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二百二十六話 王子との旅でした!

 シアを村に送り届けた翌日。


 俺はリエナとフーレと共に、ベーダーの王子レムリクと会うためラングスへ向かった。


 城壁に囲まれたラングスの街から少し離れた場所。

 枯れ木の下に立っている長い金髪の美男子がレムリクだ。


 レムリクは近づく俺たちに気が付いたようだ。

 こちらに手を振って迎えてくれる。


「やあ。もしかしたら来てくれないかと心配だったよ」


 そう言ってレムリクは少し嬉しそうな顔を見せる。


 今の俺の顔を見て、どこか不安のようなものを感じ取られたのかもしれない。


 昨日、シアの村で見た亜人たちは皆、ベーダー人に酷使され困窮していた。


 俺たちがこれから行く場所で何かを見つけたとして、それがレムリクではなくベーダー人に渡ったら……という不安はやはり残っている。


 そんな不安からか、俺はレムリクにあることを確認した。


「一人、だよな?」

「いつもと変わらず僕一人さ。尾行やらは心配いらない。僕は行方を眩ますことに関しては王族一と名高いからね」


 自嘲気味に答えるレムリク。


 周囲の魔力の反応を探るが、誰もいない。


 刺客やらの類は送られてないようだ。


「そうか。それなら案内を頼む。それでどこを案内してくれるんだ?」

「あそこだ。あの山。レオール山」


 レムリクは遠方へと顔を向けた。


 方角はラングスの南西側。広大な平原の先に聳える高い山が見える。


 俺たちが通ってきた転移門があった山──シルフィウムの森の近くの山と同じぐらいの標高だ。


 山の中腹はごつごつとした岩肌。頂上付近は雪を冠している。


 高く雄大だが、別にどこにでもありそうな山。それがレオール山だった。


 フーレがそのレオール山を見て驚く。


「あ、あんな高い山!?」

「登るとしたら、結構な時間がかかりそうですね……」


 リエナの言葉にレムリクが首を横に振る。


「いやいや、上がらないよ。あの山の麓。そこに鉱床への入り口がある」

「鉱床? 今も使われているのか?」

「いや、放棄されて久しい」


 レムリクの返答にフーレがげんなりした顔をする。


「絶対なんかいそう……」

「うん。ポイズンバットやホールワームとか魔物の巣窟になっているね」

「うげえ。どんな魔物かは知らないけど面倒くさそう」

「大丈夫。僕は何度も入っているから、比較的敵の少ない場所を知っている。それに、僕一人でも苦戦する相手じゃない」


 その言葉に疑いはない。


 ラングスでレムリクが多数のベーダー人に襲われた時、彼はいとも容易く敵を無力化した。


 加えて、彼の剣と鎧はミスリル。


 俺たちも魔法を使えるから戦闘面は問題ないはずだ。


 レムリクも俺たちを安心させるように自信満々の顔で言う。


「僕が必ず守るから大丈夫。君たちは大切な客人だからね」

「その言葉信じるよ、王子」


 フーレの言葉にレムリクはああと力強く頷いた。


 そうして俺たちは、レオール山へ向かうことにした。


 ラングスから南西に伸びる石畳の街道を進んでいく。


 道中、行き交う亜人たちの顔は例外なく暗い。


 こちらに見向きもせず、重い荷を背負ってラングスを目指している。


 とても笑い声を出せるような雰囲気ではないな。


 それ以上に、レムリクとは出会ってばかり。


 しかもこちらは身分を隠している。

 話しかけるのに及び腰になってしまうな……


 レムリクが少し先を進む何とも言えない空気の中、俺は差し障りのない質問をした。


「レオール山か。とても高い山だな……たしかに何かしら希少な鉱石がありそうだが、何が掘れたんだ?」

「主に鉄、銅、錫、石炭……金銀、宝石、という感じだね」

「そうか」

「うん? あまり驚きもないようだね。金銀や宝石は希少ではないのかい?」


 レムリクは俺の反応が淡白だったことを疑問に思ったようだ。


 金銀宝石が掘れるとなれば、人間の商人はまず喜ぶはず……


 シェオールで見慣れていたせいか、感覚が鈍っていた。


 そんなことはないと慌てて答えようとした。


 しかしリエナが落ち着いた様子で答える。


「商売柄、よく見ていますからね」

「そうそう。宝石は宝石でも、ダイヤモンドとかじゃないと話にならないし。金銀も割とどこでも掘れるから、量が重要なんだよねー。そこ、本当に行く価値ある?」


 フーレもちょっと嫌味な商人っぽく答えてくれた。


「はは、もしかしたら肩透かしになってしまうかも。そっか。珍しい鉱石を求めているわけだしね。鉱石は見慣れているか」


 レムリクはそう答えると、今度は俺たちに訊ねてきた。


「そんなに詳しいなら……偉大なる銀もどこかで見たことがあるかい? 僕の剣が偉大なる銀でできていることは知っていたんだろう?」

「え、ああ」


 昨日レムリクがベーダーの神話と偉大なる銀について教えてくれた。


 俺たちはそれがミスリルと呼ばれる金属であることを知っている。


 しかし、どうして偉大なる銀だと分かったのか……レムリクは疑問に思ったはずだ。


 俺は返答に詰まるがリエナがもっともらしいことを答えてくれる。


「王子の武具は見た目からして、普通の銀や白銀とは異なる輝きを放っていました。そのため、もしやと」

「なるほど。さすがに目がいいね。まあ、ベーダーでも王族か公爵家以上の者なら、偉大なる銀の武具の持ち主は珍しくもないしね」


 レムリクは自分のミスリルの剣に視線を落として言った。


「さらに聞きたいんだけど、ベーダーの外で偉大なる銀の武具を見たことがあるかい?」


 そう訊ねるレムリク。


 俺たちがすでにミスリルを何度も目にしていることを、もう見透かしているのだろう。


 俺は昨日、偉大なる銀と聞いてあまりにも早くレムリクの武具に目を向けてしまった。


 知っていなければ、あんなに早く気が付けない。


 やっぱり俺は芝居が下手だな……ボロが出てしまっている。


 とはいえ起きたことはもう仕方ない。


 正直に答えるかどうか……


 困っているとフーレが助け舟を出してくれた。


「そんな貴重なもの、もし持っていたとしても持っていたなんて言うわけないでしょ?」

「はは。ベーダーでは、自分の領地と交換してまでこの武具を手に入れようとする者もいるからね。他の国でもそう価値は変わらないはずだ」

「そっ。誰が聞いているか分からないもん。聞いた奴が奪おうとする可能性もあるでしょ」


 レムリクはうんうんと頷く。


「誰にも秘密はあるものだからね。いや、変なことを聞いてすまない」


 笑って答えるレムリク。


 秘密、か。


 レムリクはやはり突然現れた俺たちに違和感を覚えているのだろう。


 だが、こうして交流を試みてくれている。


 シェオールのことを含め今は何も明かせないが、俺たちの思いが伝わればありがたい。


 そんなことを思って進んでいると、俺は前方から多くの魔力の反応がやってくることに気が付く。


 人らしき魔力がいくつか。そしてそれを追う多脚を持つ何かが複数。


 追われているのは亜人か。そして追っているのは、前、シアと会った時にも戦ったサソリの魔物だろう。


 リエナもフーレも気が付いているのか、神妙な顔をしている。


 すぐにでも助けに行きたい。


 しかし、歩いていては救助が間に合わないかもしれない。


 不自然でもいいから走るべきか──


「レムリク。悪いが少し……」


 そう声をかけるが、すでにレムリクの手は腰に提げていた剣に伸びていた。


 彼も気づいていたようだ。


「これは──すまない! 先を行く」


 一気に駆け出すレムリク。


 俺たちもそれを追う。


 やがて、街道の先にこちらに走ってくる亜人とそれを追うサソリの魔物の集団が見えてくる。


 レムリクは──速いな。


 すでに俺たちのはるか先を走っている。


 だがそんな中、追われる亜人のうち一人の男の子が転んでしまう。


 そこにサソリの魔物が腕のハサミを振り下ろそうとした。


 レムリクはさらに加速するが、追い付くかは分からない。


 ここは俺たちの出番だ。


 俺は襲い掛かるサソリに手を向け火魔法を放つ。


 見た目は変哲もない火球。しかし高速で、結構な魔力を込めてある。


 俺の火魔法は見事サソリの腹を穿つ。


 サソリの魔物はそのままばたりと倒れた。


「見事だ!」


 レムリクはそう言うと、全く臆することもなく十体以上いるサソリの魔物の群れに突っ込んだ。


 剣でサソリの魔物を着実に倒していく中、俺たちは魔法でサソリが放つ毒液のようなものから亜人を守る。


 リエナが魔法を展開しながら言う。


「攻撃魔法は……必要ないようですね」

「うん。やっぱ強いね」


 フーレがそう言い終わるかどうかという時、すべてのサソリが動かなくなった。


 最初の一体以外、レムリクがミスリルの剣で倒したのだ。


 サソリの魔物と言ったが、近づくとどれも人間以上の大きさの個体だった。


 分厚い殻と殻の間をレムリクは剣で刺突し倒したようだ。


「よし……ケガはない?」


 レムリクはそう言って転んだ男の子に手を伸ばした。


「え、あ」


 男の子はレムリクの剣技を前に呆然としてしまったようだ。


 しかし父親らしき男がすぐに男の子の手を引き立たせる。


 そして無言でレムリクに頭を下げた。


「……おい、行くぞ」

「う、うん、お父さん」


 男の子はレムリクのことを気にしながらも、父親に連れられ他の亜人たちとともにその場を去っていく。


 父親の礼はあまりに素っ気ない。

 また、他の者たちもレムリクへの感謝は口にしなかった。


 レムリクがベーダー人でも浮いている存在であることを皆知っているのかもしれない。


 昨日、シアの村の村人もレムリクのことを不安視している者がいた。

 関われば他のベーダー人から何をされるか分からない、と。


 レムリクもそれを百も承知なのだろう。

 あるいはいつもこんな感じなのかもしれない。


 ともかく、レムリクは何ら気にする様子もなく、男の子に手を振ってから明るい顔を俺たちに向ける。


「どうかな? これで安心してくれただろう? レオール山の鉱床に入っても僕が皆を守れる」


 自慢げに言うレムリクにフーレが軽い調子で答える。


「そんなこと言っちゃって。最初の一体は、うちのヒール様がいなかったらやばかったよ」

「ヒール、様ね」

「あっ」


 フーレはやらかしたという顔をした。


 様と俺を呼べば、俺がフーレより上位の者と察せられてしまう。


 とはいえ、たいした失態ではない。


 レムリクを呼び止め提案したのは俺。

 すでに三人の中で中心的な人物であることは明白だ。


「フーレ。別に隠すこともない。レムリクも俺が三人の中のリーダーであることは分かっているはずだ」

「そうそう。ヒールもだけど、変に隠す必要ないからね。僕、悪い王子じゃないから」


 レムリクの声にフーレがいたずらっぽく笑う。


「悪人は皆そう言うと思うけど?」

「心外だな! 僕は全身善意の塊だよ」


 わざとらしく頬を膨らませて言うレムリク。


 なんだか隠し事をしているのが馬鹿馬鹿しくなってくるほど、親しみやすいやつだ。


 レムリクは俺を見てニヤリと笑う。


「そんなことより、僕はヒールのほうが悪人っぽく見えるよ。こんな綺麗な女性を二人も連れてるなんて」

「もう、レムリク様。綺麗だなんて」

「ほほう。なかなかお目が高いねー、王子」


 そう答えるリエナとフーレはどことなく嬉しそうな顔をしている。


 それから俺たちは旅を再開した。


 道中、レムリクとは会話が絶えなかった。

 しょうもない話ばかり……俺とリエナたちの関係についての詮索や、ベーダーの宮廷の色沙汰。


 夕刻。気が付けば俺たちはレオール山を見上げていた。

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