二話 ざくざく掘れました!
≪採掘が可能になる道具を所有しています≫
「……え?」
俺は周囲を見回す。
しかし、誰もいない。
いや、いると言えばいるが、皆死体だ。
というより、洞窟の中なのに反響しなかった……
しかも、耳というよりは頭に直接響いている感じだ。
俺は口にするでもなく、自分の頭に念じる。
……もう一度言ってくれ
≪採掘が可能になるアイテムを所有しています。採掘を始めますか?≫
やはり、こいつは俺の頭の中で喋っているらしい。
……お前は誰だ?
≪紋章【洞窟王】による助言機能です。生体ではありません≫
【洞窟王】……俺が生まれながらに得た紋章だ。
王宮にほぼずっといたこともあって洞窟に行くことはなかったが、まさかこんな効果があるとは。
他に、【洞窟王】による効果があったり……
助言者は俺の意図を汲んだかのように答える。
≪現時点では助言機能の他に、採掘スキル引き上げ、補助効果が有ります。また、洞窟内で有効な各能力、スキルランク向上があります≫
色々聞きなれない言葉はあるが……
つまり、【採掘者】の上位版と考えれば良いのだろうか。
【採掘者】の紋章を持つ者は、採掘スキル引き上げ効果だけを得る。
そして【洞窟王】だけあって、洞窟の中では強くなれるらしい。
とにかく採掘に特化してるのは間違いない。
ここだけだと寝床には手狭だから、少し掘ってみるか。
……採掘を始めると言ったら?
≪承知しました。採掘補助効果により、採掘最適化を始めます≫
……最適化? え?
俺は洞窟の壁に、白い光が無数に浮かんでいることに気が付く。
なんで光ってるんだ?
≪白い光の部分は、ピッケルで叩くことを推奨する部分です。壁を破壊しやすく、更に落盤を防ぐため計算されています≫
「へえ。じゃあ、叩いてみるか」
俺は早速、ピッケルでその場を叩く。
すると一回で、人の頭ほどの岩を掘り出せた。
腕にかかる衝撃も少なかったし、どうやら助言は確かのようだ。
「というより、洞窟の中なのにやけに明るいな……これも補助効果か?」
≪はい。暗視効果です≫
「そうか。これなら続けられそうだな……とりあえず寝床のスペースを作ってみるか」
再び俺は、ピッケルで岩壁を叩く。
どこを掘ればいいか分かるのでリズムよく掘り出せる。
岩が崩れる音がなんとも心地よい。
「なんか……楽しくなってきたぞ……」
気付けば俺は、採掘に熱中していた。
寝床分というのも忘れ、その何倍も掘り続けていく。
足元はすぐに岩で一杯になった。
いや、というか……一回で掘れる量が増えてきている?
掘り出した岩も大型になってるような。
≪採掘スキルのランクが10上昇により、採掘量が増えています≫
よく分からないが、技量が上昇してるということだな?
しかし、掘れる量が増えたことで、足元が……
≪岩×168を回収しますか?≫
回収だって?
≪紋章【洞窟王】の効果により、採掘物なら重量に関係なく保管できます≫
ほう。どこに?
≪回答不能≫
そう……人体への影響とか、もう取り出せなくなったりとかある?
≪人体への影響はなし。取り出しは随時可能です≫
なら頼む……
俺がそう念じると、掘り出した岩が光るとともにどこかへ消えていった。
≪岩×168を回収。インベントリを作成します≫
俺の頭に以下の情報が、ぽっと浮かぶ。
◇インベントリ
岩×168
「……す、すごいな」
採掘物限定とはいえ、あれだけの岩を一度で回収した……
しかも、基準は不明だが数値化してくれたのだ。
≪採掘したものを自動回収する機能もあります。自動回収を起動しますか?≫
お願いしますっ……!
まさに至れり尽くせり。
これで採掘に集中できるというものだ。
俺は鼻歌交じりに、どんどんとピッケルを振るう。
だが、岩礁は小さいから、このままだと向かい側にすぐ到着するだろう。
なので、そろそろ下方向に向かって掘り始める。
足元に落ちた採掘物は、即座に光に包まれ消えていく。
自動回収……なんて、楽なんだ。
気が付けば、外の明りが遠い。
助言者によれば、採掘開始地点から、10m掘り下げていたという。
mという単位は初耳だが、俺が1mを覚えればいいだけだ。
そして知らないうちに、インベントリに色々なものが。
鉄鉱石や銅鉱石……金鉱石まであるらしい。
もちろん買い手がいない現状、金に価値などないが。
また、見知った鉱石だけではなく、見慣れないものもあった。
「……クリスタル?」
≪採掘補助機能、鉱石図鑑を起動します。クリスタル……使用者に保持魔力増大の恩恵を与える。増加量は石の大きさによる≫
魔力を増やせるだってっ?!
じゃあ、俺の少ない魔力も増やせるっていうのか。
俺の今までの苦労はなんだったんだ……
肩を落としながらも、俺は更に別の採掘物を見つける。
こっちの亀石ってのは?
≪亀石……使用することで寿命を一日増やすことができる≫
……じゅ、寿命っ?!
色々と理解が追い付かない。
ここまで簡単に採掘ができることも驚きだったが、まさかここまで変わった石が手に入るとは。
このシェオール岩礁……実はとんでもない領地なんじゃないか?
何にしろこんな面白いことは、人生で初めてだ。
更に奥には、もっと別の何かが眠ってるかもしれない……
「……よっしゃああああっ!! 掘るぞおおおお!!」
そんな好奇心が、俺にピッケルを狂ったように振らせる。
ただ一人、真暗な洞窟で叫び、収穫がある度に両手を上げて喜んだ。
「ルビーっ? ……こ、これはサファイアかっ?!」
気が付けば、俺はもう通りかかる船を探すのも忘れて、ただ採掘に熱中するのであった。