二百二話 殴り合いでした!
湖からは、金色の像が現れた。
それは、先程のドワーフと同じような姿の像だった。ちゃんと鎧も身に着けている。
早速、足を上げはじめた。
俺たちも最近使っている魔動鎧で間違いない。
「ふははは! お前たちも魔動機を持っているようだが、所詮は猿真似であろう!? 我が機体はヒヒイロカネできている!」
ドワーフたちは、魔動鎧を魔動機と呼んでいるようだ。魔法で動くという意味ではあまり変わらない。
それよりも、ヒヒイロカネか。
あれは俺の魔法では全く歯が立たなかった。
急に形勢が悪くなったな……
だが、そんな心配はいらなかった。
ドワーフの魔動機の前に、狼の頭をした魔動鎧が迫っていた。
狼頭はそのまま、魔動機を殴りつけた。ゴンと、巨大な鐘のような音が響く。
「なっ──!?」
魔動機は宙を舞うと、湖岸に倒れた。
俺は狼頭の鎧を見上げて言う。
「アシュトンか!」
「はっ! フーレ殿が手を振ったので、駆けつけました」
アシュトンの声に、フーレが呟く。
「手を振って三十秒経ってないけどね……っと」
俺たちの後ろでは、違う魔動鎧が手を地面に下げていた。
「ヒールの旦那、乗ってください! あとは、兄貴に任せて!」
ハイネスも鎧で駆けつけてくれたようだ。
「ありがとう、ハイネス!」
俺たちはハイネスの鎧の手に乗せてもらった。
「く、くそ!」
ドワーフは何とか魔動機を立ち上がらせ、アシュトンの鎧に殴りかかる。
「そんなもの、所詮は猿真似! 我らドワーフの技術には敵わぬ!!」
「技術だけなら、我らも負けてはおらぬ! マッパ殿の作った鎧だからな!」
アシュトンはすっと鎧をかがめ、魔動機のパンチを避けた。
そして下から、魔動機の顎部分へ拳を突き上げる。
「っ!? ちっ!」
宙へ吹き飛ばされたドワーフだが、すぐに受け身を取り、アシュトンの鎧に何回も殴り掛かる。
しかしアシュトンはその連撃を華麗に避けていった。
アシュトンの鎧は、ほとんどがミスリルやオリハルコンなどでできている。ヒヒイロカネを使っているのは、一部だけだ。
つまり、ドワーフの魔動機には性能的に劣っているはず。
しかし戦いはアシュトンが圧倒していた。
これはもう、アシュトンとドワーフの戦闘経験の差だろう。
「何故だ! 猿真似の魔動機などに私が負けるわけが!」
「作り手のマッパ殿の名誉にかけても、我は負けられぬ!」
「──マッパ!? そんなふざけた名前のやつが作ったものに、私が! ──っ!?」
ドワーフの魔動機は、簡単にアシュトンに蹴り飛ばされてしまった。
「まだやるか?」
「く、くそぉ! こうなれば、多少の被害は構わん!」
ドワーフが怒声を響かせると、突如湖の中から巨大な筒が現れる。弩砲の類だろう。
弩砲はアシュトンの鎧に狙いを定める。
アシュトンはとっさに危険を察知したのだろう。自分ではなく、アランベルクの。
だから後方が荒野になるようにアシュトンは移動した。砲口も、そんなアシュトンを追うように動く。
俺も全魔力で、アシュトンの鎧にマジックシールドを展開した。
しかし、弩砲をゴンと拳で突き上げる新たな鎧が。
「あれは!」
俺たちは声を上げた。
いたのは、なんとマッパの像……ではなく、ドワーフ型の魔動鎧だった。
俺たちがドワーフの宮廷から持ち帰ったドワーフ型の魔動鎧で間違いない。ちゃんと裸だし。
その瞬間、筒から極大の光線が上空に放たれた。
それはまるで花火のように上空で爆発した。
特に地上には被害はない
ドワーフは、筒を殴った魔動鎧に声を震わせる。
「な、なな、なんで……なぜ、それがここに!?」
「……え? 同じにしか見えなくない?」
フーレがぼそりと呟くと、ドワーフが声を上げる。
「同じなわけあるか! あれは……あれは王族の魔動機なんだぞ! あの、尻の質感を見れば、分かるだろう!?」
「全く、見分けがつかないんだけど……」
俺もフーレと同意見だ。
今現れた俺たち側の魔動鎧とドワーフの魔動機は、まったく区別がつかない。どちらも毛むくじゃらだ。
そんな中、魔動鎧の胸部が開く。
「あいつ……」
魔動鎧の中から出てきたのは、やはりマッパだった。ちゃんと全裸の。
それを見たせいか、ドワーフの魔動機は両膝を突く。
「あ、あなたは……!? 間違いない……何故、生きてらっしゃるのです!?」
やはりマッパは、ただ者ではなかったようだ。