二百二十八話 抜けました!
坑道の集積所らしき場所に出た俺たち。
先程から追尾してきた魔力の反応、そして集積所に待ち構えていた反応が一斉にこちらへやってくる。
先程までの静寂が嘘のように、カサカサという音が四方八方から木霊した。
ようやく彼らの姿を見ることができた。
巨大なムカデのような生き物。
頭の巨大なハサミは人を一度で数人挟めそうな大きさだった。
「皆、まずはこっちに!」
剣を抜くレムリクは広間の中央に俺たちを促した。
「いや、レムリク。俺たちも自分の身は自分で守れる」
俺はそう言って周囲に魔力の壁を展開した。
「……すまない!」
レムリクはそう言うと、ムカデの集団に突っ込んでいった。
フーレが不満そうに呟く。
「ちょ、私たちを守ってくれるんじゃなかったの!?」
「それだけ、私たちを信頼している、ということでしょう」
リエナの言う通り、と信じたいところだ。
しかし、レムリクが今一度俺たちの実力を探ろうとしている可能性もある。
坑道が崩れても怖いし、やはり強力な魔法は使わないようにしよう。
レムリクがムカデと交戦を始めたのを見て、俺たちも魔法を放つ。
火魔法を中心に派手でない魔法。
リエナとフーレも魔力を抑えて応戦した。
見た目は凶悪だが、シェオールに来る魔物と比べれば難なく倒せる。
レムリクのほうも全く足を止めないでムカデたちを倒していった。
だが、数が多すぎる……
このままでは包囲され圧殺されかねない。
こちらも魔法を矢継ぎ早に放ち対応する。
しかしそれでも対処が追い付かなくなってきた。
これ以上の魔法の早撃ちはあまりにも不自然。
かといってレムリクのほうも余裕がない。
いや、わざと余力のないように見せて、俺たちの実力を量っているのかもしれないが……
どうしようか迷っていると、フーレが突如光る石を取り出した。
特殊な石ではない。
シェオールで採れた大ぶりのダイヤモンドだ。
「ああー仕方ない! もうこれ使っちゃお!」
フーレはそう言ってダイヤモンドに魔法で光を纏わせた。
これはつまり……何かすごい品を使うことで、強力な魔法を使えるようになったとレムリクに思わせるわけか。
さすがフーレだ。
レムリクが納得するかは分からないが、どのみちこのままではいずれ強力な魔法を使うしかなくなる。
ここで一挙に倒させてもらおう。
俺は今までの数倍の魔力を込め、火魔法を放った。
それでも集められる魔力の半分も使っていないが。
しかし、ここの敵には十分だった。
俺の火魔法は集積所の奥まで広がり、数十体のムカデを灰にした。
同様にフーレもリエナも先ほどよりも強力な魔法を使い、ムカデを大量に倒した。
起死回生の大魔法に相応しい威力……だと思う。
ともかく、ムカデはすっかり少なくなってしまった。
残った個体も敵わないと見たのか、四方へ逃げていく。
レムリクも襲ってきた最後の一体を剣で倒し終えたようだ。
「ふう……」
汗をぬぐうレムリク。
手を抜いていたようには見えなかったが……
ともかく俺たちはレムリクに駆け寄る。
「レムリク! 大丈夫か!?」
「ああ。僕は大丈夫。君たちは?」
「皆、ケガもない」
「それはよかった……いや、しかし本当にすまない」
謝るレムリクにフーレは煤けたダイヤモンドを見ながら残念そうに言う。
「あー。これ高かったのに、こんな場所で使っちゃうなんて。王子様。これは高くつくよ」
「フーレ、よしなさい。こういうときの保険で買っておいたものなんですから」
リエナもそんなことを言って、先程のダイヤモンドがすごい代物だったかのように演出する。
それを聞いたレムリクは──怪しむこともなく、まずそうな顔を見せた。
「えっと……いくらかな? 僕、そんなに金はなくて……」
請求されることを本気で悩んでしまったようだ……
ただのダイヤモンド……いや、買うと結構な額になるだろうが、別にお金を取るつもりはない。
俺はレムリクに答える。
「こういう事態も想定済みだ……気にしないでくれ」
「恩に着るよ」
深く頭を下げるレムリク。
やはり演技しているようには見えないな。
ともかく俺は話題を変える。
「それより、ここは目的の場所じゃないんだな」
「ああ。一つ右の横穴と間違えたみたいだ。少し下りると、奥底も見えない巨大な竪穴が見える場所なんだが……うん?」
レムリクは突然足元に視線を落とす。
「うん? どうしたレムリク?」
「いや……いや、これはもしかすると」
顔を青ざめさせるレムリクにフーレが訊ねる。
「もしかすると?」
「以前にもあったんだ……あまり大量の魔物が集まると」
俺もシェオールで何度も採掘をしてきた男だ。
レムリクの言わんとしていることが分かった。
「……崩落する」
「すまない……」
レムリクがそう答えた瞬間、すぐに地面に大きな亀裂が走った。
フーレがたまらず言う。
「すまないで済むわけないでしょ!!」
逃げる間もなく、俺たちは地面と共に地中に落ちていくのだった。