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二百十六話 自分で行くことに決めました!

「同盟。まあ、いいんじゃないんですかね。俺としては正直、前やってきたベーダーのやつらが気に入らねえし」

「お父さん、私情で決めちゃダメでしょ……」


 エレヴァンをたしなめるようにフーレは言った。


 シェオールの宮殿。

 その会議室では、島の主だった者たちが集まり円卓を囲んでいた。シルフィオンとの同盟を協議するためだ。


 エレヴァンたちの話を聞いていたハイネスが口を開く。


「いや、エレヴァンの旦那が言うことにも一理あると思うぜ。シェオールに来たやつらは、いきなり服従を迫ってきた」


 アシュトンも頷いて発言する。


「拡大主義というのだろうか。恐らくはシェオール以外にもそのような態度で接しているのだろう。我らシェオールとは到底相容れない者たちだ」


 バリスはその声に頷くが、こうも付け加えた。


「ただし、ベーダー全体がそうとは限りません。そこでワシはシルフィオンと同盟を結ぶと同時に、ベーダーの調査を提案したい」


 俺は首を縦に振る。


「俺もそれがいいと思う。ベーダーに例の瘴気の話を聞いてくれる者もいるかもしれない」

「ベーダーは強大な軍事力を持つ国……味方にできるなら、確かに心強いですね」


 リエナもそう呟いた。


 しかしエレヴァンはこう呟く。


「あいつらの態度じゃ、それは難しいと思いますがね。まあ、とりあえず同盟については賛成です。森の物資が手に入るのもありがてえ」


 エレヴァンがそう言うと皆も頷く。


「では、同盟を結ぶことに皆様異論はないようですな。それと彼らに提供する道具ですが、当分は鉄製のものに限るつもりです。ミスリルやオリハルコンなどは、シルフィオンの者たちをベーダーとの戦いに向かわせてしまうかもしれない」


 その言葉に皆それでいいと首を縦に振る。


 こうしてシルフィオンと同盟を締結することが決まった。


 それを宮殿の待合室にいるテオドシアとベルーナに伝えにいった。


「心遣い感謝いたします。私のほうからは条約の内容に問題はございません」


 テオドシアはバリスから条約の内容を伝えられると頭を下げた。


 バリスがこう訊ねる。


「もちろんシルフィオンの方々から追加で意見もありましょう。要望等があればできる限り沿うつもりですので仰ってくだされ」

「それには及びません。必ずこの条件でシルフィオンの者たちを納得させます。森の火を鎮めてくださったこともありますから、皆歓迎してくれるでしょう。特にバリス殿は今は我らの中で賢者と呼ばれてますから」

「ワシはまだまだ魔法を覚えたばかりの若輩。賢者など」

「ご謙遜を。あなたの魔法はまさに賢者のそれです。それにこのシェオールの街並み……ここは賢者の国といって差し支えなさそうです」


 テオドシアは窓から世界樹、シェオールの街並み……そして海に立つマッパの巨大像を見て言った。


 リエナがテオドシアに答える。


「同盟の結果はどうであれ、またいつでもいらしてください。世界樹の葉や樹液もお分けしますから」

「感謝いたします。我らもすぐにお返しの品を用意します。畑の拡大もどうか仰ってください」

「ありがとうございます。そういえばテオドシアさん、一つ質問が」

「質問? 私に分かることなら」

「世界樹の種子についてです。例えばですが、世界樹の種子が実るようなことがあれば、例えばシルフィオンの森に植えることもできるのではと思ったのです」


 リエナの質問は俺も気になっていたことだ。

 植物は種子をつける。世界樹も実際に種子だった。


 その種子があれば、シルフィオンはもちろんアランシアなど荒廃した土地を蘇らせる一助にもなるはず。


 もちろんこれだけの恩恵をもたらず木だ。もしかすると一本につき一個しか種子を残さないということも考えられそうだ。


 だが、テオドシアの答えは意外なものだった。


「結論からいえば種子は実ります。しかし、どうすれば実るかは分かりません。長い時間が必要なのか、それとも何か特殊な条件が必要になるのか……ただ世界樹の種子が実る場所は必ず幸福な場所だそうです」

「とすればいつかは実るかもしれないということですね」

「ええ。恐らく、このシェオールには必ず実るでしょう。どうか世界樹を大事に育ててあげてください」


 きっとではなく必ずか。お世辞……ではなく真面目な顔でテオドシアはそう言った。


 リエナは深く頷く。


「はい。もっと大きく……育ててみせます!」


 テオドシアはにこりと微笑んだ。


「それでは名残惜しいですが、私たちは一度帰還いたします。同盟の件を諮らなければなりませんからね。もし森に来られる際はベルーナを呼んでください。ベルーナが案内役や連絡役を務めます」


 テオドシアはベルーナと一礼すると、シルフィオンに帰還するのだった。


 それから数時間もしない内に、シルフィオンからは同盟を受け入れる連絡があった。


 さっそくシェオールとシルフィオンで物々交換が始まる中、俺とバリスはベーダーの調査について会議室で議論する。


 バリスは計画書のようなものを記しながら続ける。


「我らの中にベーダー人である龍人はいない。琉金があるとはいえ、龍人への変装はリスクが高そうですな」

「ああ。それに、やつらにはミスリルの武具もある。シエルによれば、刀剣だけでなく魔法を強化する杖もあったそうだ。変装を見破る者がいる可能性も見越して、堂々と外国人として入国したほうがいいだろう」

「となればあとは腕が立つ者、あるいは魔法を使える者。そして怪しまれない者ですね」

「ああ。残念だが、魔物たちは厳しい。ベーダーと接触があるアモリス共和国は人間の国だから、少なくとも人間とはやりとりがあることになる。つまり人間は怪しまれることはない……例えば、俺なら」


 誰が適任か。そう考えると、自然とそんな言葉が出てきた。


 一方のバリスは難しい顔をする。


「しかし、ヒール殿が行かれるのは……蘇ったヴェルーア帝国の人々にお任せしたほうが」

「でも相手はミスリルを持つ者たちだ……それなりに強力な魔法を使える俺が適任だと思う。俺だって他の転移門の発掘を続けたいが、ベーダーは色々と放っておけない存在だ。採掘は他のやつらに任せられる」


 バリスは難しい顔をする。しかしやがて首を縦に振った。


「分かりました。ただし一人はあまりにも危険。護衛が必要でしょう。人の姿で強いとなると……姫とフーレになるでしょうか」

「でも、リエナは俺の代わりというか……」

「ワシも本意ではありません。しかし、ヒール殿が行くと知れば、姫は必ずついていくでしょう。ちょっと離れた場所に行くのとは訳が違う。それに」


 バリスは真剣な眼差しを俺に向ける。


「ヒール殿と姫が行かれると仰られるなら、その間、我らがなんとしてもこのシェオールを守ります」

「バリス……」


 ずっと皆でこの島を守るために準備を進めてきた。各分野の大臣も決めている。しかもシェオールには今や魔導鎧という強力な兵器がある。


「こう申し上げるのも失礼ですが……ヒール殿はもっとお好きになさってください。常にヒール殿の行動が我らを救ってきたのです。我らはヒール殿を縛りたくはない」


 自由に動いてほしいか。俺にとっては非常にありがたいことだな。


 それにバリスの魔法はもう俺を凌ぐのではというほどだ。何も心配することはないか。


「分かった……バリス。皆とシェオールを頼む」

「お任せください、ヒール殿──いえ、陛下。と、先程からずっとヒール殿と呼んでしまいましたな」

「バリス……その陛下はやめてくれ。どうしようもない時以外は、いつも通りが助かる」

「陛下が望まれるなら」


 バリスが少しいじわるそうに笑う。暗に皆にとっての長であることを忘れるなと言いたいのだろう。


「まあ……いずれにせよすぐ帰るよ、他の転移門のこともあるしな。無理もしない。予想以上に危険そうだったらすぐにでも引き返す」

「我らもヒール殿の指示があれば、増援含め何かあればすぐに駆けつけられるようにいたします」

「ああ、頼む。それじゃあ、俺も準備を整えないとな」


 こうして俺は、ベーダーへの調査に向かうことにした。

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