアはそう言うと、急ぎ他の村人や亜人のもとへ向かった。


 誰も教えてくれないかもしれない……

 そんな心配は必要なかった。


 亜人たちは、惜しげもなく俺たちに屋敷や牢獄について情報を提供してくれた。

 中にはレムリクらしき者が昨晩、屋敷に入るのを見たという情報も。


 もちろん、正確でない情報の可能性もある。

 しかし、複数の人間の話を照らし合わせても、誰かが嘘を吐いている様子はなかった。

 少なくとも、屋敷の敷地とそこにある牢獄に関しては詳細な地図を作れるほどの正しく詳細な情報を得られたのだ。


 俺たちはその情報をもとに、レムリクに会いにいく計画を練ることにした。

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