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二百十七話 遠征に向かいました!!

 ベーダー調査が決まり、俺たちはその準備を整えていた。


「だーめ。マッパはお留守番」


 鍛冶場の近くでフーレの声が響いた。


 その前には、地べたでバタバタと駄々をこねるマッパが。


 エレヴァンは鞄の中身を確認しながら呟く。


「まあ、ちゃんと服を着て、もじゃもじゃの髪と髭をしっかり剃るんならいいんじゃねえの? というか、マッパの顔って……よし、剃ってみるか」


 それを聞いたマッパは立ち上がり、髭を抱えて守るような仕草をして首を横に振る。髭は剃りたくないようだ。


 俺もマッパの顔は非常に気になるが……今は準備に専念する。


「普通に着るのは久々だな……」


 俺は姿見となってくれているシエルの前に立って言った。


 今まで着ていたのは、王国時代から着ていたオレンジ色のコート。その袖を捲って、動きやすいようにして着ていた。


 なので袖をしっかり伸ばせば、普通の王族や貴族のような格好に見える。


 しかしリエナが同じコートを持ってきて言う。


「ヒール様、こちらを。こちらはタランさんたちの蜘蛛糸の生地から仕立てたものです。このほうが着心地がよろしいかと」

「お、ありがとう、リエナ。本当だ。いつものより軽い」


 リエナから渡されたコートは非常に軽かった。ケイブスパイダーの蜘蛛糸は丈夫だし、防護の面でも信頼できそうだ。


「リエナも……違う服で行くんだな」


 いつもの白いワンピースやシャツではなく、今日のリエナは黒色の鎧を身に付けている。


「こちらは琉金の鎧です。いざとなれば、こうして……」


 リエナがそう言うと、黒色の鎧がいつもの白い服へと変わった。


「ベーダーの方は武装した者を歓迎しないかもしれませんからね。かといって、軽装だと道中、賊や魔物に狙われやすくなりますから、いかつい見た目にもできるようにしておきました。ヒール様の服にも琉金の繊維が練り込んでありまして」

「おお、形状を変えられるわけだな……なるほど」


 俺は服を鎧の形に変えて言った。


 たしかに見た目は重要だ。


 リエナたちベルダン族は、バーレオン大陸中を流浪していた。旅に関しての知見は豊富なのだろう。心強い。


「ま、どの道私たちは魔法で戦うことが多くなるだろうからね。剣とか鎧は正直最後の手段」


 フーレのほうは動きやすそうな白いシャツを着て、スカート風の革鎧を履いていた。


 エレヴァンはそんなフーレを見て、心配そうな目を向ける。


「けっ。どうにも頼りねえが……まあ見た目は好きにすりゃいい。いいか、フーレ。うちの大将には絶対、指一本触れさせるんじゃねえぞ」

「分かってるって、お父さん。そんなに心配しなくても大丈夫だから」


 フーレがそう言うが、エレヴァンは先ほどからずっと鞄の中身を確認している……保存食に着替えから、薬のようなものまで。あれはフーレの鞄の中身だ。


 一見必要なさそうなものも入っており、先程からフーレがエレヴァンにいらないと怒ることが多々あった。


 エレヴァンもやっぱりフーレが心配なんだな……


 ベーダーの調査には、俺とリエナ、フーレが向かう。連絡のために古代のシェオール人や、琉金製ゴーレムがシルフィオンで待機してくれるが、基本的には俺たち三人だけだ。


 それだけにシェオールの皆も心配してくれていた。色々な亜人が、俺たちのために作った物を持ち寄ってくる。


 俺は皆を安心させるように呟く。


「皆、大丈夫だ。絶対に無茶な真似はしない」


 エレヴァンはこくりと頷く。


「本当に……リヴァイアサン戦の時みたいのは勘弁してくだせえよ。あん時は本当に冷や冷やしましたから」

「あんな事態にはならないよう、私がヒール様とフーレをお守りします」


 リエナが言うとフーレが頬を膨らませる。


「私が二人を守るから。姫は私のことは気にしないで」


 心強い限りだ。もちろん、何かあれば俺も二人を命に代えても守るが。


 エレヴァンはマッパと顔を合わせると、笑って言う。


「こりゃ、大将は任せても大丈夫そうだ」


 マッパもこくこくと頷くのだった。


「俺たちも、エレヴァンやバリス、皆がいるから安心して遠征にいける。悪いが皆、任せたぞ」


 俺の言葉に、エレヴァンや他の者たちは、おうと力強く返してくれるのだった。


 そうして俺たちは、ベーダーへの調査へ向かうことにした。


 まずはシルフィオンへと向かい、案内人を務めてくれるベルーナと合流する。


 それからシルフィオンの森を進むが、深い森にもかかわらず快適に進めた。どうやらベルーナたちが俺たちが進みやすいよう、森の木々を動かしてくれたようだ。まっすぐ一本道だし、明るく視界も良い。


 俺の隣を歩くリエナは、周囲を見て感心するように言う。


「こんなに歩きやすい森は初めて……ご協力ありがとうございます、ベルーナさん」


 先頭を進むベルーナは振り返って言う。


「いえいえ。我らが受けた恩を考えれば些細なことです! それに今の私たちにはベーダーに関する情報が少ない。私たちとしてもベーダーの情報が知りたいですし、協力は当然のこと」

「ああ。帰ってきたら、テオドシアたちにもベーダーの現状を伝えるつもりだ」


 俺がそう答えると、ベルーナは首を縦に振る。


「ありがとうございます。ですが、道中ご注意を。特にこの森を抜けた先のファテシア峡谷には木が生えない岩盤が広がっており、隠れる場所がありません。その上、荒地を好む獰猛な魔物が多く暮らしています。この森にも度々侵入してくるのですが、ベーダー人より厄介な相手も多いですから」

「そうか……気を付けるよ」


 思えば王国にいた頃は、危険な地帯を旅したことがない。慎重に進まなければ。



 そうこうしていると、やがて森の向こうに広がるごつごつとした岩盤が見えてくる。遠くには、高い崖に囲まれた峡谷が聳え立っていた。あれがファテシア峡谷か。


 ベルーナは、岩盤と森の境界で足を止めて言う。


「ここがファテシア峡谷と我らシルフィオンとの境界です……本当に、私はここまでで大丈夫ですか?」

「ベーダー領まで一本道なんだろう? さすがに迷わないよ」


 そう答えるが、ベルーナは心配そうな顔だ。それだけ危険な場所なのだろう。


 シルフィオンで待機してくれるシエルとタランも、どことなく不安そうだ。


「皆、本当に大丈夫だ。何かあれば──うん?」


 心配させまいと答えていると、地下のほうから急速に接近する魔力の反応に気が付く。


「この揺れは──ヘルワームです!!」


 ベルーナが警告を発した瞬間、地面が大きく揺れた。すぐに岩盤を突き破り、何かが飛び出してくる。


「させません!」

「させるか!」


 リエナとフーレの声が響くと同時に、閃光が走る。


 気が付けば、口にびっしりと歯を生やした巨大なミミズが黒焦げになって地面を転がっていた。


 俺が魔法を放つより早く、リエナとフーレが雷魔法で倒したのだ。


「へ、ヘルワームを一撃で……私たちが悪戦苦闘して、やっと倒せるというのに」


 唖然とするベルーナだが、フーレが得意げな顔で言う。


「ふふーん。ゴブリンの反応の速さを舐めちゃだめだよ」

「ええ。これで皆様も安心してくださるでしょう」


 リエナも自信に溢れた顔で言うと、ベルーナがははっと笑う。


「ふふ、本当に心配は無用ですね。皆様なら」


 シエルとタランもこくこくと体を縦に振る。


 俺としても驚いた。二人がこんなに魔法を素早く撃てるようになっていたとは。


 洞窟ばっか掘っている俺と違って、二人は魔法を熱心に学んでいるからな……俺も頑張らないと。


 ベルーナは真面目な顔でこう続けた。


「では、私たちはこの付近にある物見の大樹で待機しております。シェオールの方々もそこで過ごされます。峡谷全体を見渡せるので、何かあれば狼煙をあげてください」

「分かった。それじゃあ皆、行ってくるよ」


 俺はベルーナたちに別れを告げ、リエナとフーレと共にファテシア峡谷を進んでいくのだった。

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