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二百十八話 変わらない夜でした!

本日(11月11日)お昼ごろ、出店宇生先生による本作コミカライズ最新話が更新予定です!

「シルフィウムの森とは大違いだな」


 俺は左右に聳え立つ断崖絶壁を見上げながら言った。ごつごつとした岩肌には、緑が全く生えてない。


 俺たちは今、ファテシア峡谷を進んでいる。


 峡谷ではあるが道はそこまで狭くはないから、比較的歩きやすい。馬車を二台横並びで走らせる程の幅はある。


 ベーダーの者たちに見つからないよう魔法で自分たちの魔力を隠す必要があるが、順調に進んでいた。


 リエナも峡谷を見渡しながら呟く。


「シルフィウムからベーダー領に至る道はここだけと聞きました。たしかに守りやすそうですね」

「でも、ベーダー人って飛べるんだよね。あまり意味がない気がするけど」


 フーレの言う通りベーダー人にとっては、たいした障害にならないかもしれない。


「ずっとは飛べないのかもしれないな。もしずっと空を飛べるなら、シェオールに来た連中みたいに、船を使う必要もないだろうし」

「確かに……だとすれば、この峡谷が相当長いって可能性もあるわけだよね……」


 げんなりとした顔のフーレにリエナが言う。


「きついようでしたら、フーレは帰っても」

「ヒール様と二人だけなんてずる──じゃなくて、何かあった時二人だけじゃ困るから嫌です」


 フーレはきっぱりと答えた。


「まあ、誰か調子が悪くなったら、無理せず皆で帰……うん」


 俺は再び大地が揺れるのを感じた。


「また来た!」


 フーレは待ってましたとばかりに、地面へ手を向ける。


 一方のリエナは神妙な顔をして、手を崖へ向けた。


「違う──そこです!」


 リエナの手から火球が放たれる。


 と同時に、巨大なミミズ──ヘルワームが俺たちの頭上の崖を突き破り飛び出してきた。


 ヘルワームはリエナの火球を浴び炎上した。どしんと音を立て、地面を転がっていく。


「フーレ。本当に無理をしないで大丈夫ですよ」


 得意げな顔で言うリエナに、フーレはぐぬぬと悔しそうだ。


 しかし、揺れはまだ収まっていない。周囲からは大量の魔力の反応が迫っている。


「二人とも、まだくるぞ!!」


 俺はそう言って、一番近い魔力の反応──岸壁へと雷魔法を放った。


 岩壁から出てきたヘルワームはすぐにびりっと音を上げて、黒焦げになる。


 休む暇はない。

 ヘルワームは次々と崖と地面を突き破り、俺たちに襲い掛かってくる


 俺たちは火や雷の魔法で迎撃していった。


 フーレは焦るような顔で言う。


「なんか多くないっ!?」

「キリがないな……俺が後ろの敵を倒す。リエナは左右の崖、フーレは前の敵を倒しながら進んでくれ」

「承知しました!」

「了解!」


 そうして俺たちはヘルワームと戦いながら峡谷を進んでいった。


 だがやがて、ヘルワームの攻撃が止む。


 リエナが首を傾げた。


「全く襲ってこなくなりましたね。諦めたのでしょうか?」

「全部倒したわけじゃないよね」


 フーレも不思議そうに後方を確認するが、ヘルワームたちはまだ大量にいる。ただ地中や崖へと戻っていくだけだ。


「もしかしたら……」


 俺は岩壁に手を添えた。


 心なしか、先程までの崖と岩の色が変わっている気がする。

 崖の小さな窪みに入り、壁に魔法の光をあててみるとキラキラと反射した。


「光沢がありますね」

「もしかしたら、ここらへんの崖や地面が堅くてヘルワームは掘れないのかも」


 気が付けば、俺の手は背負っていたピッケルに伸びていた。


「って、いかんいかん……こんなことしているは暇ない。ごめん」

「何を仰います! 採掘はヒール様の生きがい! ここで掘らなければヒール様ではありません!」


 リエナの声に、俺は思わずうるっときてしまう。


「リエナ……」


 フーレは俺とリエナを白い目で見ながら言う。


「大げさな……まあ、掘るのはいいんじゃないの? 貴重な石の可能性だってあるわけだし」


 リエナがこくこくと頷く。


「それにヘルワームがやってこれないなら、野営するのにも良い場所になるでしょう。もう少しで暗くなってくるでしょうから」

 

 たしかに陽がだいぶ傾いている。そろそろ野営の準備をする必要がありそうだ。


「それなら、遠慮なく掘らせてもらうか」


 断崖絶壁を掘る……崖が崩れる可能性もあり、普通であれば危険行為だ。


 しかし俺の洞窟王は、安全に掘れる場所を示してくれる。うっすらと白い光が掘ってよい目印だ。


 ピッケルを取り出し、俺は早速くぼみを掘り進めてみた。


 甲高い音が響いた後、がらがらと岩壁が崩れていく。


 削った岩は、全て俺のインベントリに回収されていった。


「回収できたのは岩と……これは」


 インベントリに浮かんでいた文字は、ミスリルだった。


「天然のミスリル……これだけ掘ってもインゴット一つにもならない量だけど」

「もともと相当貴重なものだったのでしょうね」


 リエナの言う通り、シェオールの人々は時間をかけて、あれだけの設備やゴーレムを作るミスリルを集めたのだろう。


「あればあるだけ嬉しいけど、今は他にやることがある。眠れるような広さの部屋を掘ったら、休むとしよう」


 それから俺は、寝泊まりできる様に空間を掘っていった。


 四角く掘り抜いた場所を、鉄や木製の柱と梁で補強していく。そこに各々背負ってきた鞄にあった寝袋などを敷いていけば、野営の準備は終わりだ。 


 その後は三人で焚火を囲み、食事をすることにした。焚火には、串打ちされた焼き魚と丸いパンのようなものが見える。


「パンなんてあったのか?」

「いえ、これはパンの種といってシルフィウムの方がくださったものです。焼くとまるでパンになる果物のようで」


 リエナが答えると、フーレはさっそくパンの種を串ごと取り出す。


「どれどれ……本当だ! 普通のパンより甘くておいしいかも!!」


 フーレは至福の顔でパンを頬張る。


「焼き魚もやっぱり美味い……シェオールから遠く離れた大陸の中央のはずなのに、なんだか不思議な気分だな」


 これからは更に遠くへ向かう……気を引き締めないと。


 そんなことを考えていると、リエナが隣に来て言う。


「ヒール様。どこへ行っても、シェオールと私たちは一つです」

「私たちはヒール様の監視役でもあるからね。絶対にシェオール以外に腰を落ち着かせないようにって」


 フーレも冗談っぽくそんなことを言った。


「心配しなくてもシェオールは俺の家だ。どこにも行かないよ」

「ヒール様……」

「約束だよ?」


 リエナとフーレはそう言って、俺に体を寄せてくる。二人とも切なそうな顔だ。


 二人とも、俺が一人だと危ないからというよりは、どこかにいかないか心配で付いてきているのかも……


 こういうときどうしていいか分からない。手を握るとか……?


 そんなことを考えていると、外からとことこと音が響いてくる。


 フーレとリエナもそれに気が付いたようで、入り口のほうへ目を向ける。


「まさか……ヘルワーム?」

「近づく魔力は感じられないが……ちょっと見てみよう」


 そう言って俺は立ち上がり、横穴の入り口へと向かう。


 するとそこには……


「なんだ……マッパか」


 やはりというか、マッパがやってきていた。

 しかしマッパだけでなく、十五号などのゴーレムたちもいる。皆、人間の姿に変身できる者たちだ。


 フーレが口をすぼめて言う。


「せっかくいい雰囲気だったのに……」


 十五号が代表して答える。


「さすがにマッパ様お一人というわけにもいきませんでしたので……申し訳ございません」

「いや、気にするな。それにマッパもここなら問題ないと思ってきたんだろう?」


 こくりと頷くマッパ。その背には、大工道具やピッケルが入ったカバンが背負われている。手には、道中倒したのだろう、息絶えたヘルワームが掴まれていた。


 十五号がこう報告する。


「物見の大樹から、ヒール様たちがこの場所に入るのを目撃しましたので。ここも我らの拠点にしてはと、エレヴァン様が仰いまして。魔力を隠す魔法を使いながら、我らも」

「ちょっとまった……お父さんもシルフィウムに来たの?」


 フーレの声に、十五号ははいと頷く。


「本当に過保護なんだから……」

「まあまあ。せっかくミスリル鉱床も見つかったんだし、それはそれで助かる」


 そうだと言わんばかりにマッパは頷き、焚火の前で鞄を置き、腰を落とす。そしてヘルワームの肉を串刺しにして、焚火で焼き始めた。


「ちょっ、それ食うつもり?」


 しかしマッパは涎を垂らし、焼いたヘルワームの肉を食べ始めた。


 俺たちは恐る恐るそれを見ていたが、マッパは至福の顔で頬に指を当てていた。とても気に入ったらしい。フーレにも食べろとしきりに勧めている。


 フーレは嫌だと逃げて……結局は俺が食べることになってしまった。海老みたいな味と食感で、美味しかったのでよかったが。


 洞窟に、見知った者たち……シェオールを離れた俺たちだったが、その日は結果としてシェオールとあまり変わらない夜を過ごした。

本日(11月11日)お昼ごろ、出店宇生先生による本作コミカライズ最新話が更新予定です!

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