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二百二十九話 ぶち抜きました!!

「うわぁああ!」


 地盤が落下した後、俺たちはすぐに瓦礫の下敷きになる……ことはなく、瓦礫と共に広大な空間を落下した。


 村が一つ入るんじゃないかというぐらいの円形の空間。

 岩肌が見えるが、陽の光はない。

 そして底がはるか下に見えるほど深い。


 俺たちはどうやら巨大な竪穴の中を落下しているようだ。


 もしかすると、ここがレムリクの本来の目的地だったのだろうか。


 と冷静に考えているが、このまま落ちれば竪穴の底に打ち付けられてしまう。


 風魔法でゆっくり着地しよう……そう考えた時、レムリクの身に異変が起きていた。


 レムリクの体が光に飲み込まれる。


 その光はゆっくりと膨張し──巨大な蛇……いや、ドラゴンのような形へと変わった。


「あれは……」


 ベーダー人がドラゴンに姿を変えられることは知っていた。


 リンドブルムというドラゴンの姿に。


 しかし、あれは違う。


 また、俺が見てきたエルト大陸の者たちも違う。


 巨大な蛇……形としては、かつて俺たちが戦ったリヴァイアサンと近い姿をしているか。だが鱗はなく、レムリクの背には巨大な翼も見える。


 いずれにせよ、あんなドラゴンは見たことも聞いたこともない。


 そもそも、レムリクは龍化できないとラングスの住人が言っていたが……


 ともかく、訳があってあの姿となったのだろう。

 恐らく、この状況を切り抜けるため。


 ドラゴンとなったレムリクは翼を羽ばたかせ、体をうねらせる。


 そのおかげで、下から風が吹いてくる。

 瓦礫だけは高速で落下する中、俺たちは落ち葉のようにゆっくりと落ちていった。


 やがて巨大な竪穴の底が見えてくる。


 瓦礫以外には使われなくなった人の道具が散乱しているぐらいで、何か物珍しいものはない。


「あそこに着地しよう」


 着陸が楽そうな何も落ちてない場所を見つけた。


 皆、そこに向かってゆっくりと降り立つ。


 フーレははあと深い息を吐く。


「どうなることかと思った……」

「すまない……あまり誰かと一緒に行動することはないから」


 レムリクはいつの間にか人の姿へと戻っていた。


 フーレがそんなレムリクに言う。


「それよりも龍になれないと思ってたよ。なれるんだね」

「ああ、短い間だけね。僕はベーダーの血が薄いから」

「ふーん。 ……まあ、ともかく今後は気を付けてよ。今までよく無事だったなって思っちゃったよ」

「ごめんごめん……と、ここは」


 レムリクは顔を上げた。


 すでにリエナもこの巨大な竪穴に呆気に取られていたようだ。


「入り口にも驚きましたが、ここもすごい……」


 改めて見るとその壮大さが分かる。


 竪穴の壁には無数の横穴とそれらを繋ぐ桟道があった。


 大きさだけなら、シェオールの地下の図書館を思い出すな。


 俺も竪穴をよく観察しながらレムリクに訊ねてみる。


「よくこんな大きな穴を掘ったものだ。ベーダー人が掘ったのか?」

「いや、違う。ベーダー人が見つける前から、この巨大な竪穴は存在していた。もちろん、横穴は征服された地から連れてこられた人々が掘ってきたわけだけど」

「そうか……しかし、入り口に続きこれとは確かに何かありそうだな」

「だろ? レオール鉱床には、ここには及ばないが他にも同じような竪穴がある。しかし」


 レムリクの言葉の後をリエナが口にする。


「穴だけで何も遺物らしきものはないと」

「そういうわけだ」


 何かありそうで何もない。

 確かに不思議な場所だ。


 そんな中、俺はあることに気が付く。


「そう言えば、この底の下は掘ったのか?」

「掘ったといえば掘った。だが」


 レムリクは遠くのほうに目を向ける。


 そこには他より少し浅い窪みがあった。


「あまり掘れてない、な」

「そう。ここより下はとても頑丈な岩で、ミスリルの武器だろうがベーダーの大魔術師の魔法であろうが、わずかしか掘れないんだ」

「なる、ほど」


 どんな石でできているのか、非常に興味を誘われる……


 と、危ない危ない。思わずニヤけてしまった。


 一方のレムリクと言えば、そんな俺を見ても微笑んでいるだけだ。


 だが、その口から出てくる言葉は俺たちを追い詰めるものだった。


「それでも、君たちなら掘れるんじゃないかなって思って」


 フーレが首を傾げる。


「何で私たちなら掘れるって?」

「そうだな……いくらでも根拠はある。君たちは、人間にしてはずいぶん目がいいようだ。この暗闇の中、この竪穴をすべて見渡せているようだった。あの窪みも、人間の目で捉えるには少し遠すぎる」


 レムリクの失態の後か、こちらも気が緩んでしまっていた。


 【洞窟王】の暗視の力なしに、この竪穴は見渡せない。


 しかもレムリクはこう続けた。


「扱う魔力も、人間のものとは思えないな。僕も多くの人間と戦ってきた。君たちのそれは人間の持つ力を凌駕している」

「まるでこの世界の人間全員を見てきたかのような言葉だね。あんたが知らない人間だっているだろうに」

 

 フーレは冷静に答えた。


 が、その目はレムリクの一挙一動に向けられている。


 何をしてくるか分からないと警戒しているのだ。


 一方のレムリクは涼しい顔で言う。


「それはそうだろうね。 ……まあ、僕は君たちが人間かどうかは別に関係ないんだよ」

「関係ない?」


 自分の利益となればそれでいい……そんな言葉が出てくるかとも身構えた。


 しかしレムリクの言葉はそんな心配を一瞬で拭い去った。


「僕の友人となってくれるかどうか、それだけが重要だ」


 レムリクは今までとは一転、真面目な顔をこちらに向ける。


「何か事情があることは分かっている。だから別に僕に全てを明かす必要はない。これ以上一緒にいたくなければ、このまま帰ってもらっても構わない。ただ……何故僕と交流を試みたのか。それが知りたくて」

「レムリク……」


 俺たちがレムリクを警戒していたように、レムリクも俺たちを不安に思っていたのだろう。


 人間と名乗りながら、人間では考えられない力を持つ者が近づいてくるのだ。

 よく考えれば、恐怖以外の何物でもない。


「すまない……ただ、俺たちはベーダーのことをもっと知りたかったんだ。他の者たちは俺たちに心を開いてくれそうもない。だが、お前なら色々なことを教えてくれると思った」

「僕に期待してか。だけど、それを知ってどうするんだい?」

「そう、だな……レムリク。お前はベーダーの神話と闇の軍勢のことを聞かせてくれたな」

「ああ。その日のため、僕は動いている」

「俺たちも、似たような話に怯えている。実際に、その闇の軍勢らしき者たちとも戦ったこともある。とても強力な相手だ」


 だから、と俺は続ける。


「本音で言えばベーダーとも協力できないか、そのためにお前に接近することにした」

「なるほど……意外に、打算的だね」

「すまない。気分を害したなら、すぐにこの地を去る」


 俺が謝ると、レムリクは首を横に振った。


「何を謝ることがある。僕だって君たちを量るようなことをしてきた。むしろ君たちの目的が聞けて嬉しかったよ。そして僕と同じような不安を抱えていたことも知ることができた」


 レムリクがこう続ける。


「互いに助け合えれば、僕たちは友人になれるだろう……ヒール。よければ、もう少し僕にベーダーを案内させてくれないか。君たちの情報収集の一助にもなるかもしれない」

「大歓迎だ。こちらこそ、お願いしたい」

「決まりだな」


 レムリクが手を差し出す。


 俺は頷き、その手を取った。


 強く握手を交わす俺たち。


 レムリクは安心したのか、ふうと深く息を吐いた。


「ああ、安心した……もしかしたら殺されるんじゃないかって本当に怖かったよ」

「そんなに俺たちが怖かったか?」

「うん……特に、さっき君が足元を見ていた時……ニヤリとした顔が本当に怖かった。ついに見つけたぞ、みたいな」

「お、俺そんなやばい顔をしてたか?」


 こくりと頷くレムリクと、思わず笑ってしまうリエナとフーレ。


「ふふ。ヒール様は鉱石のことになると、人が変わってしまいますからね」

「王子様は知らないかもしれないけど、いつもヒール様はああなんだよ」


 ……採掘の時どんな顔してるか、今度シエルあたりに写してもらおうか。


「と、ともかく! ……まずは、せっかく来たここを探らせてもらうとしよう!」

「この底を掘るわけだね」

「そうだ。これでな」


 そう言って俺は背嚢のピッケルを手に取る。


 すると、レムリクは小さく笑った。


「はは。そんなんじゃ何年あっても掘れないよ。さっき君たちが見せていた魔法でも殆ど掘れないだろうし」

「まあまあ。うちの大将は、魔法よりこっちが得意なんだから」


 フーレの声にレムリクは首を傾げて言う。


「……本当にそれで掘るつもりかい?」


 信じられないと言った顔のレムリク。

 

 だが、俺は【洞窟王】の紋章を持っている。


 地下で俺に掘れないものなど、多分ない。


 【洞窟王】が示す地面の光へ、ピッケルを勢いよく底に打ち付けた。


 崩れた岩は一瞬で俺のインベントリへ回収され、馬車がすっぽり埋まるような穴が出来上がる。


 レムリクは見たこともないような、唖然とした顔をするのだった。

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