表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/290

百九十話 観察しました!?

 アランベルクの各所から、歓声が上がっていた。


「勝った!」

「こんなに簡単に追い払えるなんて!」


 戦いは一時間もかからず終わり、死者はおろか負傷者すら出なかった。


 その上、シェオールの支援を受けていたとはいえ、自分たちの指導者であるアリッサが襲撃を退けたのだ。士気が上がらないわけがない。


 一方で俺は、アリッサとシェオールの仲間と共に、聖域との間に設けた城壁の上に立っていた。

 ここからなら聖域が一望できる。


 望遠鏡で聖域を覗きながら俺は言う。


「なんとか聖域も防げたようだが……」

「一部の緑地が燃えていますね」


 リエナの言う通り、緑豊かな聖地の一部に火が上がっていた。


「瘴気に毒された部分を燃やしてるのかもしれないな」


 俺の言葉に、隣のアリッサも頷く。


「以前、瘴気にまみれた小さな虫が入ってきたが、その虫を殺すためだけに一区画を焼いたこともあった。今回も何かしらに侵入されたのだろう」


 だが、本当に一部だけで、見たところ死傷者はいそうもない。襲撃は防げたと言って間違いなさそうだ。


 しかし、次は最初から聖域が狙われるだろう。


 それも防いだとしても、また奴らはやってくる。毎回、ああいった被害が重なれば聖域はやがて……


「……誰もが聖域は安全と考えていたが、鉄壁と思われていた聖域も、案外脆いのかもしれないな」


 アリッサは聖域を見て、静かに呟いた。


 そもそもアランベルクが滅んだとして、次狙われていたのは聖域だ。彼らはそうなっても防げるという自信があったのかもしれないが、敵を甘く見ていたのは間違いない。


 複雑そうな顔をしていたアリッサだが、首を横に振って言う。


「彼らは、アランシアの民の助けの声に耳も傾けず、ただひたすらあそこに籠っていた。彼らから助けを請われるまでは……いや、請われても多くの者が協力を拒むだろう」


 自業自得……アリッサはそう思っているのだろう。アランシアの多くの人もそう考えているはずだ。


 アランシアの人々はもちろん、シェオールの俺たちからしても助ける義理はない。


 だが、彼らが必死に協力を求めてきたら……俺は首を縦に振ってしまうだろう。


 そしてそうなることは、容易に想像がつく。


 しかし、死者が出るまで、彼らが助けを求めてこなかったとしたら──自業自得だから仕方ない、とは俺には言えない。俺とシェオールには助ける力があるのから。


 なら、聖域の首脳部を力でもって言いなりにさせるか?

 力を誇示する手もある。アリエスの洗脳の力もある。金銀宝石で買収してもいい。聖域にアランベルクに協力させるのは、そう難しくないはずだ。


 そんなことを考えていると、リエナが何かを察したのかこう呟く。


「もし聖域が滅んだ際、アランベルクは四方から囲まれることになります。そうなった場合、アランベルクの防衛は今以上に困難になりますね」


 リエナの言葉は事実だ。

 だから見逃さず聖域を助けてやる、というのはアランシアの利益にもなる。


 しかしアリッサが首を横に振る。


「襲撃をこれからも防ぐには、過去を水に流し防衛のために手を取るべきなのだろう。だが、少なくともしばらくはアランシアの人々は納得しない。向こうにしても、まだ余裕だと高を括る者が多いはずだ。とても協力など」


 アリッサが答えると、周りで聞いてたハイネスが口を開く。


「別に協力する必要なんてないんじゃねえか」

「え?」


 アリッサは首を傾げた。


「いや、必要ないというか、もっと他にやることがあるというか……なんて言うんだろうか、兄貴?」

「聖域の意思など関係なく、我らはアランベルクを守るためにもっと独自で色々手を打つべきだと言いたいのだろう?」

「そうだ! そういうことだ! さすが兄貴!」


 ハイネスとアシュトンの言う通り、協力する必要はないし、アランシアを俯瞰すれば彼らと手を組むかどうかは些細な問題だ。


 俺は頷いて言う。


「結果として聖域も助かっているというふうにするなら、そもそも襲撃をなくせばいいだけだからな」


 アリッサは不思議そうな顔をして訊ねる。


「襲撃をなくす? さすがにそれは」

「難しいことだ。しかし、いつまでもアランシアの人々もここに籠りっきりというわけにはいかない。食糧も今のままでは、偏りすぎている。昔の土地を取り戻さないと」

「確かに。今はシェオールに助けられているが、いつまでも頼りっきりというわけにはいかない」

「そこは心配しなくてもいい。だが、シェオールだってずっと安全かは分からない。だから、アランシアには自給自足はもちろん、他の地域を助けられるようにもなってほしいんだ。そのためにはずっと守ってばかりじゃなくて、こちらから攻めて領地を取り戻すのも必要だと思う」


 メルに大地を浄化させ、少しずつ城壁で安全圏を広げていくのだ。エルトとロイドンに頼んだ常緑石もあれば、周囲を緑化し農業も再開できる。


 アリッサは少し考えると、首を縦に振った。


「そうだな。日に日に襲撃の規模も増している。このままでは座して死を待つだけだ。聖域のことにかかわらず、我らは我らで土地を取り返そう」

「なら、襲撃がどこから来るのか、原因がどこにあるのか調べよう。シェオールももっと遠くの海を調べたり、アランシア周辺も探索したい。襲撃の頻度や経路がつかめれば、対策もしやすい」

「ああ……だが、また力を借りることになるかもしれないな。特に城壁はとても私たちでは」

「それは気にするな。俺も、”ここら辺”は気になっていたんだ」


 アリッサが首を傾げる中、俺はアランシアの黒ずんだ大地を見て呟くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ