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百九十三話 異国も発展してました!?

 アランシア市街の食堂。

 そこのテーブルで俺たちは、リエナの持ってきた昼食を食べていた。


 テーブルには他に、先程収穫した大きな種──世界樹の種が置かれている。


「大収穫……どころじゃないな」


 まさか、掘って一日でこんなものが掘れるとは思いもしなかった。


 いや、もともと世界樹が生えていた場所の下と考えれば、何も不自然ではない。


 だが、あれだけシェオールを掘っても、この世界樹の種は一つだけしか見つかっていない。

 そう考えると、ここアランシアでも掘れたのは非常に運が良かったのは間違いないか。


 俺は濡れた髪を乾かすリエナを見て呟く。


「これもリエナのおかげだな」

「……皮肉ですか?」


 顔を赤らめて言うリエナ。

 足を滑らせたのが恥ずかしいようだ。

 肌が少し濡れていることもあって、なんだか色っぽい。


「そ、そんなつもりじゃないって。あれじゃ、誰だって滑るよ」

「そうだ、リエナ殿。運も実力の内だぞ。それにうらや……」


 隣に座っていたアリッサはそこまで言いかけて、言い淀んだ。


 俺は訊ねる。


「それに?」

「い、いや、何でもない。ただ、いい物を取れたようだから、良かったなと」

「もとはといえば、アランシアの人たちがあそこまで掘っていたんだ。俺が掘った部分はごくわずかだよ」

「そんなことない。私たちがあそこまで掘るなら、一年あっても無理だっただろう。そもそも、ヒール殿たちがいなかったら私たちは……え?」


 俺はアリッサの手に、世界樹の種を託した。


「これはアランシアの人たちのものだ」

「ま、まさか、私たちにくれると言うのか?」


 アリッサは首をぶんぶんと振って、種を俺の手に返した。


「さすがに、ここまでの物は受け取れない。文字通り、世界を変えてしまう樹だ。これがあれば、更にシェオールは栄える」

「アランベルクの下に埋まっていたんだ。俺は掘るという行為が一番の……じゃなくて、前も言ったが、俺たちはアランシアの人たちも豊かであってほしい。予言の危機に立ち向かうためにも」


 俺は世界樹の種を再びアリッサの手に戻す。


 種を神妙な顔で見つめるアリッサに、リエナが言う。


「このアランベルクに埋めましょう。もう残りの手持ちが少ないですが、太陽石というのがあります。一個使えば、シェオールと同じぐらいの大きさに成長するでしょう。場所はどこになされるか、決まっていますか?」

「確か、世界樹の下の植物は成長が促進されるのだったな。となると、市街の上に作るのは少々もったいない。畑にするなら、市街の奥、塔の近くの広場がちょうどいいだろう。防衛もしやすいしな」

「つまり、聖域の隣となるわけですね」


 聖域の者たちに見せつけるような位置になってしまうが、今の段階では城壁の外で埋めるのは少々厳しい。必然的に聖域の隣になるだろう。


「まあ、世界樹を見ればさしもの聖域の連中も、考えを改めるかもしれない。人質のルラットのことも気になっているだろうし」


 すでに、アランシアでは無数の魔動鎧が飛び交っている。

 これだけでも見た目のインパクトが大きいのに、そこに世界樹が加われば彼らもアランシアと聖域の力の差を認識するはずだ。アリッサの言う通り、聖域もそろそろ折れるかもしれない。


 もちろん、アランシアの民衆を見捨てていたのだ。

 その分、聖域はアランシアのために何ができるか考える必要があるだろう。


 そこまでは俺やシェオールが関わることではない。

 聖域とアランシアの民衆の間で妥協点を見つけてもらおう。


「それじゃあ、昼も食べたことだし、ともかく世界樹の種を埋める場所を下見に行くとするか」


 俺の言葉に、リエナたちも頷き席を立つ。


 そうして俺たちは食堂を後にし、塔の前の広場へ向かうことにした。


 ……そういえば、マッパは結局見に来なかったな。


「マッパさん、よっぽど忙しいんですかね?」


 リエナも俺と同じことを思っていたのか、不思議そうに呟いた。


「二人とも、本当にマッパ殿が好きだな。あの方も子供じゃないのだから、そこまで心配しなくてもいいのでは?」

「あれ? アリッサには言わなかったっけ?」

「何を?」

「マッパは子供なんだ」

「へ? は? え? ……ああっ!」


 アリッサは何かを思い出したような顔をした。


「そういえば、最初にヒール殿とお会いした日に、マッパ殿がいなくなり、子供だからなと言ってたな」

「そうなんだ。マッパはまだ、子供なんだよ」

「なるほど、それは心配なわけだ……行動を見る限り、色々合点も行く……と、というか、マッパ殿の見た目は置いておくとして。お二人はもう……そんなヒール殿に、私は……」


 わなわなと震えるアリッサ。


 そんなアリッサの肩を、リエナが小突いた。

 恥ずかしそうな顔でリエナは俺に言う。


「もう、ヒール様! 子供というから、アリッサさん勘違いされているようですよ! アリッサさん。マッパさんは私たちの子供ではありません。マッパさんは七歳ですし、私とヒール様が”運命的”な出会いをしてから、まだ一年も経ってないのですから」

「え? あ、ああ、そうなのか!? こ、これは早合点をした……」


 アリッサは俺に深く頭を下げた。


「い、いや気にしないでくれ。俺も言葉足らずだった。マッパはドワーフだから、人間から見ると少し老けて見えるんだ」

「なるほど。しかし、七歳にしてあの腕か……ドワーフおそるべし」

「他にもシェオールにはドワーフ……だったスライムがいるが、あそこまでの奴はいないな。マッパは特別だよ」


 そう答えると、リエナもマッパさんは本当にすごいんですよと、アリッサにシェオールでのマッパの活躍を話し出した。


 ……なんか、リエナってこんなに明るかったっけ? っと……あれはなんだ?


 街路を進んでいると、ある屋根の向こうで魔動鎧が仁王立ちしているのに気が付く。


 その方向に向かうと、アランベルクの広場の一つだった。

 そこでは、結構な人だかりができていた。


「なんだろう? アリッサは聞いているか?」

「そういえば、この街区の代表が今朝方、この広場での工事を申請してました。なんでも、シェオールの人に作ってもらうものがあるとか」

「へえ、なんだろう? 工事ってことは魔動鎧じゃないってことだよな……おお、あれは」


 広場にいたのは一号をはじめとした大型のゴーレムたちと、スライムたちだった。


 そして彼らに挟まれるように、マッパがいた。


「マッパ!」


 あいつの姿を見ると、どこかほっとしたような気持になる。

 俺はそのままマッパのもとへ早歩きで向かった。


 マッパは俺に気が付くと、ちょうどよかったと言わんばかりに手招きする。


「魔動鎧を組んでいたんじゃなかったのか? おお、これは」


 広場の中央にあったのは、巨大な噴水だった。だが、水はまだ流れていない


「こ、こんな場所に水が? この地区の井戸はほぼ枯れていたはずだが」


 驚くアリッサにマッパはある方向を指さす。


 そこではピッケルを持ったフーレとタランがいた。


「二人が水源を掘ってくれていたのか」


 そうと言わんばかりにマッパが首を縦に振る。


 ゴーレムとスライムたちは水を受ける噴水盤を作ってくれたのだろう。

 ところどころ広場の石畳の一部が真新しいのを見るに、地下には配管も通しているのかもしれない。


 そんな中、フーレが噴水の近くの取っ手を掴んで叫ぶ。


「じゃあ、水を通すよ! それっ!」


 フーレが取っ手を引くと、かすかにじゃぶじゃぶという水が流れる音が聞こえてきた。

 音が大きくなったと思うと、噴水の中央の柱から水が噴き出し始めた。


 すぐに広場が歓声に包まれる。

 皆、もう隣の街区まで水を汲みに行かなくてもいいと喜んでいるようだ。


「魔導鎧からなにまで。本当にすごいよ、マッパは」


 俺がそう言うと、まだまだとでも言わんばかりにマッパは指を振る。


 そしてある部分を指さした。


「あれは……?」


 広場に面したところに、周りよりも明るい色味の大きな建物があった。他のアランベルクの灰色の建物と違い、ベージュなどの明るい色をしている。


 アリッサが首を傾げる。


「あそこは古井戸と、放棄された倉庫だったはずだが」


 マッパは見た方が早いとでも言いたいのか、その建物へ向かうのだった。

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