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二百十三話 会議でした!?

本日(8月24日)お昼ごろ、コミックウォーカー様で出店宇生先生による本作コミカライズ更新(予定)です!(延期等になったらごめんなさい)

 湯浴みをした俺たちは、大樹の一番奥にある空間へと来ていた。


 入り口付近の大空洞よりも更に広い場所。人間が千人以上集まれそうな広さがある大空洞だ。


 その空洞の中央には、幹を利用した円卓があった。そこには、先程も外で見てきた者たちと同じ種族の者が立っていた。耳長の褐色肌の女性をはじめ、各種族から一人ずつこの場に集まっているようだ。


 円卓を囲む彼らの頭には、草花で作られた冠が見える。彼らは各種族の長に違いない。


 とすると、彼らが樹王たち、か。


 ベルーナは彼らの前で頭を下げる。


「シェオールの方々をお連れしました」

「ご苦労さまでした、ベルーナ」


 そう答えたのは、ベルーナとよく似た耳長の褐色肌の女性だった。ベルーナより落ち着いた感じだが、年齢はあまり変わらず十代や二十代の人間に見える。


 女性は俺たちに体を向け、一礼した。


「よくぞ来られました、シェオールの方々」

「こちらこそ歓迎してくれて感謝する。風呂もありがとう」


 首を横に振る女性。


「感謝を申し上げるのは我々です、ヒール様。森の火を鎮めてくださった」


 女性が頭を下げると、他の冠の者たちも一様に頭を下げる。


「困ったときはお互い様だ。俺の名を知っているということは、すでに話も聞いていると思うが、俺たちは隣人のようなものだからな」

「存じております。しかしまさか、本当に伝承にあるシェオールへの入り口が存在するとは……」

「俺たちはいつでも歓迎するよ。それよりも」


 女性は再び頭を下げる。


「申し遅れました。私のことはテオドシアとお呼びください。シルフィオンを統べる樹王会議の長老です」

「そうか。さっそく一つ聞きたいんだが、君たちは多種族が集まって暮らしているんだな?」

「はい。私やベルーナはダークエルフ。その他にもマンドラゴラ、トレント、リーフゴブリン……深い森を住処とする者たちが集まっております」

「それは昔からなのか?」

「樹王会議は古代より連綿と開かれてきました。しかし恒久的な集まりではありませんでした。何故、今こうしてこの場に集まっているかは、皆様のお察しの通りです」

「ベーダーか」


 テオドシアは俺の言葉に頷く。


「はい。彼らベーダー人は、本来岩がちな水辺に住まう民。もとより我らとは相容れませんが、彼らが人の姿をするようになってからは、森林を伐採する彼らとの争いが激しく」

「結果として住処とする森が縮小し、ここへ追い込まれたと」


 バリスの声にテオドシアは首を縦に振った。


「はい。もともと予言には半信半疑だった我らですが、縋るように予言の地シェオールへの入り口があるとされるこの朽ちた世界樹へと集まってきたのです。そして」

「結果としては当たったわけになるわけだな……」


 シルフィオンの者たちは、シェオールが最後の砦になるという予言は伝説の類に思っていたようだ。


 そもそも俺たちがシェオールにたどり着かなければ、彼らの信じる世界樹がなるシェオールも存在しなかった。下手をすれば伝説で終わっていた可能性もある。


 リエナもこんなことを呟く。


「私たちがあの転移門を見つけなければこの出会いはなかった……なんだか、不思議ですね」

「そうだな……とすると、君たちは」


 俺が問うと、テオドシアは一度頷き、深く頭を下げる。


「シェオールの皆様に無理を承知て申し上げます……どうか、我らの子たちだけでも、そちらへ迎え入れてくださらないでしょうか?」

「構わないが……諦めるのはまだ早いんじゃないか?」


 俺が言うとバリスもこう口を開く。


「森はこうしてまだ残っています。ベーダーと停戦をする手も」


 しかし他の樹王の一人が声を上げた。


「馬鹿な!! 停戦など有り得ん! 我らを徹底的に攻撃したきた奴らだ!」

「そうだ! ベーダー人は全ての森を焼き尽くすまで、その膨張を止めないだろう!!」


 その一方で小声も響く。


「奴らに全く交渉の意思がなかったわけではない……」

「そうだ。せっかくの停戦を破った種族もあったではないか。さっきだって掟を破ったやつがいたせいで」


 なんだと、という怒声が響くと、そこから樹王たちの言い合いが始まった。


 あの時ああしておけばとか、一部の種族がいけないんだとか、非難の応酬だ。ついには、やはりベーダーと戦うべきだと主張する者まで現れた。


「皆の衆! お客人の前ですよ!! ……ああ」


 テオドシアは樹王たちが言い合いをやめないのを見て、がくりと肩を落とす。


 樹王たちの話し合いで色々決めているのだろうか。俺は安易にシェオールのことは皆で決めればいいと言ったが……ここまで意見が割れると大変だろうな。


 そしてベーダーとの間にはやはり深い因縁があるらしい。シルフィオンに軍事支援を行えば、彼らは逆にベーダー領へ侵攻するかもしれない。


 そんな中、バリスが円卓の樹王たちの間に割って入る。その見た目からか、皆思わず静まり返る。


「まあまあ、皆様。ともかく、皆生き残りたいことは共通しておいでなのでしょう」


 バリスの言葉に、テオドシアは真っ先に首を縦に振った。


「ええ。ですが、我らの滅亡は火を見るより明らか。ベーダーの総攻撃があれば、たちまち我らは……」


 すぐにでも滅ぶということか。

 たしかに先ほどの火だけでこの騒ぎだ。半信半疑の予言に賭けるぐらいだし相当深刻に考えているはずだ。


 だが、何故ベーダーは総攻撃をしかけないのだろうか。損害が大きくなると踏んでいる? あるいは森の木々は使いたいのかもしれないが。


 バリスはこくりと頷く。


「だから、子供だけでも我らに預かってほしい、と。たしかに、この森の全ての民を受け入れるのは、今のシェオールでは難しい。受け入れられても子供だけでしょう。ですが」


 バリスは俺とリエナに顔を向ける。俺は頷き返した。


「我らは金属の道具を作ることができます。それを用いれば、そもそもこの森を守ることは難しくはないでしょう」


 武器と言わないのは、現時点でバリスも道具に限定するべきと考えているからだ。


「しかし、金属は高価……我らに代価となるものは」


 樹王たちは不安そうな顔で言った。


 今までも金属の入手は試みたはずだ。しかし足元を見られたか、大量に用意できなかったのだろう。


 バリスはこう続ける。


「我らは逆に、森の恵みに乏しい。それと交換し合えばいいのです」

「世界樹があるのに、森の恵みに乏しいだと?」


 皆分からないといった顔をする。


 ハイネスは面倒くさそうな顔で言った。


「まあ、そこは説明するより、ベルーナさんなりそっちの方にシェオールを見てもらったほうが早いんじゃないですかね」

「ぜひ、お願いいたします」


 ベルーナは頭を下げて言った。


 俺は頷く。


「ともかく、俺たちがお前たちと協力関係を結びたいことは伝わっただろ? 色々どうするかは別として、まずシェオールに来ないか?」


 リエナも口を開く。


「歓迎いたします! そろそろ島ではお昼ご飯でしょうし、皆様のお食事も用意できるかと」

「ならば、私とベルーナで参りましょう。他の物たちは留守を頼みます」


 テオドシアの言葉に樹王たちは頷いた。


 そうして俺たちは、ベルーナとテオドシアを連れ、シェオールへと帰還するのだった。

本日(8月24日)お昼ごろ、コミックウォーカー様で出店宇生先生による本作コミカライズ更新(予定)です!(延期等になったらごめんなさい)

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