二百六話 同盟祝いでした!
アランベルクの復活した世界樹の麓。
そこには幕や世界樹の葉で飾り付けられた煌びやかな宴会場が設けられていた。
石の円卓にはシェオールの海鮮を中心に、ごちそうが並んでいる。それを取り囲むように、アランベルク中の人々が集まっていた。
この麓だけでなく、他のアランベルクの広場にも宴会場が設けられている。シェオールにも同様にだ。
聖域を解放したその夜、灰色だったアランベルクの市街は昼のように煌々と輝いていた。
今、アランシアでは、シェオールとアランシアの同盟成立を祝う宴会が開かれている。
麓の宴会場には大きな演壇があり、そこではアリッサが立っていた。
「それではシェオールとアランシアの同盟を祝し、乾杯!!」
よく通るアリッサの声が宴会場に響き渡ると、乾杯とアランベルク中から叫び声が返ってきた。
それから、がやがやと賑やかな宴会が始まった。
宴会場に薫るのは、主に世界樹の葉の匂いと蜂蜜の匂い……
俺の隣で、ごくごくと杯を煽るエレヴァンが言う。
「ぷはぁ……蜂蜜酒はやっぱり最高だな!!」
「飲みすぎないでよ、お父さん。皆飲めるように、三杯までって決まっているんだからね」
フーレは蜂蜜入りの水を飲みながら言った。
ヒースを始め、シェオールに住む巨大蜂が集めてくれた蜂蜜……それを酒に加工したものだ。
俺は酒を飲まないので深く関与してないが、エレヴァンを始め酒好きが多いシェオールで量産が始まっていた。こだわりもあるのか、世界樹の葉や花や果物で香りづけも行っているらしい。
エレヴァンだけでなく、アランベルクの人々にも好評のようだ。これは三杯では済まないかもしれない。
他には、ワインも小さな杯で一杯ずつ供されているらしい。
すでにハイネスは飲みすぎたのか、地面に横たわり伸びている。アシュトンもアランベルクの者たちと誰が一番飲めるか飲みくらべをしているようだ。
リエナが俺の隣でふふっと笑う。
「三杯は目安です。実際は倍飲んでも大丈夫なようにしてますから」
「織り込み済みってことか。料理もだいぶ手が込んでいるし、本当にありがとうな、リエナ」
宴会を企画したのリエナだ。食材の在庫からどういう宴会にするかも、リエナが考えた。
「いえいえ。アランベルクにも料理の上手い方が多かったですし、キノコも豊富でしたから」
「シェオールの皆も、キノコ料理は新鮮だろうな」
海産物ばかりのシェオールに長く住んでいると、こういうのが無性に食べたくなる。
マッパといえばスナック感覚でキノコを口に放り込んでいる。生食が可能なキノコなので問題ないが。
そんな中、アリッサが杯を持ってやってきた。
「ヒール殿! 飲んでいるかな?」
「蜂蜜入りの水をね……って、アリッサ……なんか顔が赤いがまさか」
「いやいや、酒は飲んでない。ただ、こんなにめでたい日だ。どうにも興奮してしまって」
「そうだな。シェオールにとっても、初の同盟相手だ。本当に嬉しいよ」
同盟といえば、シェオールからはカミュ一行が外交使節として東の大陸にあるアモリス共和国に向かっている。元公国人の移民を募るためでもあるが、レイラはアモリスをシェオールの味方にさせようとしている。
まあ、俺の故郷である王国との一応の和解が済んだ今、アモリスとの同盟は必須ではない。
しかし世界に終焉をもたらすとされる黒靄に対処するために、協力関係を結んでおいて損はない。
そろそろ、カミュたちも帰還してもいいころだと思うが……
俺はアリッサに続ける。
「以前も言ったが、他にも世界で同盟国を増やしていきたい。アランシアのように困っている国があるかもしれない。その際は力を貸してくれ……」
「もちろん。同盟を結ぶ度、こうして宴会を開こう!」
その言葉にリエナがふふっと笑う。
「同盟の相手が違う地域の方々なら、珍しい食材をいただけるかもしれませんね。もっと宴会の食事が豪華になりそうです」
リエナの言う通り、違う気候の場所の国と協力関係を結べれば、シェオールにはない食材も手に入る。
食材に限ったことではないが、色々な国と交易できればシェオールはもっと豊かになるだろう。
それにあたっては、カミュたちのように使節や商人を派遣することも大事だが、やはり転移門が重要になる。
俺がシェオールの地下を掘り、見つけた転移門をマッパを始めドワーフたちに修理をしてもらう。
シエルによれば隕石で完全に壊れてしまった転移門を除くと、動く可能性があるのは五つだそうだ。すでにシエルがある程度の場所を地図に記してくれている。あとは俺が掘っていけばいいだけだ。
もちろん、シェオールの転移門が機能しても、転移門の接続先が壊れていれば動かないが。シエルは転移先が全て壊れている可能性のほうが高いとは言っていた。
まあ、掘ってみなければわからない……
俺は蜂蜜入りの水を飲む。やはり俺には採掘しかないのか、頭が掘ることでいっぱいだ。
「……また、採掘の日々だな」
「アランシアの者も、ヒール殿に感化され採掘に興味のある者が増えてきたようだ。今後はアランシアも採掘に力を入れていくよ」
「俺も、たまには掘らせてくれると嬉しい」
「いつでも歓迎だ!」
アリッサは笑顔で答えてくれた。
その後もアランベルクとシェオールでは賑やかな宴会が続いた。
俺もいつの間にか眠っていたようで……気が付けば、アランベルクにある温泉付きの部屋でリエナと朝を迎えているのだった。