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二百九話 カブでした!?

 地下の武器庫から続く先にあった転移門。その向こうには、未知の世界が広がっていた。


 出た先は、山の頂上付近。四方の麓を見渡すと、地平線一杯まで森が広がっている。


 別の転移門が繋がっていたアランシアとは違い、この地は緑豊かで黒靄には襲われていないようだ。


 俺たちは少しだけ山の中腹へと下り、植物を調べていた。


「この白い花は初めて見たな……山の植物に詳しいわけじゃないが、バーレオンと違う大陸の可能性もあるな。それに」


 俺は腰を上げると、周囲を見渡す。


「あれだけ長く連なる山脈はバーレオンにはない」


 南北を縦断するように、高い山々が連なっている。バーレオンにここまで高く長い山脈はなかった。


 そんな中、バリスが門から走ってきた。


「武器庫及び門の警備体制を整えてまいりました。して、どう探索されますかな?」

「そうだな……シェオールとしては、付近の植物の種子を持ち帰ることができればそれでいい。ただ、もしものときも考え、おそらくベーダー龍王国と思われる者たちと、接触できるようにはしておきたい」


 ベーダー龍王国がこれから黒靄に侵されないとは限らない。

 その際、協力関係を構築できるようにはしておきたいのだ。


「植物や資源の採集をしつつ、一か所だけ龍王国の街を見つけておくとしよう。恐らくは、先程リンドブルムが飛び去った北にあるはずだ」

「それがよろしいでしょう。人員はどうされますか?」


 バリスが言うと、


「そうだな……使える植物かはリエナに判断してもらうのが一番いい。だからリエナには来てほしい、あとは森を進むことになるから、嗅覚を察知できるアシュトンかハイネスに来てほしい。十五号はもしものときのためについてきてもらって……シエルとマッパも来るな?」


 俺の声に、シエルとマッパはこくりと頷くような仕草を見せた。


 そしてと俺は続ける。


「今回はバリスにも同行してほしい。といっても、空から姿を隠しながら進んでほしいんだ。人里が見えたら教えてほしい」

「承知しました。しかしヒール殿と姫、そしてワシがシェオールを空けることになりますが」

「そう言われれば……やめたほうがいいかな?」

「いえ。すでにシェオールはあらゆる緊急事態に対応できるようになっています。将軍がおれば特に問題はないでしょう。空と陸から、早急に偵察を終わらせる方がよろしいかと」

「なら、そうしよう。大々的な探索は、カミュたちが帰ってきてからにすればいい」


 それから、リエナとハイネスが到着すると、俺たちは探索を始めた。


 まずは山を下り、麓の森へと入る。


「かなり深い森だな……」


 陽もあまり差し込まず、人間が入ればすぐに遭難してしまいそうな森だ。


 ハイネスが自信満々の顔で言う。


「俺に任せてください。どんな森でも、俺の鼻があれば迷いません。今回は、マッパの兄貴に蜂蜜を持たせておきましたし」


 どこに行ってもすぐ分かるということか。

 マッパはそんなことはしないとでも言いたいのか首を横に振るが、まあ一番の不安要素であるのは間違いない。俺もしっかり目を光らせておこう。


 一方、合流したリエナも全く森を恐れていない様子だった。


「たしかに、バーレオンで訪れた森の植物と違う物が多いですね……これはバーレオンでも見かけたオレンジのようですが」


 リエナは森に生えている植物、種子や果実をどんどんと籠へ入れていく。


「これでだいぶシェオールの作物も増えそうだな」

「はい! 畑も拡大できますが、若木を何本かシェオールで植えて新しい森を作ってもいいかもしれませんね」

「そうだな。街路樹なんかもほしかったところだ」


 シェオールの気候で育つかは分からないが、世界樹の恩恵もある。色々な植物が育てられるはずだ。


 マッパやシエルも、森に落ちた木の実などを拾っていく。


「あ、マッパ。そのキノコは食べるなよ……」


 時折マッパが危ない色のキノコを拾う以外は、探索は順調に進んだ。


 空のバリスからも、特に連絡はこない。


 だが、リエナが何かに気が付いたのか、足を止め周囲を見渡す。


「この森……」


 ハイネスも同じように周りを見て、何か異変に気付いたようだ。


「……ああ、なんか匂いますね」

「匂う?」


 俺が訊ねると、ハイネスはこう言い直す。


「いや、何か特別匂いがするってわけじゃないんっすよ。ただ、この森、随分と綺麗というか」

「はい。誰かしらによって手入れがされている森です。とても歩きやすいので」


 森にそこまで詳しくない俺にはピンとこなかった。


 だが確かに、森を歩いているにしては疲れを感じない気がする。


「ということは、誰かがこの森に住んでいるってことか?」


 ハイネスが少し考えた後、ゆっくりと頷く。


「獣の数も少ない……しかも、皆肉を食う獣じゃねえ。これだけ歩いたんです。熊やら狼がいれば、もう俺たちを尾行してもおかしくないはずだ」

「この森は危険だから、熊や狼は避けている、ということですね。勝手に食材を取ってまずかったでしょうか」


 リエナの声にハイネスが首を横に振る。


「まずいなら、最初から何かしら手を打ってくるはずです……しねえってことは、向こうもこちらに気が付かれたくないのかも」


 俺はそれを聞いて、ハイネスに言う。


「近くに特別魔力を感じる場所はないが……そういうことなら一旦引き返して、別の場所から迂回して北を目指すか」


 先ほどのベーダー龍王国の奴らとは違う勢力と信じたいが、もし仲間なら俺たちのことがベーダー龍王国の耳に入ってしまう。


 リエナとハイネスは俺の賛同するように首を縦に振った。


「よしそれじゃあ……おい、マッパ、行くぞ。おい……」


 マッパは巨大な葉っぱを掴んでいた。そしてそれを引っこ抜くと、白く丸っこい根が現れる。


「カブ? ──っ!?」


 カブからは突如甲高い悲鳴が発せられるのだった。

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