二百五話 敵が分かりました!?
ゼンラーダのドワーフがマッパに降伏した後、俺はアリッサと一部のアランベルクの者たちを聖域へ呼んできた。
アランシアの王族と貴族の身柄を引き渡すためだ。
彼らはマッパたちが乗ってきた巨大な魔動鎧に恐れをなしたのか、ドワーフが洗脳を解くと誰も抵抗せずアリッサに降った。
「なるほど……そんなことが」
アリッサは、聖域にある地下への入り口を見て呟いた。
「色々と思うところはあるだろうが、ドワーフたちについては、俺たちに預からせてくれないか」
俺が頼むと、アリッサは迷わず首を縦に振った。
「発端は、私たちの祖が世界樹を奪うためにドワーフを殺したことにある。ドワーフたちを責めることなどできない。それよりも」
「ああ、大事なことが分かった」
ドワーフの言葉で、黒靄の正体が判明した。
黒靄は、はるか昔に空から降ってきた隕石に潜んでいた黒い虫のせいだということが。
隣で聞いていたフーレが口を開く。
「私たちが見てきた黒靄だけでも、すごい量だったし……生き物を糧に増殖しているなら、その虫、もうとんでもない数になっているんじゃない?」
「それをすべてを焼き払う……ことは現実的ではないだろうな」
アシュトンが難しそうな顔で言うと、ハイネスも頷く。
「このアランシアみたいに覆いつくされているなら話は別だが、動き回っているなら、場所も分からねえ。根絶するのは難しいな」
「アランシア周辺を回復できても、他からまた流れてくれば……百年後二百年後どうなっているか分からないな」
アリッサは青さを取り戻しつつある空を見て言った。
たしかにこの世界をくまなく調べるなど、雲を掴むような話だ。
だが……
「……シェオールの地下にある転移門と各地との転移門を復活させれば、情報のやりとりも楽になる。黒靄についても情報が入るだろう。あのドワーフとマッパたちは、それを修復する技術を持っているんだ」
フーレがうんうんと首を縦に振って答える。
「アランシアの人たちみたいに、その黒靄で困っている人たちに会えるかもしれないしね」
「その際は、私たちアランベルクの者たちも手を差し伸べたい」
アリッサもそう答えてくれた。
「ありがとう、心強いよ。しかし、アリッサ。彼らはどうするつもりだ?」
俺はアランシアの王族と貴族を見て言った。
「すでに、父上とは話はついている。分散させ、アランベルクの各地に住まわせるつもりだ。民衆と同じ仕事をさせる。政は今まで通り、民衆の代表との合議で進めていく。聖域はドワーフたちにお返ししよう」
「ドワーフからは聖域の処遇を一任されている。ここは綺麗な水や農作物を作れるから、アランベルクの者たちで使うといい」
「……いいのか?」
「ああ。ここがあれば、アランベルクの人たちの食料事情もずっと良くなるはずだ。結果として、シェオールから持ってくる食料も少なくて済む」
「ありがとう、ヒール殿……あなたたちのおかげで武具も食料も手に入った。気がかりだった聖域の問題も片付いた。我らの国土の復興も急速に進むはずだ」
魔動鎧の配備も終わった。もう、アランシアの人々だけに任せても十分なぐらいだ。今後黒靄の浄化が進むにつれ、畑も拡大していくだろうし、むしろ何かあればシェオールの力になってくれるだろう。
俺たちも、黒靄の調査や転移門の修復に専念できるはずだ。
アリッサは、俺たち皆に頭を下げて続ける。
「本当に感謝する! 私たちがシェオールから受けた恩は、絶対に忘れない」
その声に、俺たちは顔を見合わせる。皆、達成感からか微笑みを浮かべていた。
フーレが答える。
「どういたしまして。それより、アリッサさん。あれ、ヒール様に言わなくていいの?」
「あれ?」
俺は首を傾げて、アリッサに顔を向けた。
するとアリッサは顔を真っ赤にして、慌てるような口調で答えた。
「あ、あれか! あ、あれは……リエナ殿と相談することになった!」
「つまり、うちの姫に──あっ」
フーレはアリッサの後ろの人物に気が付く。
そこには、ニコニコとした顔でやってくるリエナが。
「ヒール様。先程、報告を聞いてやってきました!」
フーレが両手で口を抑える中、リエナは俺の前で立ち止まるとそう言った。
変な空気に戸惑いながらも、俺はリエナに答える。
「おお、そうだったか。ドワーフたちが仲間に加わってくれたし、アランシアの問題ももう片付いた」
「はい! ですから今日は、アランベルクとシェオールの両方で、宴会やお祭りを開こうと思いまして! シェオールとアランシアが同盟を結ぶことが決まってからまだ、何も祝い事をしてませんでしたし」
「言われてみればそうだな……いいかな、アリッサ?」
アリッサは即座に頷く。
「もちろん! 私たちは大歓迎だ。今日を、シェオールとアランシアの記念すべき日にしよう!」
「よし、決まりだ……皆、これから宴会の準備をするぞ!」
俺が言うと、皆おうと応えてくれた。