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二百一話 命が足りませんでした!?

「お願いします! それがないと……それがないと、私は!」


 現れた毛むくじゃらのおっさんはその場で泣き崩れた。


 恐る恐る、俺は訊ねてみる。


「お前……ドワーフか?」

「っ!? 私たちのことを!?」

「仲間にドワーフがいるからな……でも、お前は」

「はい! 私に実体はありません……この場所を占拠した人間に、殺されてしまったのです」

「つまり、ここは元々お前たちの住んでいる場所だったということか?」


 こくりとドワーフは頷いた。


 聖域を作ったのは、ドワーフたちだったということか。

 それをアランシア人の先祖が、占拠した


「仲間も……三百ほどの同胞も命を奪われました。ですから、復活させるための血肉が必要なのです。魔法によって濃縮し、石とする……」

「まさか……死者を復活させるための石か?」


 俺もかつて、似た石を手にしたことがある。


 竜球石のことだ。


 シェオールの地下で掘れた石で、マッパが復活した際に使われた石でもある。


「いかにも。もっとも私のは模造で、百の血肉で、一の命しか蘇らせることしかできない。完全な技術は、あの方しか持っていなかった……」


 竜球石は、誰かの命を糧にできていた石だったのか……シェオールの竜球石もそうしてできたのだろうか。


 知っていれば使えなかっただろう。マッパが蘇ったのは、事故と言うか……


 おっさんはぶんぶんと首を横に振って言う。


「今になっては遅い。ともかく、私がやらなければいけないことは、私と仲間を全員復活させること……」


 頭を下げるおっさん。


「どうか、その杖を返してください。私と私の仲間は、この聖域の人間によって未来を奪われた」

「あの、地下にいた人間は、その子孫だと」

「はい……彼らには、このような状況であっても良い生活をさせました。外の民衆が苦しんでいるにも限らず……」

「やるのは王族と貴族だけ、ということか」

「はい。お約束します」


 予言を信じ、今まで民衆に見向きもしなかった聖域の者たちだ。

 ドワーフたちに復讐されてしまっても文句は言えない。


 人間がこんな場所を作ることはできないから、ドワーフから奪ったと考えるのが確かに自然だ。


 とはいえ、俺は命を天秤にかけるつもりはない。


 大事なのは、シェオールだからだ……その同盟相手も、大事な仲間だ。


「悪いが、信用できないな」

「……どうしてでしょう? ここの者たちの傲慢なところは、あなたも目にしたでしょう?」


 俺が初めて聖域を訪れたときを、何かで見ていたのだろうか。


「お前は、仲間を復活させたいんだろう?」

「……? ……そう申し上げましたが?」

「ああ。そうだろう、全員復活させたいんだ」

「……っ!?」


 おっさんはしまったと言わんばかりに口を抑える。


「お前は、百の命で一つと言った。聖域の者たちで、足りるか?」


 俺がそう言うと、フーレは何やら指を曲げて計算していた。


「足りない……聖域の人たちだけじゃ」


 ドワーフたちが三百人なら、全員の復活に三万人の血肉が必要になる。となれば、聖域の三千人では足りない。あと、二万七千人近くは必要だ。


 翻って聖域の外には、約三万人のアランシアの人々がいる。


 ドワーフたちがアランシアの王族を誘導し、数を調整していたとしたら。


 俺はフーレに頷く。


「すべて計算の上だったんだ」

「くっ……くくっ……ふははははは!」


 ドワーフは笑い出す。


「人間というのは、他者から奪うしか能のない馬鹿と思っていたが……頭が回る」

「ぺらぺら喋ったのがいけないんじゃ……」


 フーレが言うと、ドワーフは急に顔を赤くする。


「う、うるさい! どの道、お前たちも生きて返すつもりはないのだ!」


 俺はそんなドワーフに問う。


「……一つ聞かせてほしいんだが、お前たちも世界の終末を信じているのか?」

「ああ、あの天災のことだろう? かつて、古のシェオールという大国は、あれで滅んだと聞く。だが、我らの先祖はそれを乗り越えた! 人はあれを神のせいと決めつけるが、実際は予測可能な現象にすぎん! そして我らは、またも乗り越えたのだ! この技術によって!」


 ……乗り越えた?

 どういうことだ。

 天災があの黒い瘴気だとしたら、まだ何も終わってはいない。


 しかしドワーフは姿を消してしまった。


 すぐに大地が揺れ、聖域の湖から水柱が立つ。


 現れたのは、瘴気を纏った金色の像だった。

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